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恋する氷華の星間戦争  作者: 遊観吟詠
破章一、氷華編
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2-(3) 氷華と重量制限

 天儀てんぎ電子戦司令部サイバーフォースに長居し、昼過ぎに去っていった。

 翌日、電子戦司令部サイバーフォースから千宮氷華せんぐうひょうかを含めた三人の電子戦科でんしせんか出身の将校と電脳科でんのうか技師ぎし3人が近衛軍このえぐんの第二戦隊へ移動となった。


 第二戦隊に移動となった氷華の勤務先は、第二戦隊旗艦陸奥(むつ)

 現在、その陸奥はグランダ首都惑星である天京てんけい高軌道上こうきどうじょうにあるドック大光たいこうに停泊中。

 ドック大光は、天京の高軌道上にある大型艦も収容可能な宇宙港うちゅこうだ。


 いま氷華は防衛省人事局からでた指定の日に、陸奥艦内の司令室に行くようにという辞令を一課の課長から受け取っていた。

 辞令を受け取る氷華は、無表情のジト目。


 対して課長は、厄介者が去るという喜びの色を隠しきれず辞令を言い渡していた。

 

 氷華は自身の席に戻りつつ辞令の内容を携帯端末上で確認。

 指定された日には……。と、辞令を黙読しつつ

「私以外の陸奥のブリッジ要員も、この日に集められると」

 と、氷華がひとりごちる。

 

 なるほど、つまりこの日に、戦隊中枢要員が集められるわけですね。

 と、氷華は解釈した。

 旗艦のブリッジ要員は、そのまま戦隊の中枢にスライドするのが普通だ。


「大光へ行くのには、軌道エレベーターですか」

 辞令を受け取り長官の前を後にした氷華が、まずそう思った。


 軌道エレベーターは、惑星表面から静止軌道まで軌道でつながれたエレベーター。

 地表と人工衛星とが軌道で繋がれているものを想像すればいい。

 二つを繋いだ軌道に、箱を走らせ宇宙に出る。


 低軌道ていきどう静止軌道せいしきどう高軌道こうきどうにステーションが設けられ、各ステーションからシャトルへ乗り換え、目的の宇宙施設へ向かう。

 

 ドック大光は、天京の高軌道にある大型船舶が利用な半官半民の宇宙港で、ステーションから近く非常に利便性が高い。

 

「ま、大光ならシャトルの数も多いでしょう」

 と、氷華は大光までの道のりを思いながら取り出した携帯端末けいたいたんまつを操作する。

 指定の陸奥の情報を見るためだ。

 

「陸奥は、母艦や巡洋艦ではなく、確か戦艦のはず」

 

 氷華は、そんなことを口にしつつ軍のデーターベースに、接続し

『陸奥』『戦艦』

 と、手早く打ち込み画面へ戦艦陸奥の情報をポップアップさせた。


 立体投影を切らずにいたので、戦艦陸奥の像が氷華の顔めがけて飛び出した。

 陸奥は流線型りゅうせんけいのボディに、四つの連装主砲塔を持つ大戦艦。

 その戦艦の映像が氷華の顔面に向かって飛び出たのだ。

 

 思わず氷華が、

 ――うひゃぁ

 と、声にならない声で、仰け反ってから、周囲を気にするようにして取り澄ます。


 電子機器のスペシャリストである電子戦科の氷華が、この失態は恥ずかしい。

 取り繕った氷華が、あらためて画面へジト目を落とし、ざっと情報を拾っていく。

 

《戦艦陸奥、改修工事中。》

《定期点検及び、老朽化対策のための施設工事。合わせて一部装備の更新中。》


《改修工事中》

 この文字に、氷華の思考が疑念で停止した。

 

 改修中とは解せませんね。改修工事にでも参加するのでしょうか。

 カナヅチでも持ってトンカントンカンなんて……まさかね。


 着任する艦が、改修工事中といのはありうる。

 だが改修工事中の艦へ、乗員が呼び出されることはめずらしいはずだ。

 訓練を行うにしても、同型艦や、艦内再現をした施設、シミュレーターを使う。

 

 ――改修工事を手伝うのか。まさか。

 そんなことを思いながら氷華は、続いて私物持ち込みの重量制限を検索。

 乗り合いのシャトルなどは違い、長期滞在する宇宙船での重量管理は厳重だ。


 軍の場合は、自身の身長体重と体組成という肉体データに、階級、職、これでおおよその持ち込める私物の重量が決まる。

 階級が高く、良い役職にあれば、当然私物の持ち込みも優遇される。


 そして体の大きさも、この判断基準。

 有り体にいえば、『デブ』と判断されると、私物の持ち込みが制限されるのだ。

 肉体だけで、艦内空間を占拠しているのだから、手持ちは少なくしろという、懲罰的な制限だった。

 

 民間でも採用されており「ブタ判定」などと、業界によって様々な隠語があり、ハラスメントにもつながるので廃止が検討されているが、結局私物持ち込みの重量制限は撤廃できないというのも現実だった。


「まあ、私の場合は、おデブちゃん制限に引っかかろうが困らない」

 と、氷華は思う。


 軍務での乗り込み、豪華客船でのバカンスではないのだ。普通私物はさほどない。誰もが個室や少人数部屋を与えられるわけでもない。

 ただ、人によっては大量の美容品を持ち込むので、死活問題でもあった。

 

 「私ならアクセサリーと、私服が少し。化粧品は、最低限のものを持ち込み。あとは艦内で買えばいいですね」

 これが氷華の考え。


 氷華は手早く端末を操作し、持ち込み重量制限を知る前に、陸奥艦内で販売されているものを確認し余裕だ。

 

 なお余った重量制限を、個人間で融通するのは厳禁。管理が煩雑になるからだ。

 ただ、そこにも多少の融通はある。

 同じ班の娘のシャンプーなどを代わりに持ち込む程度なら黙認される。

 

 あと艦内生活で必要といえば、お金。

 様々な物品を売る酒保の利用や、一部の艦内サービスは有料。

 だが、実態通貨などと呼ばれる。いわゆる現金など今時誰も持たない。

 そう通貨は、ほぼ情報上の存在。


 ただ貨幣も死滅してはいない。

 主に、記念通貨、記念紙幣としてだ。

 500円の硬貨を記念貨幣として数千円で売りつけるのだ。

 これは権限を持つ各行政体の商売の一つだが、現金が活躍する場がもう一つある。 

 

 ――正月だ。

 

 今でも正月には、子供がお年玉を紙の袋に入れられ受け取る。

 これは出身地域にもよるが、少なくとも氷華の家ではそうだった。

 随分とめずらしく、氷華も毎年楽しみにしていたのを覚えている。

 

 なお正月明けには、実体通貨を電子化するために郵便局や銀行に、親子連れが押し寄せる。

 

 そんなことを思いつつ携帯端末を操作していた氷華の動きが、陸奥への私物の持ち込みの重量制限を調べるところで止まっていた。

 

 繰り返すが、軍の持ち込み制限は、身体データ、階級、役職で決まる。

 氷華は、階級はあるが

「まだ陸奥で、何をするのか決まってないのですが」

 というのが、今の氷華だった。

 

 氷華も電子戦司令部サイバーフォースで電子科の自分が、電子戦関連の仕事を担当するのはわかるが、正確な役職がわからない。


「移動の辞令はすでに出ている。どうすればいいのですかこれは」

 と、思った氷華が、はっと気づき携帯端末を操作。


 そう辞令はすでに出ているのだ。辞令を見れば、役職が書かれているかもしれない。


 が、数秒後

「ない」

 と、氷華が、うめいていた。

 

 無表情のジト目で、氷華が猛烈な勢いで携帯端末の操作を開始する。

 自身の私物の重量制限を知るためにだ。

 

 重量制限は、自分には関係ないなどと高をくくっていた氷華だったが、彼女にとっても、どの程度美容品とアクセサリー類など身の回りのものを持ち込めるかは死活問題。

 先程までの余裕はどこへやら喘いでいた。

 

 その後、氷華は十分ほど携帯端末と格闘。陸奥乗員名簿から自分の個人データを閲覧し、重量制限を知ったのだった。

 この時点で、千宮氷華は、艦上勤務に疎かった。慣れたものなら自身の重要制限などおおよそ見当がつくし、最初から陸奥の乗員名簿にアクセスする。

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