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恋する氷華の星間戦争  作者: 遊観吟詠
破章五、模擬戦編
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6-(9) 模擬戦(下)

 その後行われた二回の天儀とトロウスの模擬戦。

 二回目は、天儀側、陸奥むつ大破。トロウス側は愛宕あたご微損。

 三回目は、天儀側陸奥(むつ)中破と榛名はるな大破。トロウス側は比叡ひえい中破。

 

 模擬戦は天儀一勝に対し、トロウス二勝で幕を閉じた。


 模擬戦後の懇親会こんしんかいで、トロウスは模擬戦の結果に満足した様子で会場に姿をあらわしたが

 

「トロウス司令、今日はどうも貴重な時間をさいて頂き恐縮です」

 と、天儀に声をかけられると、顔から血の気が引き狼狽。


 長身で恰幅かっぷくのいいトロウスが、眼鏡の位置を直しながら小さくなるばかり。

 トロウスは二勝一敗だったとはいえ、勝負という観点では一戦目が全てだった。


 トロウスの心中では、

 ――負けた。

 という惨勝ざんしょうの思いが強い。


 アキノックは、その様子を小気味よく眺めていた。


「人を押さえつけるといっても色々な方法があるが、トロウスみたいのを大人しく従わせるとは上手いことやるぜ。天儀はトロウスを陰湿な毒ごと一呑にしちまったな」


 アキノックが、そういうと横にいたエレナも応じていう。


「驚きました。トロウス司令は純血派じゅんけつはです。天儀司令は純血派が毛嫌いする抜擢組ばってきぐみ。トロウス司令の中で、この矛盾をどうやって処理したのでしょうか」


「大方、みかどに目をかけられているから天儀は特別だとか、都合のいいように処理したんだろ。男は目に見える力に弱い」


「なるほど、殿方も大変ですね」


「ま、あれだけ力の違いを見せつけられたら仕方ない」


「男性は、それで納得するものなのですか」


「いや、人によって反応は違うな。ねちっこく恨み続けるやつもいる。ただ軍人ってのは誰でも実力主義だ。それにわをかけて男ってのは強いものには弱い。単純だよ」


「面従腹背で天儀司令の足を引っ張らないでしょうか」


「わからん。ただトロウス自体は仕事が雑ってわけでもないし、敵にしなければ害の少ない男なんだろ」


 アキノックの感想が終わると同時に2人の会話が止まった。

 トロウス側の比叡と愛宕の艦長2人が、近くを通ったのだ。


 アキノックもエレナもにこやかに会釈をして、両艦長をやり過ごす。


 アキノックの前を通り過ぎる2人は、疲労の色が濃くやつれが見て取れた。一戦目の衝撃が大きすぎたのだろう。

 

 ――あれは今日で10キロは痩せたんじゃないか。

 アキノックは思わず2人の背中を見送りつつ内心苦笑してしまった。


 なお懇親会では、トロウス艦隊の電子戦担当の乗員達を中心に、誰が一回目の超級戦艦ちょうどきゅうせんかんの擬似情報の骨格を組んだかで持ちきりだった。


 そう氷華は会での話題の中心。

 会場の話題を、華麗なるセシリア嬢でも、美しすぎる補佐官エレナでもなく、千宮氷華が独占。


 容姿ではなく、純粋に電子戦能力への賞賛。氷華も悪い気はしない。

 氷華は、天儀の方をたまに気にして見てみたが、天儀はトロウスと話し込んで氷華の視線に気付いたふうはない。


 ――まあいいですけど、褒めてくれましたし。

 そう氷華は思って、模擬戦終了直後の天儀とのやり取りを思い出していた。


 天儀は、氷華から提出された模擬戦記録の確認を終えると一言。


「よくやった。完璧だ」


 短いが声に重みがある言葉で、心底感謝しているという感じがこもっていた。


 対して氷華も一戦目の興奮を引きずっていた。


 氷華としては、自分の疑似データをあそこまで上手く使ってくれるとは思わなかったのだ。

 必死に作った戦艦武蔵(むさし)も、使い方を間違えればゲームの映像以下。何の価値もない。

 

 仮に天儀の使い方がまずく、不発に終われば、無駄なものに時間をかけたと嘲笑ちょうしょうの対象にすらなりかねない。


「いえ、司令がすごいです。よくぞ使ってくれたと思います。どんなに精巧に組み上げても、所詮はデータです。偽物と見破られないには工夫が必要です」


「見直したか」


 氷華は無表情のジト目に力を込めて激しくなづいた。


 氷華は天儀の近くにて、この男、本当に大将軍になって大丈夫なのかと不安をいだかなかったといえば嘘だ。

 

 そんな不安が、今日一気に吹き飛んでいた。


「だが、今日の主役は君だろう。よくやった。懇親会では祝福を受けてくるといい」


「そんな。あれです。疑似情報を展開するタイミングがすごいです。私は電子戦指揮区画で金剛のブリッジ内の映像をハッキングしていたのでわかりますが、疑似情報展開の瞬間、金剛のブリッジは動揺の波で洗われ乗員たちは完全に平静を失っていました」


「覗き見していたのか」

 

 そう笑う天儀。


「武蔵の虚像に、完璧に騙されているということは、カメラ映像及び音声を転送させるぐらい楽勝です」


「なるほど、まあ行こう時間だ」


 氷華は天儀にそういわれ、いざなわれるように陸奥ブリッジを出たのだった。


 もう少しゆっくり話したかったな、などと思いつつも氷華は、いまは会場の祝福を素直に受けることにした。


 電子戦は目に見えない戦い。目に見えて華々しい戦果が出ると影に隠れがち、中々評価されることもない。

 

 いま、氷華は周囲の祝福に身を任せることにしのだった。

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