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恋する氷華の星間戦争  作者: 遊観吟詠
破章四、足柄京子・アキノック編
36/126

5-(5) 宇宙最速との邂逅

榛名艦長はるなかんちょうのエルストン・アキノックです。ご足労おかけしましたね」


 いまアキノックは、第二戦隊司令天儀(てんぎ)を敬礼とともに、にこやかに出迎えていた。


 第二戦隊旗艦陸奥(むつ)と第四戦隊の榛名はるなは、予定の座標で特に問題なく合流。

 

 この合流で陸奥は榛名の指揮下に入り、天儀は秘書官千宮氷華(せんぐうひょうか)を伴い陸奥から接続艇(ランチ)という短距離移動用の通船つうせんで榛名へ乗艦。


 いま、アキノックと補佐官ほさかんエレナの前に、背は小さいがさわやかな挙止きょしの男が堂々と立っていた。

 

「第二戦隊司令天儀。ご指示に従いまかりこしました。ご迷惑をおかけします」


 名乗り出たアキノックへ、天儀が一礼とともに応じていた。天儀の一礼に合わせて、天儀に同行してきた小さな女もお辞儀じぎをした。


 挨拶が終わると同時に、天儀がこぶしを突き出す。

 それを見たエレナが慌てて天儀から何かを受け取るように一歩前にでた。

 天儀は陸奥のコントールキーを差し出していたのだ。

 

 コントロールキーがエレナからアキノックへ、手渡されるのを確認してから天儀があらためて敬礼。


 それにアキノックが応じて敬礼したのを、確認したエレナが、


「では、貴賓室きひんしつへとご案内いたしますね」

 といって、いざなうように進みだし、全員が続いたのだった。


 ――変わったやつだ。

 これがアキノックの天儀への第一印象。


 自分より天儀の方が、階級は上のはずで、しかも戦隊司令。アキノックは一艦長にすぎない。

 それが天儀のアキノックへの態度が丁寧ていねいすぎるのだ。


 ――だが、慇懃無礼いんぎんぶれいというのとは違うな。

 ともアキノックは思う。


 天儀の出迎え任務と聞かされたアキノックは、面倒くさい任務を押し付けられたと感じ辟易へきえき


唐公とうこうを独断でぶっ殺すような男だ。めんどくせえぐらい血気盛んな男だろな」


 そう内心覚悟をしていたぐらいで、天儀の嫌味いやみのない慎ましい態度は、アキノックにとって好感を伴った驚きを覚えさせていた。

 

 この天儀の人物像への想像は、アキノックとともに天儀を出迎えた補佐官エレナも同様。


 エレナなどは、一癖も二癖もある相当に凶悪な男を想像していた。それが、目の前にした天儀は荒々しさなど片鱗へんりんもない。


 エレナは、物腰丁寧ものごしていねいな第二戦隊司令天儀を見て驚き。

 

 ――大人しそうで、礼儀正しい男

 というのが、エレナの天儀へ印象となっていた。


 アキノックとエレナの両名ともに、天儀への最初の印象は、好感を伴い記憶にきざみつけられることとなっていた。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 榛名はるな艦内を貴賓室きひんしつ へと進む一行。


 アキノックは、自分の横を進む天儀へそれとなく視線を向け

 ――思っていたより随分と小さい。

 そんなことを思いあごをかいた。

 

 そう天儀は、アキノックが想像していたより小さい男だった。192センチのアキノックよりだいぶ小さく、天儀は160センチ代だろう。

 

 想像は無限だ。アキノックは、天儀の身長と体重を事前に知っていても、あの唐公を誅殺した男と思えば、心の何処かで自分と同じか遜色そんしょくないような堂々とした体躯たいくの人物を想像してしまっていた。それこそ鬼のようなだ。

 

 それが、いまアキノックは、完全に天儀を見下ろす形となっている。不思議な感覚だった。

 アキノックの目の中で、真っ直ぐ前を見て歩を進める天儀。


 アキノックが、こんな男が本当にあの侈暴しぼうを極めた唐公を殺したのか、とすら思い天儀をながめていると、天儀がさっと顔を上げて微笑ほほえんだ。

 

 まるで

 ――鬼じゃない。ただの人間ですよ

 というように。


 これに天儀をのぞき見るように観察していたアキノックは面食めんくらい。バツの悪さを感じ、鼻をかいてごまかした。

 しかし一方の天儀といえば、さして気に留めた様子もなく、すでに前を向いて歩いてる。


 アキノックは、続いて天儀に同行してきた小さな女へも観察の目を向けた。

 秘書官の千宮氷華せんぐうひょうかだったか。こいつにいたっては胸がなきゃあ子供に見えるな。9歳の俺のめいより小さいぜ。と、アキノックは内心苦笑した。

 

 もちろん9歳の女児じょじより小さいということはおそらくない。アキノックは、顔のいい女性を見て想像をたくましくし、ニヤついただけだ。

 

 アキノックからの視線を感じたのか氷華が、そのジットリした目でアキノックを見上げる。

 

 ぎくりとしたアキノックが、

 ――えらく目のわった女だな

 などと思いながら、やはり気まずそうに視線を外した。

 

 アキノックとしては、それとなく見ているつもりなのに、何故こうもバレバレなのか。

 アキノックは居心地悪そうに、少し首をひねり進んだのだった。

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