↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋する氷華の星間戦争  作者: 遊観吟詠
破章三、四知・権道編
PR
21/126

4-(1) ドック海明へ

 唐公《とうこう》の誅殺《ちゅうさつ》から数時間後。

 宇宙戦艦《うちゅうせんかん》・陸奥《むつ》は、その流線形《りゅうせんけい》のボディに赤や青、緑のナビゲーションライトを輝《かがや》かせ、黒い宇宙を進んでいた。

 

 ドック海明《かいめい》へ向かう、その姿は、さながら真っ暗な海の底を、体を明滅《めいめつ》させながら泳ぐ深海魚《しんかいぎょ》のよう。

 

 広大な宇宙空間にあっては、人類《じんるい》も深海魚も同じ。姿を隠すより、自身の存在を知らせることが重要。

 小型のドローンから巨大基地《きょだいうちゅうきち》まで、あらゆるものが宇宙では発光体《はっこうたい》だ。


 そんな輝く船体《せんたい》の中、陸奥ブリッジあって電子戦指揮官《でんしせんしきかん》および秘書官《ひしょかん》の千宮氷華《せんぐうひょうか》は懸念《けねん》を抱えていたのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 陸奥ブリッジで氷華は、目下《もっか》の懸念《けねん》を天儀《てんぎ》へ問いかけた。

 

「いまから海明宙域《かいめいちゅういき》、いわば敵の本拠地《ほんきょち》に入るわけですが、単艦で大丈夫でしょうか。妙高《みょうこう》、羽黒《はぐろ》のどちらかだけでも残すべきだったのでは」


「だからこそだ。これららドック海明へいく。彼らの随伴《ずいはん》は好ましくないな。変心《へんしん》して後ろから刺されたら困る」


 氷華が、ジト目をそのままに、むむっという顔をしてから、確かにと納得《なっとく》した。


 両艦の艦長は、唐公派《とうこうは》として有名だった。随伴すれば、氷華の電子戦室《でんしせんぶたい》が監視《かんし》をし続けることになるだろう。

 それは手間だった。

 最初から信用していないなら帰してしまうというのは、合理的《ごうりてき》ではある。

 

「セシリーは、随分《ずいぶん》と世間体《せけんてい》を気にしていましたが、大丈夫でしょか」


 氷華が次に疑問《ぎもん》に思うところを口にしていた。

 軍内で嫌われている恒星衛社《こうせいえいしゃ》だが、世間ではどうか。

 

 氷華が思うに、やはり嫌われている。


 帝の権威《けんい》が高まるともに、その後を追うように唐大公《とうたいこう》という巨大な存在が首をもたげ、隠然《いんぜん》たる力を持ち国内に蟠踞《ばんきょ》し、政界《せいかい》に唐公派などという派閥《はばつ》が形成されるようなったのだ。


 グランダ議会は、与野党に加えて、三つ目の存在朝廷の勢力があり、そこに新たに唐公派が加わり、四勢力がときには対立し、ときには合同し、状況によって集合離散するという状況になっていた。

 

 ――あまりいい噂《うわさ》は聞かないですが、隠然たる力を持つ唐公を誅殺すれば反響《はんきょう》が大きい。

 と、いうのが氷華の危惧《きぐ》だった。

 

 唐公の死で、起きる大波《おおなみ》が、どこへ向かうか氷華には見えない。

 

「軍では嫌われていますが、唐公を支持する人々もいるのも事実です。現に、いま入ろうとしている海明宙域《かいめいちゅういき》では、唐公は慕《した》われているように思いますが」

「世の中そう甘くはない。恒星衛社《こうせいえいしゃ》は、これを機会に排斥《はいせき》されるだろう。議会内で嫌われているという事実は重い」


 氷華の疑問に対し、天儀の応答は断言的《だんげんてき》だ。

 まるでこのあとの展開《てんかい》がはっきり見えているように。


 だが、それでも不安の消えない氷華は

「そうでしょうか。唐公家の支配は、海明星《かいめいせい》だけでなく第二星系全体ですよ。大丈夫でしょうか。星系まるまる1個の支持があるというのは私には重いように見えます。」

 より具体的に懸念《けねん》を口にした。


「10数年前ならいざしらず、今の政府は健常化《けんじょうか》している。第二星系内で、絶大《ぜつだい》な権勢《けんせい》を誇っていた唐公の死という機会を見逃さないだろう。唐公家の扱いには手を触れずとも、必ず社の解体《かいたい》に入る」


 それでも不安げな氷華へ、天儀は微笑《びしょう》してから

「帝《みかど》に甘さはない」

 と、いった。

 

 天儀は暗に、唐公誅殺《とうこうちゅうさつ》は、朝廷《ちょうてい》へ根回《ねまわ》しがあり、皇帝の了解があると氷華へにおわせたのだ。

 そして天儀は、さらにダメ出しように、いったあとに口元に、思わず吹き出すような笑みを見せた。

 

 氷華は、

 ――その笑顔はずるい。

 と思い押し黙った。

 

 真剣な顔に、突如愛嬌(あいきょう)のある笑み。

 そんなふうに笑われては、丸め込まれるしかない。と思い、なんとも、もどかしかった。

 

 ただ氷華は、もどかしさの先に、皇帝もしくは朝廷から暗黙の了解のようなものがあるとは気づいた。

 

「根回しはなさったのですか。なるほど、そこは抜かりがないと。私たちはドック大光《たいこう》にあった陸奥ブリッジで、最初この計画を聞かされた時には恒星衛社《こうせいえいしゃ》を倒せると、浮かれていましたが、確かに独断《どくだん》でこんな行えません」


 生真面目《きまじめ》にいう氷華。天儀が、たまらず一笑《いっしょう》した。


 氷華から見て、その笑いはまるで

 ――物は言いようだな。そういわれると、そんな気もする。

 というような軽薄《けいはく》な色が混じった笑い。

 

 あわせて氷華は、天儀が言葉の直後に笑いを見せたことで、けげんなものが胸懐から抜け切らない。

 

「本当に、大丈夫なのですか」


 氷華の抜け切らないけげんが、天儀への確認の言葉となって出ていた。


 氷華からすれば、唐公の訃報《ふほう》に、軍人は誰もが喜びそうだが、政界《せいかい》や朝廷《ちょうてい》がどう動くかなどとても知れない。

 仮に唐公誅殺が、法的に正当性《せいとうせい》がないと認められなければ、危《あや》ういどころの話ではない。


 だが、天儀は

「その時は、その時だ」

 そう軽く流してしまった。

 

 氷華がジト目を強くしながら天儀へ向け、そして嘆息《たんそく》した。

 

 いま氷華の目にする天儀には、唐公誅殺が、法的に誅殺として認められなければ、仕方ないというような色さえある。

 この天儀の態度は、氷華に、よほど自信がるのだろうが、駄目《だめ》だった場合は潔《いさぎよ》く諦《あきら》めるという割り切りさえ感じさせた。


 ――もう、これ以上、問い詰めても何なさそうね

 と、氷華が思うなか、天儀が


「帝《みかど》は、私をお使いになる。外を攻めるには、先ず内がためから。腹が痛くては、戦おうにも剣など抜けない。恒星衛社《こうせいえいしゃ》の排除《はいじょ》は戦争を再開するには不可欠だ」

 そういって眼光《がんこう》を鋭《するど》くしていた。


 なるほど、氷華からして、唐公と恒星衛社《こうせいえいしゃ》の存在は、グランダにとっては頭痛《ずつう》や腹痛《ふくつう》のようなものだというのはわかる。

 

 ――腹痛は、戦う前に治しておきたい。

 こう思えば、戦争前に唐公と恒星衛社を排除しておく合理性《ごうりせい》もある。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 氷華が納得するなか、陸奥《むつ》は目的地であるドック海明《かいめい》へ近づいていた。

 

 いま、陸奥が向かう大規模軍用《だいきぼぐんよう》ドック海明の責任者は、千早宗介《ちはやそうすけ》。

 千早家《ちはやけ》は、唐公家《とうこうけ》とは縁戚《えんせき》。

 

 唐公誅殺は、陸奥がドック海明に入る頃にはグランダ国内に出回っているだろう。

 唐公の親戚《しんせき》である千早宗介《ちはやそうすけ》が、陸奥と天儀に対してどう出てくるかは、全くの不明だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。