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恋する氷華の星間戦争  作者: 遊観吟詠
破章十三、終戦編
126/126

14-(12) 氷華と天儀 (-最終話-)

 この日、千宮氷華せんぐうひょうかは朝議の行われている集光殿しゅうこうでんへ向かっていた。

 

 集光殿とは、「光を集める」というところからきている朝廷の中心にある建物。

 

 ――宇宙の叡智を集める。なーんて意味ですかね。

 氷華は集光殿の門扉をくぐりながらそんなこと思い。それにしてはおべっかつかいが多い気がしますが、などと内心苦笑。

 

 氷華が集光殿をおとずれたのは、ここが天儀のいまの職場だからだ。

 

 今日は氷華の業務が早く上がるので、天儀と待ち合わせを約束。

 ――今日は、どこへ連れて行ってくれるのでしょか。

 そんな浮かれ気分をかかえる氷華は、いつものジト目に将官の制服。ただ、トレードマークの白衣はまとっていない。


 ――さすがにデートに白衣はないのです。

 

 軍服は問題ない。時間の短縮にもなるし、いまは戦勝のおかげで軍服は、

 ――カッコイイ。

 と、注目すらされている。今年に限ってはミリタリー系の服装は、ちょっとしたお洒落だ。


 氷華は、アウトドアで着ていく人間はいませんが、町中を散策ぐらいなら多いのです。そんなことを考えながら集光殿の敷地へ足を踏み入れた。


 そう氷華は天京てんけいに帰ってきて以来、天儀に時折誘われるようになった。少し進展した2人の関係。


 いまの天儀は軍人という身分だが、廷臣として朝議にでるのが仕事。

 そして朝議というぐらいなので、天儀の仕事は氷華と違いだいたい午前中で終わる。


 ――ズルいですね。

 などと思う氷華は軽薄だ。


 廷臣たちは、午後は外朝に敷地にある建物で実務。

 天儀も大将軍府を閉じるためにひたすら事務仕事だ。


 氷華は、天儀を待つのに集光殿の敷地内にある待合のための殿たてものへは行かずに庭園へ向かった。


 まだ少し時間が早いので、集光殿のよく手入れされた優美な庭園を散策して待つ。


 ――今の時期なら花が多く咲いていて綺麗でしょうね。

 氷華は花の色彩と風にのってくる香りを想像しつつ庭へとでた。

 宮殿内でも集光殿の庭は、出入りを特にとがめられることはない。


 だが、氷華が庭園を散策していると、どうも集光殿の方が騒がしい。

 

 ――なんでしょか?

 と、氷華はけげん思い殿たてものへ目を向け、


 ――帝はいませんね。

 まずそう思った。


 朝集の間の中に帝がいるときは殿たてものの周囲に衛士がゾロゾロしているのだ。


 ――では、騒ぎの原因は帝ではないですね。

 氷華はそんなことを考えつつ足を踏み出す。


 帝が退出したあとだと衛士の監視もそこまで厳しくない。氷華は集光殿の中が覗けるぐらいまで近づいてみることにした。


 どうも揉めているようだ。氷華がさらに確認するように覗くと、揉めている渦中の中心に居るのはきらびやか服を着た男と、

 ――げ、天儀さん!何してるんですか!


 氷華が驚くなか、きらびやかな服の男が腰の刀に手をかけ、天儀にりかかろうとしていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 退廷してくる天儀に、氷華が近づき、

 

「あんな場所で、めずらしい物が見れました」

 と口火を切る。


 天儀は、氷華から声をかけられても憮然ぶぜんとして黙って進む。2人は、そのまま邸内を後にして、タクシー乗り場へ向かった。

 

 氷華が憮然とする天儀へ、


「ジュウドー技を使いましたね」

 と、さらに言葉を重ねると、天儀が、


「違う。突き飛ばしたら勝手に転んだだけだ」

 と突っぱねた。


 ――突き飛ばしておいて、勝手にころんだとはいわないのでは?

 氷華が、そんな意味の視線を向けると天儀は、


「あの程度、押したぐらいで転ぶのは、勝手に転んだのと同じだ。大げさなやつだ」

 と、憤然ふんぜんといった。


 ――おお、すっごい怒ってますよこれは。

 怒る天儀に、氷華は面白さすら感じ、天儀をジト目で観察。


 怒りを受ける側に余裕がれば、猛る人間ほど滑稽こっけいなものはない。怒る理由とは他人から見れば下らないからだ。


 いまの天儀の曹沖に対する、いや厳密には曹沖とのいさかいへの不快も氷華からすれば、

 ――あんな小物に一々腹を立てても不毛です。

 というもので、腹を立てるのも損というものだ。


 早く忘れるのが一番。


 だが、そうもいかないのが不快に晒されたものの怒りだ。


 いま氷華の目に映る天儀は、まるで子どものようにへそを曲げている。


 氷華は、そんな天儀を見て鼻で嘆息一つ。

 ――黙っていれば悶々(もんもん)とするだけですからね。

 と、思い、


「相手が勝手にころんだと言いますけれど、でも突き飛ばすときに足を引っ掛けていましたよね」

 そう声かけた。いらだっている場合は会話で気を紛らわせるに限る。

 

「あれは、たまたまだ。踏み出した時に、股の間にあしが入っただけだ」


 天儀のあまりに斜め上の応答。氷華は、ああ言えばこう言うとはいいますが、

 ――どんないいわけですか、それ!

 と、ただあきれるしかない。


 氷華があきれていると、天儀は、俺は畳の上以外で柔道技は使わない、といってから、


「俺が投げたらあんなもんじゃすまない。顔面から落とすか、肩が砕けるぐらい床に打ち据えるぐらいはしてやる」

 と、さらに真っ赤になった。


「でも馬乗りになったあと、ひじえてましたね。あれには引きました。とどめの一撃ですよね」


 いいながらも氷華は無表情、肘を振って見せ、目撃した天儀の動作の真似をする。


 そこで天儀の顔が、

 あ……。

 となった。


 天儀はやっと氷華におちょくられているのだと気づき、気を抜かれて怒りが消えていった。

 

 バツが悪そうに頭をかく天儀に氷華は問う。


「で、誰なんですか殴っていたのは」


「殴ってはいないが、揉めていた相手は共和国九卿きょうわこくきゅうけい典客曹沖てんきゃくそうちゅうだ。大したものではない」

 

 怒りが抜けたように見えて、あくまで暴力を振るってはいないと言いはる天儀。氷華は、この人はこういうところが子どもじみているなと思いつつ、


「大丈夫なのですか?」

 と、少し心配そうに口にした。相手が誰であれ殴った事自体大問題だ。


 そして、こんな質問をする氷華は朝廷の事情に全く詳しくない。いや興味が無い。軍内で電子戦司令部サイバーフォースは帝や朝廷の権威とはかなり遠い位置にある。


 いまのグランダ星系軍は、大勢として帝に忠誠心が篤いが、軍全体で見ればその勢力は三割程度だった。


 あとは氷華のように興味が無いか、小さな派閥に分かれている。このため、その三割程度が軍内で唯一まとまった数となっていた。

 

 天儀は、ふんっと鼻を鳴らしてから、氷華の問いに応じていう。


「恥を公にするようなものだ。問題にはされないだろうが……。いや、そもそも最初に刀に手をかけたのは相手だ。そうだ。そう考えると一発くれてやったぐらい大丈夫だ」

 

 喋り出しは気まずそうだったが、言葉の最後で思い出したようにいう天儀。


 これに氷華は思わずおかしくなる。殴った理由を忘れていたらしい。よほど頭に血が上っていたのだろう。


 ――どんだけ顔真っ赤なですか。

 氷華は天儀へジト目を向けながら苦笑した。


 ただ、とうの天儀は、あまり面白くなさそうだ。当然だ。他人とのいさかいが面白い人間はいない。

 

 それ見て氷華は、この話を続けるのを切り上げた。氷華からしても大して面白くない話題だ。天儀の表情の変化と応答が面白いだけで。


「ま、いいです。今日どこへ連れて行ってくれるのですか。この前の歴史資料館はびっくりするほど面白くなかったのですが」


拝領はいりょうした宝剣が飾ってあったのに……」

 そう悲しそうにいう天儀に、氷華はにべもない。


「あの綺麗な剣ですね。さも自慢気に話していましたが、クロームメッキされていようが所詮青銅製の剣では、鋳潰いつぶしても指輪にもなりません」


「金銀、プラチナだったらと言っていたな。あれは傑作だった。せっかく案内をつとめてくれた館長の内心はいかにというところだ」

 

 苦笑する天儀が、宝剣の話題で思い出したことを口にする。


「そう言えば、私が帝へ剣が欲しいと言ったら子黄(しこう)様は苦い顔をしておられたな」

 

 子黄と聞いて氷華の眉が少し動いた。

 

 ――あの恐いお爺さんですか。


 朝廷に興味の薄い氷華も、戦前に集光殿をおとずれた際に、子黄の激風にさらされていた。


 氷華の脳内に、子黄の情報が次々浮かび上がる。盲目の老人で先帝の太傅。皇室関連の話題が出ると必ず名前が出る老人だ。古琴の名手だという。いまの帝の信任も篤い人物。など、など。


 立場は朝廷内のご意見番という感じらしく、廷臣相手にはもちろん帝相手でも正言を吐いてはばからない。

 

 あの怖い老人に、天儀さんは目をつけられて大丈夫なのですか、と氷華は心配だ。


「あんな大層な歴史遺産をねだるからです。ただの銅製の剣で職場での心証を悪くなされるなら、煙草入たばこいれにでもしておけばよかったんです」


「私は、煙草は吸わないからもらっても仕方ないのではないか」


「美術館に飾ってあるだけの宝剣だって使えません。ならば使わない煙草入れをもらっても同じでしょう」

 そうにべもなくいう氷華に、天儀が笑った。


「国宝を要求とは、わがままを言い過ぎたのではないですか」


「そうではないだろう。下賜かしとして刀剣の部類は微妙だから子黄様は気難しい顔をなされたのだろう。褒美に剣なんぞねだるなど無粋なやからといったところだ」


「何故ですか?」


「普通、武具の類なら弓箭きゅせんか、古代なら戦車だろう。ベターな下賜としては帯留めや冠帯かんたい金帛きんぱく、あとは酒かな。剣はやはり微妙だ」


 氷華が分からないといった顔でジト目を天儀へ向ける。

 何故剣が駄目なのか。いまの天儀の言葉からではわからない。


 古代の宝剣というのが過大な要求だったのではというのは、すでに天儀が否定してしまっている。なら刀剣そのものに、忌避される言われがあることになる。剣が何故駄目なのか氷華にはわからない。


 氷華は最近になって気づいたが、天儀には、主語を省く癖がある。自分が言いたい部分しか口にしない悪癖。天儀と会話していると、前提の共有がないまま勝手に話を進めることがあるので、天儀の言いたいことが氷華につたわってこないことがままある。


 今回も、

 ――剣は何故不適切なのか。

 と、問いかけているのに、天儀にはそのことは当然の認識としてあるようで、無視するように思い浮かんだことを口にしているだけだ。


「相変わらず主語を省く人ですね。何故剣が駄目なのか聞いているんですが?」


 天儀が、氷華の非難にはっとして気づき、すまないという素振りで応じてから喋りだす。天儀は、氷華から度々この前提の話や主語を言わない話し方を注意されているが中々かなおらない。


自裁じさいさせるときに必ず剣を下賜するからな。不吉だ。すでに古代の時点で、いつごろからか有耶無耶うやむやになってしまっているが、褒美として刀剣の類は本来適切ではないな」


「はあ」

 と、それでも分からないとったようすの氷華。


 氷華にも自裁とは、つまり自殺ということは分かる。自殺させるために剣を与えるのか。確かに不吉だ。でも刀剣の類は、よく下賜品として配れられている気がする。氷華も士官学校を主席で出た折には短刀を下賜された。


 ――適切でないのに、こんなにバンバン配るのでしょうか。


 氷華のなかに、天儀のいっていることは勘違いではないのか。という疑問がもたげた。


「死んで詫びろと言う時に、必ず剣を与えるんだよ。貴人には鴆毒ちんどくが渡されるが、それ以外は普通は剣だ。その場で、その剣を立ててその上に倒れ込んで死ぬか、家に帰って自らその剣で首をねて死ぬ感じだな」


「げ、そんな意味があったんですか」


 いわれた内容は、先の言葉と大して変わらないが、具体的な死に方をいわれると説得性があった。


「そうだよ。今の朝廷もそうだが、いつごろからか軍関係者には短剣などをばらまくようになっているが、本来下賜としての剣は不吉だな」


「でも、やはり刀剣の類は、よく配られている気がしますが」


「それが不思議だ。ただ剣自体はむしろ魔除けの意味もあって、そのものは邪ではない。かなり早い時期から、あまり細かいことを気にしなくなったようだ。それに死を言い渡すほど関係が悪化している場合、わざわざ剣を与え自裁を促すことも稀なんだろう。大体、死ねと渡したその剣で斬りかかられたら困るからな」


「ま、天儀さんならそうしそうですね」


「そうなのか。私はそんなイメージなのか。参ったな。愚直な臣のつもりだったのだが」

 と、天儀が苦い笑いを見せた。


 氷華はジト目で天儀を見る。氷華から見る天儀は、剣を渡されて死ねと言われてもとても大人しく死ぬようにはとても見えない。


「と言うより私も短刀を拝領しているのですが、卒業の時に集光殿でもらいました」


「はは、それはその短刀で敵を刺して殺せとういうことではないぞ。進退きわまったらそれで自決しろということだ。受け取ったということはそれを了解したということになる」

 

 氷華の顔が露骨にうんざりしたものになる。

 

 ――何気なくもらったあれにそんな重い意味があったとは。


 それに氷華は短剣なんてもらっても使い道がないと思いつつも、綺麗な装飾がしてあり悪い気はしなかったのだ。まあ、もうどこにしまってあるかは分からない程度のものだが、いまの天儀の言葉がなければ綺麗な剣をもらって嬉しかったという悪くない思い出だった。それがいま、天儀のせいで素直に喜べなくなった。


 なお軍内では氷華のように単なる名誉と考えるものの方が当然多い。将校の中には、式典などで、下賜された短剣を誇らしげに下げてくるものも少なくない。


「氷華は偉い約束をしてしまったな」

 と、天儀が面白そうにいった。


 からかいの言葉だ。天儀から見て氷華がそのようなことを念頭に置いて短剣をたまわったとは思えない。くれるというならもらっておこう程度だろう。


 天儀は同時に、朝廷は狡猾こうかつだなとも思った。短剣を賜っても、純粋に喜ぶか、氷華のように興味がないかだろう。


 だが下賜される短剣を受け取るということは、帝に身命をして働くと忠誠を誓ったということと同意義である。これに法的な効力はないが、それでも本人の知らぬ間に重い約束をさせているのだ。


 天儀にからかわれた氷華は、

 ――むっ。

 となった。そして不満げにいう。


「でも知っていても断れませんが?」


 どう考えてもそうだった。雰囲気的に断れるわけがない。帝や朝廷にたいして興味ない氷華でもいざ下賜されるものを断れるかと言われれば無理だ。式典の最中に、それを止めて要りませんとでもいうのだろうか。どう考えても無理だ。となると否が応でも命に関わる契約をするはめになる。

 

 軍人になった以上、そこはこだわるところではない気もするが。天儀にからかわれたのでむきになった。

 

「俺は最終的には受け取りはしたが、最初は辞退したぞ。身に余るとな。こうしておけば自決しなかった角で責められても言い訳が立つ瀬がある」


「なと!ずるい人です。それに最終的に受け取ったということこが竜頭蛇尾りゅうとうだびな感じがします」


「そうだろうか」

 と、天儀が笑った。


 氷華が軽薄な感じの天儀に非難の色でジト目を向ける。


 天儀がそれに応じて、


「死んで本意が成せようか」

 と、いってまた笑った。


 氷華は、そんなことを言って生にこだわる天儀に、むしろ状況が揃えばこの人はあっさり死んでしまいそうだなと真逆のことを思った。

 

 天儀は慎重に見えて、行動する時は思い切ったことをする。かつ性急さがあり、加えて潔いというイメージも何故かある。


 進退窮まれば、躊躇せず自決しそうだなという危うさを感じた。氷華にとって、あまり面白くない想像だった。

 

 氷華は天儀へあらためて目を向け、

 ――大丈夫なのかこの男は。

 と思ったのだが、そんな自分の気も知らず天儀は機嫌良さそうしている。集光殿での典客某てんきゃくなにがしとの不快ないざこざなど、氷華と喋っていてもう忘れたようだ。

 

 氷華は小さく嘆息してから機嫌良さ気な天儀へ、


「で、話を戻します。今日はどこへ連れてって頂けるのでしょうか」

 と、いって併せてジト目を向けた。今日は、大丈夫なのかという問いだ。この前の博物館はつまらなかったのだ。

 

 天儀が、これに自身ありげに応じる。


「任せてくれ。まずは昼食だ。いいところを予約しておいた」


「そのいいところとは、最近話題の民族料理店ですか」


 この氷華の言葉に、天儀がピクリと反応した後に固まる。その様子をジト目で確認した氷華。

 

「やはりそうですか。その後のデートコースも理解できました」


「何故それを……?」

 天儀が表情をこわばらせうめいた。


「先日、セシリーと会ったんです。その折に、彼女が天儀さんへ雑誌を手渡したとことが話題に出ました。色気づいた雑誌名を検索すれば一発ですよ」


 そういって、携帯端末へ雑誌を表示させ、天儀が予約している民族料理店の記事部分をポップアップさせた。雑誌で一番お勧め店だ。


「随分と俗的な手段を選択してしまったと、我ながら思ったが、こうもあっさり見破られるとは」


「セシリーが、誰とデートするんですかねーなんて私をいじり倒してきました。今後は相談する相手を考えて下さい」


 これに天儀が、気まずそうに頭をかくような仕草をしつついう。


「水族館は自信があったのだが」


「死ぬほどつまらないですよ。しかも死体みたいな魚が面白いとはこれはいかに。ただペンギンは可愛かったです」


 天儀が、もうどうすればいいのかわかららないといった表情になる。


「スポーツ観戦もだめでしたね。天儀さん自身が、スポーツに興味が無いと理解できました。自分が面白くないものに誘うのはどうなのでしょうか」


「植物園の時は、じめじめしていて嫌だと言う感想だったな」


「しかもお土産で買っていただいた。サボテン。もう枯れました。不吉すぎます」


「まじか。それは悪いことをした。随分気に入っていたのにな」


 サボテンが枯れたのは、何も天儀のせいではないが殊勝にそういう。

 

 そこで天儀が気づいたようにいう。


「いや待て、海へのドライブは良かったろ」


「まさか。免許がオートマ限定なのはいいです。でもハンドルを握るのが、免許をとって以来とは夢にも思いませんでした。殺す気ですか」


「電子頭脳さまさまだな。運転補助機能はすばらしい。問題なく運転できたな」


「どこがですか。びっくりするぐらい下手で、帰りは交代どころか、行きの途中で交代して私が運転したのですが。乗用車がまともに運転できないとは、どうやって宇宙航行免許一級をお取りなったのですか」

 

 これに天儀がやけくそ気味に笑う。


 帝に星系軍に抜擢された折に、勝手についてきたとは絶対に口にしてはいけないな、というのも、このごまかしの笑いに含まれている。正確には抜擢後の研修期間に然るべき教習を受け取得しているが、免許を下ろすことがありきなうえに、内容はかなり短縮されている。

 

 なお宇宙航行免許は、宇宙船の大きさに応じて、五級まであるが星系軍に所属し艦艇を動かすことを仕事とする士官学校卒業者は、一般的には難関とされる一級を当たり前に取得している。

 

 ――この話題が深く進むと不味い。

 と思った天儀が、強引に話を進めた。


「大型レジャー施設は、氷華も興味がなかったな」

 

 天儀は映画やキャラクターがテーマの施設を思い浮かべそういった。

 だが氷華は、天儀が思い出したのと別のテーマパークを口にする。


「いえ、あれは一番面白かった。まさか絶叫系があれほど苦手とは、是非またお願いします」


「そっちか。任せろ」

 

 男らしくいった天儀だったが、顔から血の気が引いて明らかに嫌がっている。

 それを確認した氷華は、面白そうに少しくすりと笑った。

 天儀は、天儀で氷華の笑いを目ざとく見とめ、


「わかった。君は、私を見て楽しんでいるのだな。その意味で、今までのチョイスは外れではない」

 と力強く断言して歩みを早めた。タクシーを捕まえるためだ。

 

 2人の目の前にタクシー乗り場が迫っていた。


 乗り場にはタクシーが、数台とまっているが、朝議が終わる退廷の時間帯は利用者が増える。

 

 氷華は、先を歩き出した天儀の背中へ、


「食事の後の映画は、見たいのがあります。それに変更して下さい」

 と、注文を投げた。


 天儀の様子から雑誌の一押しのコースをそのまま採用したと思われる。

 食事の後は、映画だ。雑誌で一推しされていた映画に氷華は興味がない。


「任せろ!乗ったら教えてくれ、変更しておく」


 この天儀の応えに、氷華が嘆息。やはりコースは、雑誌のそのままのようだ。しかも天儀は、もうそれを隠そうともしない。


 氷華は、ほんと変な人です、と思いながら天儀の後に続いたのだった。


 『-完-』

 お読みいただき本当にありがとうございます。


 私は作品をWeb上に投稿するというのが初めてで、いま思えば「小説家になろう」に不慣れどころか「Web小説」というそのものに疎かったです。当然、このような状態では序盤で早々に行き詰まりました。そんなヘタレで見ず知らずの私へ親切におアドバイスをくださった方々には感謝してもしきれません。


 そして、そんなWeb小説ドビギナーで鈍感な私も〝126部〟を連日投稿してみたことで、自分の作品が数多の作品のなかにあって「どういったレベルにあるか」というのは薄々ながら自覚できました。

 けれど、だからといって大げさに感謝の言葉を口にしても、逆に自身の作品を口辛く自己採点してもどちらにせよ滑稽でしょう。

 しかし、その上でいま公開されている作品をざっと眺めてみれば、ストーリーとか作品文体・文章力という内容以前に、やはり、

「読む側にかなり大きな負担をかけしまう文章レイアウト」

 という反省はきわめて大きいです。

 そういったことを踏まえれば、やはり読んでいただいた方々には頭が下がるばかりです。本当にありがとうございます。


 この変な文章レイアウトは苦肉の末に、こうなってしまったとしかいいようがなく。これがこの作品を書いた時点での私の精一杯の実力です。

 70部超えた辺りで「もう少し読みやすい形にしたほうが?」とも迷ったのですが、すでに投稿数が多すぎて直せませんでした。また途中で変えるより、このまま最後までいったほうがいいという判断で進めました。


 あと次回作は『夢見る鹿島の星間戦争』です。(*URL:http://ncode.syosetu.com/n2492eb)

 作品を投稿し終えたことと、新作についても、まだまだ書きたいことはありますが活動報告のほうに書かせていただきます。

 最後にこの作品を読まれ方々が日々の煩わしさを少しでも忘れられたのなら、私としては無常の喜びです。では、次回作でまたお会いしましょう。

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