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恋する氷華の星間戦争  作者: 遊観吟詠
破章十三、終戦編
119/126

(閑話) 天童正宗と天儀

 会戦後、天童正宗てんどうまさむね天儀てんぎは、毎晩夕食をともにするという奇妙な関係が続いていた。

 

 毎日、顔を合わせる星間連合軍のトップと、グランダ軍のトップ。


 正宗は、

 ――奇妙な。

 と、思いもするが捕囚ほしゅうというはずかめを受けているとは感じなかった。


 星間会戦に敗北してから今までグランダ軍の管理下にあった正宗だが、個室に監禁されるというような扱いは受けていない。


 そして――。

 自分は、まだ司令長官を解任されてはいないし、辞任もしていない。それに講和の文章への調印式には軍の代表が必要。正宗がいま司令長官を辞めれば軍の代表は、

 

 ――前の司令長官か。

 と、正宗は思うもすぐに打ち消す。前の司令長官は随分と高齢で起き上がれるかも怪しい。それに若い正宗を司令長官へと押した恩人でもある。そんな恩人に、自分の尻拭いはさせたくない。

 

 となると、

 ――朱雀かな。

 と、正宗は思うが、こちらも親友で、親友に敗戦責任を負わせるのは心苦しい。それに朱雀にはグランダ軍の再建、いや、両国が一つになったあかつきにできるであろう新軍の創建に力を注いでもらいたい。


 正宗は、

 ――敗軍の将として調印式に臨む。

 それが自分最後の仕事だと心に決めていた。


 また正宗は自分の世話を担当してくれているセシリア・フィッツジェラルドという女性から、暗に申し訳ない扱いをしてしまって、などという気づかいを向けられたが、


「式場へむかう足が、何であろうと些細ささいな問題でしょう」

 という度量を見せていた。


 どうせ自分も講和の文章への調印式には同席するのだ。式場へアマテラスで向かおうが、大和で向かおうが些細な問題。これが天童正宗だった。


 そして正宗は、天儀と夕食をともにすることで、天儀と自分は全く価値観が違うということ痛感する。

 

 これは最初に大和艦内で初めて対面した時から感じていたことだったが、とにかく正宗が話を合わさないと天儀との会話が成立しない。しかも正宗から見て、天儀の興味示すところはかなり限定的な範囲に限られたし、その見識も浅い。


 ただ悪い印象だけに終止したわけでもなかった。天儀は自分へかなり気を使ってくれており、それが真心から出ていると感じされたからだ。


 ――この男には信があるな。

 と、正宗は感じた。


 そしていま天童正宗は、調印式会場の控室にいた。

 

 室内はいかにも星間連合の装飾そうしょくといった赤絨毯あかじゅうたんに豪奢なカーテン。天井には控えめだがシャンデリアだ。


 だが正宗のいる控室は星間連合側ではなく、グランダ側だ。


 ――我々はもう友ですから。

 といって天儀が強引に正宗をいざなったのだ。


 というよりミアンに降り立って、首都ラバルム入りしてからも天儀が正宗から離れない。宿舎はもちろん同じで、会場入りする車では2人並んで座っていた。

 

 正宗からして、天儀の意図に気づかないはずがない。


「天儀は徹底的に自分と星間連合関係者との接触を断ちたがっている」

 

 どう考えてもそうだ。そして天儀のやり口はなかなか強引で幼稚。

 

 だが、自分が大和艦内で過ごした日々を考えれば、天儀とは、

 ――まあ、友達。

 といえなくもないので、正宗は苦笑しつつ従い、グランダ側の控室にいた。


 いま控室で調印式を待つ正宗。

 そんな正宗の視界に入るのは、姿見の前で服装を整えている天儀。


 正宗には、この男を見て色々なものが胸中をよぎる。

 例えば妹の天童愛こともそうだ。

 

 正宗は一度も自分から妹のことを口にしなかったが、天儀も、

「会いたいか?」

 ということは一度としていわなかった。

 

 これは意識しているなと、正宗は感じていた。これは互いにだ。自分も妹に会いたいと思っているし、天儀も兄妹を対面させてやりたいという思いはあるようだ。

 

 だが天儀という男は、正宗と妹の愛が対面することで生じるリスクをかなり警戒している。正宗は天儀から、

 ――妹さんとは会わせない。

 というという無言の圧力を感じた。


 そして大和での日々を思いだせば、正宗はかなりこの天儀という男に、気を使われていた。

 

 正宗は夕食後には決まって天儀から各種娯楽に誘われ、映画などの鑑賞もした。遊戯はトランプなどのアナログな物が多かったが、第一星系アミンへ入る前日の夕食後には、チェスに誘われた。

 

 正宗は内心この提案に驚いた。

 

 天童正宗は、両国の合わせたチェスの星系間ランキングの、

 ――〝上位〟。


 妹の天童愛も同様だ。


 正宗が、天儀の真意を察しかね観察するような目を向ける。

 天儀の顔には、これまでどおり人当たり良さそうな表情で、特にこれといった深い意味はなさそうだ。


 ――なるほど、これは知らない。

 と、正宗判断した。


 天儀は毎回食後の遊戯に違うものを提案してきていた。今回たまたまチェスだっただけだろう。

 

 天儀は正宗がチェスの世界ランカーだと、知らない。ということは、天儀はチェスにうといとも推察できた。

 

 この時点で正宗の選択肢は固まった。三度ほど対局して、二勝一敗にでもしようと、天儀へ二勝させて花を持たせる。予想が外れて強いなら真剣に対局すればいいだけの話だ。


 実際対局してみて正宗はまた驚いた。天儀の指し手が早い。


 指し手に迷いがないといえば聞こえはいいが、どう見ても何も考えずただ駒を前に進めてくるだけだ。


 ――わざと負けるにしてもこれでは逆に難しい。

 と、正宗は内心苦笑した。


 いや目の前の駒を取ることしか考えていないのならば、取りやすいように駒を動かすだけでいい。

 

 正宗がポーンを前にすすめる。気の無い手だった。


 天儀が即座に、


「なるほど、手を抜きましたね」

 と、口元に笑みを浮かべながらも指摘した。


 正宗が驚きの表情で天儀を見て、そして思わず、

 

「それがわかるのになぜ」

 と、口にしていた。

 

 なぜの続きは口にしない。なぜこんなに弱いのかという話だ。

 これに天儀が笑いながら応じる。


「やはり弱いですか」

 

 その言葉に正宗も、はい、とは肯定しがたく笑ってごまかすと天儀がいう。


「だったら負けてはだめですよ。私はここで貴方に勝ったら、一生天童正宗にチェスで勝ったと豪語しますよ」

 

 これに正宗が思わず笑った。


「では、私が大将軍グランジェネラルに勝てば、一生、そう言えるということになりますがいいのですか?」


「負けは素直に認めます。それにゲームです。体面を気にするほうが無様だ」


「所詮ゲームですか」

 

 正宗が少し寂しげにいった。皮肉ではないが、会戦で負けるのと遊びで負けるのとでは大きく意味が違う。

 

 だが、これに天儀が強く応じた。


「いえ、万事につけてです。正宗長官がそうしたではないですか。会戦後の戦後処理の見事さは星間連合側に主体がある」

 そういながら手を進めた。

 

 またよくわからない手、いや悪手だ。なぜそこでクイーンを動かしたのか。三手先にはそのクイーンは盤上から消える。

 

 正宗も手を進めながら、

 

「素直に賞賛されと受け取っておきます」

 と、応じた。


「人は死地に望んで、その真価が問われる。追い込まれた時に見せる態度と行動、そして言葉。見られているものですよ。戦闘終了後の星間連合軍の去就は見事の一言に尽きる」

 

 言葉を終えた天儀がまた手を進める。

 

 今度はナイトを動かした。正宗のポーンが盤上から消えたが、これで天儀のクイーンはもう盤上から消える事が決定された。

 

 手を進めながら天儀が、


「戦後処理は、国家統合も含め星間連合の主導で進められるでしょうね。我々が勝ったのに困ったものです」

 と、気なくそう口にした。

 

 驚いて正宗が顔を上げる。天儀は盤上を見つめて真剣に次の手を考えている。

 特に深い意味もなく、何気なくそう口にしただけのようだ。


 毎日夕食をともにし、こうやって食後の時間を過ごしたことでお互い気を許す面は出ていた。天儀に正宗への敵意は全くなく、正宗も誠実な男だった。


 価値観や性格の合わない2人だが、共に害意はないので、さほど悪い関係でもない。

 正宗は少し踏み込んだ質問をすることにした。

 

 負けた自分が問えばみじめになるだけなので今まで避けてきたが、天儀は敗者を辱める。そいうことはしない男だと正宗は理解していた。

 

 だったら、どうしても聞きたいことがあった。

 

「何故、戦争をしようと思ったのですか」

 

 正宗は、まっすぐ天儀へ視線を向けて問いかけた。


「勝てると分かっていましたからね。それに負けたら負けたでこの戦争は終わります」

 

 突然の正宗の問いに天儀は特に驚かずに応じた。


「なるほど、なんにせよ望んだ結果が得られるとお考えになったと」


「引き分けになると困りましたね。秘密ですよ。とんでもなくいい加減な発言だ。それに私は勝つことしか考えない」

 

 そう天儀が笑った。目は盤面を見たままだ。


「でも大変だったでしょう。貴方あなたには当たり前でも周囲の認識は違う。周りが馬鹿に見えてしょうがないということになりかねない」


 正宗は若さゆえにときおり周囲の理解力の低さに苛立いらだちを覚えることがあった。それが天儀を前にして言葉に出ていた。愚痴ともいっていい。


 正宗からして、天儀の口にした「勝てることは分かりきっている」というのは、周囲からはさほど理解を得られなかったはずだと容易に推察できる。

 それを丹念に人々へ説得していき、戦争までこぎつけたということは想像に難くない。


「それは言い過ぎです。ただ勝ち方が、わかりきっているのにそれをしないというのは、私には理解しかねたというはあります。それに私にとって他人から理解されないなど、生きていれば常態と言っていいようなものだ」


「そうですか?あと戦っても利益がない。戦わなくても両国は結局統合されていったとはお考えにならなかったのですか」


 正宗は別の角度から問いかけた。そして自分が、少し感情的になり語気が強くなっていると自覚した。


「その間お互いを仮想的に見立てて、軍事的なデモンストレーションを行い続けるのですか。無駄どころか滑稽だ」


 だが、天儀から返ってきた答えは、正宗が期待したものとは違った。いや正宗自身どんな答えを期待していたのかわからない。だが、天儀にあまりに戦争をするという大前提がありすぎた。

 

「まあ、いいです。大将軍が最も得意とするところで解決を試みたと」

 

 正宗は、これ以上話しても仕方なさそうだと判断し乱暴に話にひと区切りさせた。

 

 ――天儀と自分の考え方は随分違う。

 これが頑然たる事実だと正宗は思う。


 一区切りついたことで、天儀がその先の話題に踏み込んでいく、


「そうです。そして戦争にはあらゆる選択肢があります。選択肢が多いなら最短で結論にもって行く手法もある」

 これに正宗がうなづき続きをうながす。


「でも実行できる行動は、自ずと限られます。保持する戦力、地勢的条件、時間的拘束、そして条約などもそうだ」


「わかります」


「そうなると実際に行える手というは限られます。グランダ軍の選択肢は自ずと限られますが、見方を変えればこれは星間連合側も同じです」

 

 そいういと天儀は、


水明星すいめいせいから重鼎じゅうてい、そして星間会戦まで、私には一本の道筋が見えた。それだけに話です」

 と、結論を口にした。

 

 ――勝てる。

 これが、天儀が戦争をしようと思った最大の理由。目的は戦争を終わらすこと。

 

「そして話は簡単だ。それをするにはツクヨミから出てきてもらえばいい」


「確かにそうですが、でも我々には出ないという選択肢はあった。恥を忍んで敢えていいますがね」

 

 正宗がむきになっていった。これに正宗は自分でも驚いた。


「そこです。両国の軍人たちは、何故かその点ばかりに着目していた。両軍ともにツクヨミしか見ていない。私は不思議でしょうがなかった」


「この戦争の争点は、ツクヨミでした。ツクヨミが焦点になるのは当然なのでは」


「そうでしょうか。それはリスクを背負う気のない体の良い言い訳です。例えばツクヨミから出てこないのであれば第二星系、第三星系、第四星系を荒らしまくれます。星間連合艦隊がツクヨミのある第一星系から出てこないなら好き勝手できるのに」


 星間連合艦隊が、第一星系から出ないのであれば、他の星系の安全保障に問題が生じる。事実、4回の星間戦争のうち3回も星間連合の最外の水明星はグランダ軍の餌食になっている。

 

 ただ、天儀が事もなげに放ったことにも穴がある。それが両国の軍がツクヨミにこだわった理由でもあるのだ。

 

「無防備宣言した宇宙施設を襲う倫理的な問題を抜いても、第一星系の星間連合艦隊を無視して、それらの星系を攻撃すれば、グランダ軍は連絡線を遮断されますが」

 

 そうツクヨミ内の艦隊を無視して、他の星系に触手を伸ばせば、グランダ軍は背後を脅かされる。

 

 だが、天儀は、


「遮断するには、星間連合艦隊は、第一星系から出る必要がある。ほら戦えますよ」

 そいって朗らかに笑った。バカにした調子ではない。

 

 ――どうです?

 というようにいう天儀には、人懐ひとなつっこさすらある。


「なるほど、あなたは証明した。返す言葉もない」

 

 正宗も目を伏せて口元に微笑を浮かべて返した。


 ――心底合わない男だ。

 と、正宗は思った。おそらく天儀も同様に感じているだろう。


 正宗が右へ行くと判断するときに、天儀は必ず左へ行くと結論する。悪い男ではないが、決定的に合わない。


 その日の夕食後のチェスは、正宗の三勝で時間がきて終わった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 天儀が娯楽室ごらくしつを出ると情報部のセシリア・フィッツジェラルドが待っていた。

 

 正宗への対応は、セシリアが任されているので、セシリアは夕食に同席することもあったし、食後の娯楽をともにすることもあったが、今日は夕食後の2人の様子を覗きにいくために、紅茶を運んだ折に確認しただけだった。


「今日は随分と難しいお話をなされていたのですね」


「上手く乗せられた。喋らされたな。頭がいいだけある」


「そうでしょうか」

 

 セシリアには、正宗も感情的になって喋っているように見えた。


「何故戦争をしたと問いつめられた」


「あら問いつめられたのですか意外です。紳士的な方だと思っていましたのに」


「いや、これは比喩的表現だ。彼に問われるということは、そういうことだ。適当な返答は出来ない」


「私、そこは聞いていませんでした。それでどうお答えになったのですか」


「役割に徹したという意図を伝えた。私は軍人だからな。戦いで解決したというようなことを言ったよ」

 

 そこへ後ろから声がかかった。


「以前、ともにさせていただいた夕食での会話では、明らかに天童正宗が天儀さんへレベルを合わせていましたから、そのうち余計なことを喋らされるとは思っていました」

 

 ウエーブのかかった長い黒髪に、軍服の上に白衣を羽織ったジト目の女。千宮氷華せんぐうひょうかだった。

 天儀とセシリアの2人の体が氷華の方へ向き、視線も氷華へ向けられる。


「その点私は完璧でした」

 そう誇らしげにいう氷華にセシリアが、

 

「終始黙って、話しかけられてもジト目を返すだけなのはどうなのでしょうか」

 と、ため息を吐いた。


 氷華は以前、天儀と正宗の夕食会に参加していた。その折の話だ。


「大丈夫だ。私が完璧にフォローしておいた」

 そう笑っていう天儀に、氷華が応じる。


「私の言葉を勝手に代弁してましたね。おかげで天童正宗の中で私はスイーツ好きの森ガールになっていると思われるのですが」


「確かに実態とはかけ離れた千宮氷華像になってはおりましたけれど、あの状況では致し方無いですわ」


「でも口内炎こうないえんが痛くて喋れないは苦しかったのではないでしょうか」


「バクバク料理を食べてたからな」

 

 天儀が、さもおかしそうにいった。


「おかげでデザートの柑橘系かんきつけいを食べそこねました」


「あれは腹がいっぱいになったから遠慮したのではないのか」


「当然です。柑橘系は私の好物です。天儀さんの適当なお言葉のつじつまを合わせるために意図した行為です」


「そうだったか悪いことをした」


「ちなみに天儀さんが、私の好物だとおっしゃっていたりんごは好きではありません」

 

 セシリアは、氷華を見ていて可笑しくなる。氷華は親しい人間の前では口数が多いくなる傾向があるが、天儀の前では特に多い。


「しかもあの後どうして広まったのか、手紙とともにりんごが私の部屋に送りつけられてきました。生のりんごですよ。信じられますか。迷惑な話です」


「宇宙での生鮮食品は、貴重品ですから好意を示すには格好の贈り物ですわね」


「食堂でもりんご味のシャーベットを特別サービスされる始末です」

 

 セシリアが苦笑した。セシリアからして、氷華が子どものようなやり方で、天儀の気を引こうとしているように見えて仕方ない。わざわざ自分が異性から好意を持たれているというようなことを匂わせる話題を口にして。

 

 だが、とうの天儀のこの会話の主題は、あくまで天童正宗から動かなかった。


「だが今日、彼と深い話をして分かったことがある。天童正宗は誠実な男だ。私とは彼とは何もかもが合わないが、あの大才を敗戦の責任を取らせることで終わらすのは惜しい」


「思考能力が宇宙並、ウィザード級と呼ばれる電子戦能力の持ち主ですからね」

 

 天儀が、この氷華の『宇宙並の思考力』に強くうなづいた。


「そうだな。上手いことを言う。だが唯一戦争には向いていない」


「あら、そうですの。敗れはしましたが優秀な軍人と思いますが、海賊討伐しかり、電子戦司令部時代の実績もウィザード級の名に相応しいものですけれど」

 

 このセシリアの言葉に、天儀は、


「彼の才能は軍隊という狭い枠内で使うだけででは惜しいと、言い換えればわかりやすだろうか」

 そういうと、何思ったのか当然力強く、


「だが彼は勝敗の原理を知らない。これが、正宗が敗れた理由だ。私は知っていた、その差だ」

 と、傲慢ごうまんに言い放って歩き出してしまった。

 

 突如燃え上がったようになって去っていった天儀の背中を氷華とセシリアは見送るしかない。


「なんで唐突に自分のほうが強いなどと宣言したのでしょうか。意味不明です」


わたくしたちが、あまりに天童正宗を持ち上げるので気分を害していたのかしらね」


「さあどうなんでしょうか。私には『俺のほうが、俺のほうが』といったような子どもじみた競争心に見えましたが」


「氷華さんが、天儀さんに自分はモテる、みたいなことを仰ったから気分を害したのでなくて?」


「まあ、天儀さんは、モテなさそうですからね」

 

 氷華がそういって鼻を鳴らすようにした。

 セシリアがこれに苦笑する。


「地球暦時代の軍人には変人が多かったと聞きますが、天儀さんにはその傾向がありますわね」


「そうなのですか。昔の軍人には変人が多い。知りませんでした」


奇行きこうも多いですし、人格障害としか思えない方が多いですわよ」


「まあ、天儀さんはそこまでではないです」


 氷華が、そうフォローしてから歩き出す。セシリアもそれに続く。

 

 好き勝手いっていた2人だが、氷華もセシリアも普通の範疇はんちゅうには収まらない変人であることには変わりがなかった。

 

 歩き出した2人の間に、しばらく沈黙が流れたのは、それを自覚して微妙な気分になったからだった。

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