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恋する氷華の星間戦争  作者: 遊観吟詠
破章十三、終戦編
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(閑話) 試作機凶星

 ――武装解除ぶそうかいじょ

 とは小銃から艦艇まで、あらゆる兵器の鹵獲ろかく接収せっしゅうも意味する。

 会戦でグランダ軍を危機たらしめた二足機凶星(きょうせい)もその例外ではない。


 宇宙最強をうたわれた凶星部隊の残存機は、研究と調査のため大和格納庫へ移されたのだった。


 そんな折に天儀は、大和兵器廠長やまとへいきしょうちょう林氷沙也加りんぴょうさやかから、

 

「どうしても大将軍グランジェネラルに直接確認を取りたいモノがあります。できれば1人で、おこし頂けないでしょうか」

 という内々の連絡を受けたのだった。


 天儀は第二格納庫へ向かった。第二格納庫には鹵獲された凶星70機が収容されている。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 星間連合軍の決戦機凶星の発想は、約90年前にさかのぼる。


 発端は機械工学博士きかいこうがくはくしであり理学博士りがくはくし

 ――アデライード・アビトワ・アベーユ。

 が、生命と機械の融合実験体をおこない成功。


 実権の内容は、猿の脳みそとドローンを接続し動かすというもの。まさに悪魔の実験といっていい。

 

 この実験の最終目的は、

生体演算処理装置せいたいえんざんしょりそうちの開発」。

 

 最初の実験はネズミの脳から始まったが、これらの一連の実験名は博士の名前の頭文字を取り総称して『AAA実験』や『トリプルエー』と呼ばれる。


 ――脳に電極を繋いで、義足や義手を動かす。

 これは生命倫理に違反しないが、


 ――生物を機械の一部として組み込む。

 これはあらゆる生命倫理規定に抵触する。


 ――では車に人間が乗って運転するのはどうか?


 AI搭載前の車両は走らすのに運転手が必須だ。こうなると運転手は車を動かす部品の一部に見えなくもない。


 こう考えると、何が良くて、何が悪いか。というのは微妙な線引であるともいえる。だが『AAA実験』は越えてはならない一線を越えた悪魔の実験だった。


 アデライード博士は人間の脳を演算処理えんざんしょり記憶装置きおくそうちとして、二足歩行機を動かすことを構想。

 

 現行のコンピューターに不満なら、

 ――脳を積んでしまえ。

 

 子どもでも思いつきそうな安直あんちょく短絡的たんらくてきな発想である。実現可能かどうかは別としてだが。幸か不幸か、アデライードにはそれを実現できる能力はあった。


 そもそも発端は二足機のコックピットスペースの問題。コンパクトさが求められる二足機にはスペースの問題が常に存在し、もっとも場所をとるのがコックピット。そして人間の体格にはばらつきがある。


 ――人体は規格統一されていない。

 これはアデライードにとっては不合理だった。


 アデライード博士はこの問題の解消に、

「脳だけを機体へ積む」

 という結論に至る。


 猿の脳みそドローンの実験がおおやけになると内容と、その最終目的の非人道性からセレスティアル家は博士の実験の凍結を指示。

 

 これで博士の研究は、世間から忘れ去られるように思われた。だが、実験は70年後、星間連合軍内で秘密裏に再開される。


 星間連合軍で実験を引き継いだのは、

 ――博士ローザ・ヤシン。

 

 遺伝子工学いでんしこうがくが専門のヤシンは、博士アデライードと違い人間の脳だけを移植するのでは、二足機を実戦で連携させるのには不足と感じていた。


 そこで専門分野の遺伝子改造を駆使して、人工授精体から育成機の中で二足機に組み込む専用の生物を生成。

 

 これはカプセルの中で、胸から上だけの人間が育つと考えてもらえればよい。


 その、

 ――胸部人間。|(博士はこう呼んだ)

 を、二足機に結合。


 培養中の学習だけでなく、生成後に戦闘や一定の社会性を学習させる試みを行った。これが脳だけ移植した機体と比較にならない性能を見せ、この形態が制式採用される。

 

 二足機に結合後に学習させることによって、これまでなかったあつい忠誠心に加え、新戦術への柔軟な対応、高い智能と言った柔軟で高い状況判断能力を有するに至ったのだ。

 

 これらの個体は、

 ――ヤシンのフロイライン。

 と呼ばれ、ヤシン博士自身は、

 

「|マイネ・フロイラインズ《私の娘達》」

 と呼んでいた。


 個体毎に個性が出るという問題が生じたが、最も機体結合に優秀だった個体をクローンで培養し、定期的に電子的な調整を加える事で、感情と個性をコントロールする手法を構築し解決。

 

 このヤシンの娘達が、宇宙最強と言われた二足機強襲部隊、不死隊イモータルズと恐れられる星間連合の決戦機体凶星である。


 凶星開発の一連の生体演算処理装置せいたいえんざんしょりそうちの実験は、ヘルシンキ宣言を源泉とする医学倫理協定を始め、多数の科学実験倫理規定と、その後に作られた生命倫理規定に完全に抵触していた。


 二足強襲機にそくきょうしゅうき凶星は、

 ――フランケンシュタインの誘惑の産物と言っていい。


 凶星の存在はおおやけになっているが、その内容がどんなものかは極秘。

 

 凶星部隊は軍技術開発研究部第七課|(通称、ピット・アタナトイ)がすべてを管理し、星間連合軍内でも、その実態を知るものは少ない。凶星部隊は機密保持の名目で、隊員の名の氏名は一切公表されないという徹底ぶりだった。


 だが凶星は、

 ――不死隊イモータルズ

 と、あだ名され、一般人も知る超有名戦術機隊。当然、星間連合軍の花形。

 

 軍事セレモニーなどで華々しく、

「これが凶星部隊の隊員たち」

 と、紹介された人々は何だったのか。この人々は単なるピット・アタナトイの職員、つまり技研七課の研究員。

 

 このピット・アタナトイは、当然凶星部隊200機の管理のため星間会戦に参加していたが、ピット・アタナトイの配置された母艦の指揮所が被弾し、星間会戦へ参加していた技研七課の人員は全滅していた。


 これが星間会戦で一度収容された凶星部隊が、再出撃が困難だった大きな理由でもある。

 

 生体演算処理装置せいたいえんざんしょりそうちの整備スキルなど、整備士どころか技術士官も持たない。そもそもとして存在しない技術なのだ。

 

 グランダ軍は星間連合軍の降伏で、ツクヨミシステムの管理権限の譲渡など、いくつかの要求を即時おこなったが、

「凶星残存機の引き渡し」

 も一度目の要求項目に入っていた。

 

 管理者のいなくなった凶星70機……。


 誰もその実態を知らないまま、機体は運搬用のフレームに梱包こんぽうされ大和へ移されたのだった。

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