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恋する氷華の星間戦争  作者: 遊観吟詠
破章十二、星間会戦編
106/126

13-(5) 『虎旗作戦』

 天儀てんぎのグランダ軍右翼の中軍の1個艦隊は、星間連合軍左翼の東宮寺朱雀とうぐうじすざくの第二艦隊と交戦を続けていた。


 グランダ軍総旗艦大和のブリッジで数多の情報に囲まれているのがいまの天儀。

 ブリッジ全体に知らせるための大モニターだけで4枚。そして天儀の周囲には目立つものだけで8枚のモニター。


 それら総てに表示されているのは、

 ――戦況。

 と一言でいってしまえば二文字ですむが、詳述すれば会戦の全体図から各持ち場の状況。艦艇の配置、それらの損害と残弾数による攻撃力の数値。と、書き出したらきりながい莫大な量の情報。単なる数字の羅列も多い。


 士官教育を受けていない軍人が見てもこれらが何を意味しているか情報を読み取るは難しい。いや、士官学校を出て艦長や部隊司令となる運命を歩み、現に艦上いる高官たちですらどの程度理解できているかは怪しい。これが現実だ。

 

 なぜなら一つの情報から何を想像するかは人により違う。


 画面の端の小さな数字の動きで、遼遠万丈りょうえんばんじょうの未来を想像できるか、気にも留めないか、この違いは大きい。


 そんな情報に囲まれた天儀が、

 ――正面の弾幕が薄くなった。

 と、直感した。


 天儀は抱いた直感を、左翼のアキノックの下軍に星間連合右翼が押し切られたのだろう。と分析。そして、なるほど天童正宗は直進してくるアキノックへ対応するために、朱雀の艦隊から戦力を引き抜いたな、と見抜いた。


「アキノックが押したぞ。我々も動く」

 そう確信を持っていう天儀に、横に控えていた氷華が驚いた。


 氷華は天儀へ返事をしようとして口を半開き、

 ――は?い?

 というような目で、天儀を見てから自身の手元の端末を確認。


 そこには氷華が独自にまとめたコンパクトな戦況が表示されている。

 

 氷華は端末に目を落としたと同時に、

 ――なぜに押したとわかる!?

 と思い、


「まだアキノック将軍の右翼には動きがありませんが?」

 そうけげんに天儀を見た。


 氷華の確認では、自軍の左翼は戦端せんたんが開かれてからほとんど動きなく、いまもそうだ。

 

 氷華は、

 ――私がボケボケして見落としていたのか?!

 と、焦りすらして手元に目を落としていた。


 天儀が、氷華の疑問に、さっと右手で大モニター4枚のうちの一枚を指した。正確にはモニターの中の小さな数字なのだが、氷華からすればわからない。


 かかげられた天儀の人差し指と、モニターはあまりに離れすぎている。


 ――指遠すぎます。千里眼せんりがんじゃないんですから。

 と氷華が苦く思うなか天儀が、


「虎旗をかかげろ。『虎旗作戦こきさくせん』を実行する。各員は準備には入れ」

 と、作戦の準備を発令していた。


 氷華が、

 ――え?あ?え?

 と、焦りながらも天儀の敢然とした勢いに飲まれ、

 

「虎旗作戦発動。総員準備!」

 と、復唱。


 だが氷華は全身が疑念がいっぱい。なぜなら天儀の口にした『虎旗作戦』は勝敗を決するための決勝行動。タイミングを間違えば状況が悪くなりかねない。

 

「えっと、同作戦はこちらの勝ち色が決定してからのダメ出しの作戦ですよね?」


 これに天儀は無視というよりかまっていられないというふうで、直接内線係のオペレーターを通じ艦載機隊へ指示を続けている。


「我々の右翼は優勢ですが、中央は押されまくり、左翼は膠着常態こうちゃくじょうたいですが、いま同作戦を実行するのは時期尚早じきそうしょうではないのでしょうか」


 天儀の唐突に対して氷華の結論は、

 ――中央の劣勢が限界だと判断し、天儀は決勝行動をはやった。

 という危惧きぐ


「いまが千載一遇せんざいいちぐう春秋ときだ。虎旗を振る」


「虎旗を振るって……」

 

 そういう詩的なというか、雅味がみがある表現はけっこうなのですけれど、と氷華の口中は苦い。

 

 いまの天儀のむちゃを実行するには、と氷華の頭脳がフル回転し、

 ――私が即興で大規模な電子攻撃を仕掛け支援する。これですかね。

 とすら覚悟し、どう攻勢点を見出すか考え始めていた。


 だが20分後の作戦準備完了の報告とともにブリッジに入ったのは、


「正面敵火力30パーセト低下。敵の戦力の一部が戦列を離れたようです。当方の戦列が前進を開始しました!」

 という戦況報告。


 氷華がそのジト目を慌てて、大モニターの一つへ。そこには会戦全体の戦況がある。


 そこには正面の敵の劣勢を知らせる情報だけでなく、アキノックの左翼が大きく押し込んでいた。


「おお」

 と、氷華がもらすように嘆息。


 星間一号線に広がった両軍の戦線は長大。戦場実況情報は隅から隅までタイトに正確に、とはいかない。タイムラグはどうしてもある。

 

 氷華が感心するなか、


「『虎旗作戦』を決行する」

 天儀大きく宣言していた。


 大和ブリッジ内に緊張が走る。この『虎旗作戦』は会戦の詰めの一手だった。この作戦が実行されるということは、グランダ軍は会戦に勝つということを意味する。

 

 天儀が緊張するブリッジへ、


「想定通りの戦況。やることは訓練どおりだ。そのようにすれば万事うまくいく。気負うな」

 と、爽やかに放った。


 一方、氷華は天儀の宣言を聞きうんざりした色がジト目に出る。


「本当に実行なさるのですか」


「このままだと間違いなく、敵旗艦アマテラスは、我々が対面している朱雀の艦隊を合流する。その状態で粘られると面倒だ」


「ですが」


「中央の紫龍の下軍が敗北して、天童愛率いる4個艦隊弱が我々のもとへ駆けつけてくるのに1時間半程度。泥試合になればこの間にアマテラスを降伏させるのは難しい」


 こういわれても氷華が食い下がる理由があった。

 天儀が企画した『虎旗作戦』には問題点が多い。電子科出身の氷華には、人間心理に直接訴えかけるだけの雑な作戦にしか思えなかった。


 氷華は無表情のジト目に、批難と不安の色を混ぜて天儀を見つめた。


 だが天儀は、


「ここで手間取ると紫龍しりゅうが無駄死だ。それにまだ紫龍は生きている。やる価値はある」

 と、少し笑みを浮かべていっただけだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


『虎旗作戦』

 は、天儀が戦争再開前に直率する大和艦載機隊を中心に暖めていた作戦。


 基本的に宇宙空間では何より人命を重んじる。これは宇宙戦争でも同じ。

 グランダと星間連合の間では、戦争での無限の殺戮むげんを予防するため多くのルールを設けていた。重鼎での捕虜扱いのような協定もそうだ。

 

 そして、その一つに、

『艦隊旗艦信号を明白めいはくにし、彼我ひがの旗艦信号を偽装ぎそうしてはならない』

 というものがある。

 

 旗艦信号識とは旗艦を示す信号で、つまり、この旗艦信号を旗艦以外の艦から発信したり、敵の旗艦信号を偽装したりしてはいけないということだ。

 なお、ここでの旗艦信号とは、厳密には総旗艦そうきかんと呼ばれる大和やまとやアマテラスから発信される信号だ。


 戦争再開前に、このルールの詳細を天儀へ説明したのはセシリア・フィッツジェラルド。

 いまセシリアの目の前には、生徒が2人。天儀と氷華だ。


「会戦中、艦識別と艦の常態についての信号へ触れることは厳禁ですわ」

 

 天儀は、つまり?というようにセシリアへ目語して問う。


「ようはですわ。電子戦で圧倒し『降伏信号を敵の全艦艇から発信させる』、こんな行為も禁止ですわね」

 

 このセシリアの言葉に、氷華が、

 

「ま、電子戦でそこまでできるような状況なら艦艇のコントロールは8割以上奪取していますので、そんなことしなくても勝ちですけどね」

 と、チャチャを入れる。


 小さなミーティングルームには天儀とセシリア、そして氷華の3人。この小さな説明会に生徒として同席した氷華は暇だった。それに講義の内容は電子戦に関すること、いわば氷華の縄張り。それをセシリーが説明しているのが氷華は少し面白くない。

 

 セシリアは、そんな氷華の態度に仕方ないといった素振りを見せてから続ける。


「降伏信号、遭難信号、これらあたりへ触れるのは大厳禁です。本当に遭難しているのかわからなければ困りますから。降伏信号も同じです。例えばです。天儀司令、天儀司令が勝手に降伏信号を上げられ、敵が投降を受け入れるために近づいてきたらどうします?」


「まあ、そんなことをされたならに電子戦敗れた。ということなので、敗北を甘受するかな」


 天儀がすまして応じると、セシリアは、


「で、本心はどうなのです?」

 と、ニコリと問いで応じた。天儀が、思わず笑う。


「そうだな。近づいてきた敵へぶっ放す。前提は不意打ちで降伏信号の操作だけ奪われて、勝手に降伏信号を上げられた。ということだろ?重力砲の管制など、船のコントロールはこちら側にあるなら。そりゃあ、ふざけんなってもんだ」


「正直で何よりです。そういうことですわ。電子戦で射抜いたように降伏信号だけ上げさせたら、納得いかずに戦闘を継続する艦が絶対に出ます。こうなれば戦場は収集がつきません。本当に投降してきているのか、偽装なのか、こうなるとどうなりますか?ハイ、氷華さんどうぞ」


 セシリアが、こんどは不まじめな生徒の方へ質問。だが氷華は、


「……」

 と、ジト目で無言。


 氷華からすれば愚問だった。

 

 そもそもセシリーの問いはおかしいのです。敵の降伏信号のスイッチを乗っ取れるぐらいなら、敵艦の操舵も乗っ取れてますので、私なら敵艦を上下に振って、降伏させますね。


 そうですね、

 ――つぶつぶが入ったジュースを飲む前のように激しく振ったら!


 ふふ、嫌でも降伏するでしょう。


 そう降伏信号の操作をするなんて稚拙ちせつというものですよ。


 ――自分で押すより、相手に押させる。

 これですよ。


 氷華は無言の内にこれらのことを妄想したが、終始黙っているのでセシリアにはつたわらない。


 セシリアが嘆息一つ天儀を見た。


「降伏信号など当てにせず、敵艦が鉄くずになるまでショット(砲撃)をあびせる」


「はい、正解です。戦場はただの虐殺ぎゃくさつの会場に成り下がりますわね。このような事情で、これらの信号へ偽装や攻撃は禁止。というわけですわ」


 セシリアは、そして、といって言葉を継ぐ。


「本題の旗艦信号も同じです。そもそも旗艦信号とは、これは広大な宇宙で、自軍や友軍が旗艦の状態を知ることによって、無駄な交戦を避けるための措置ですわ。偽装したら意味ありませんね?」


 このセシリアの確認の問に、氷華は、この退屈な時間が終わると予感し、

 ――わかったのでもう終わりですね。

 と、激しくうなづいた。

 

 その軽薄なうなづきを見たセシリアは、そうです、と苦く応じてから継ぐ。


「自軍旗艦の降伏が、敵の電子戦の偽装によるのか、真実なのか判断がつかなくなれば、頑強に抵抗し、無駄な殺戮さつりくが発生する可能性がある。このため艦隊旗艦信号の発信を明白にし、お互いの艦隊旗艦の信号の偽装を禁止しているとういわけですわ」


 天儀がさっと手を上げた。まるで先生に質問するように。


「はい、天儀司令、どうぞ」


「この資料には旗艦の変更。つまり旗艦信号の移動の手続きについての言及もあるな」

 と、天儀が手元の端末を指しながらいうと、セシリアは、ああ、といったように、


「旗艦に設定した艦が不慮の事故や攻撃で、会戦前に変わるというのはありますからね。というより旗艦の設定は自由ですから。ですが、それがどうかしまして?」

 それは、あんまり関係ないので、考えないで良いルールですというように応じた。


 だが、天儀はセシリアの応じ方に、


「だが戦闘中に旗艦信号を他艦に譲渡することについては何も触れられていないな」

 と、口元に危険な笑貌しょうぼうを見せた。

 

「まさか……」

 と、青くなるセシリア。セシリアは天儀の意中を正確に見抜いたわけではないが、ろくでもないことを思いついたというのはわかる。


疎漏そろうを見つけた。これは使える」

 

 天儀が、そういい会議が継続。

 

 このやりとりを眺めていた氷華は終わると思ったものが再開され、うんざりしながら同席を続けたのだった。


 そもそも宇宙空間の倫理として、自分から発信する船の識別信号を偽装することは先ず行わない。偽装が露見した場合、即撃沈されても文句は言えないからだ。

 戦争でこれらのルールが守られるかは、良心に委ねられるところはあるが、この100年は守られているルールだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 セシリアが天儀へ『旗艦信号』についての説明をおこなった1週間後、天京てんけい宙域に駐留する大和やまと幕僚会議室ばくりょうかいぎしつに集められた大和艦載機隊の中核隊員たちを前に、セシリアはもう一度『旗艦信号』についての説明をおこなっていた。

 

 会議室の大スクリーンには、

 ――虎旗作戦。

 と、大々的にある。

 

 会議は天儀が秘書官の千宮氷華を引き連れて入室すると開始され、司会進行を務めるのが情報部長セシリアという形。

 

 天儀は、セシリアの旗艦信号につての条約説明が終ると立ち上がって、


「ただし、これには艦船の大きさが明記されていない。小型艇でも大将軍なり司令長官なりが座乗して旗艦信号を発信すればその船が旗艦。会戦ではここを利用する」


 天儀の発言が終ると、情報部長セシリアが具体的な内容の説明に入り、


「旗艦信号発生装置を、船と豪語できる形状に改造した偵察機彩雲ていさつきさいうんに移します。それに大将軍グランジェネラルが自らお乗りになります。これでグランダ艦隊の旗艦はこの彩雲改です」

 

 続けて、この虎旗作戦という無茶な作戦の


「そして大将軍の乗った旗艦信号発する彩雲改で、敵旗艦に肉薄し降伏をうながしますが……」

 核心部分をつげた。

 

 いい終わったセシリアは歯切れ悪く言葉を切った。限定的な状況で実行される作戦とはいえ冒険的要素が強すぎる内容なのだ。

 

 セシリアの言葉が終ると集められた艦載機隊員から声が上がる。

 

「なるほど、アキノック将軍の下軍が敵旗艦アマテラスに迫る中、大和も目の前の敵を突破して迫ってきていると誤認させるわけですか」


 さらに別声が続く


「でも条約の穴を利用すると言っても結局大和ではないと露見すればさほど意味が無いのでは?」

 

 この二つの声にセシリアでなく、天儀が応じて


「それだ。旗艦信号と識別信号の情報を一本化して発信していたが、これを今後ばらばらにする。効率的だから一本化しているだけで、条約上の制約ではない」


「戦場に、大和と旗艦信号が同時に存在することになりますが」

 と、また疑問が上がる。


「会戦中に敵が注視するのは三つ。中央の戦況と、迫るアキノックの軍、あとは旗艦大和の位置だけだ」


 天儀のこの言葉をセシリアが補足。


「星間連合軍の索敵結果の表示は、艦艇の大小の違いで丸の大きさを変え、ここに艦隊旗艦は二重丸で大きく表示するという単純なものです。従来通りなら艦艇名は、カーソルか指でフォーカスしないと表示されません。仮に分離していても大和表示は多くの艦艇の中に埋もれて気づかない可能性は高いですが。」


 また歯切れ悪く言うセシリアだったが、会議室内の雰囲気はこの無茶に乗り気だった。

 セシリアの言葉が終ると艦載機隊員からまた声が上がる。

 

「この作戦を実行する状況では、敵は心理的に追い詰められていて大和の識別信号と旗艦信号の分離に気づかないと」


「そういうことだ。アキノックが敵旗艦に迫れば、敵は最終的に手近な艦隊へ合流するしか手がない。そこで粘られると面倒だ。大和が迫っていると誤認させて降伏させる」


 天儀がそういい切ると、また声が上がる


「なるほど狡辛こすからいですね。成功すればひどいぐらい詐欺的狡猾(こうかつ)さだ」

 

 防人隊を率いる草刈疾風だった。はっきり天儀の狡猾こうかつさを指摘したが、笑いながらの気持ちのいい声だった。


「やりましょう面白いじゃないですか。別にばれても彩雲改を守りきればいいんでしょ。防人隊は問題ないです」


 疾風は、そういいながら近衛隊を率いるレティーツィア・ベッカートへ目を向けた。


 集められた大和艦載機隊の中で、数的にも中核をなすのは防人隊と近衛隊だった。この二つの隊が承諾すれば決定のようなものだった。

 

 腕を組んで聞いていたレティが、疾風に応じて、

「近衛隊も問題ないわ」

 と、不機嫌そうに短く答えた。レティは押し隠しているようだが、レティは、


 ――最強の二足機隊にそくきたい

 という冠に強くこだわっている。


 だが現状で近衛隊より上の評価の二足機隊が二つあった。疾風の防人隊と、星間連合軍の凶星部隊だ。

 レティは疾風に自信満々に、やると宣言されてしまった以上、対抗意識から承諾以外に選択肢がなかった。

 

 ここで防人隊と近衛隊の隊長が、承服するのを横目で眺めていた氷華だったが、彼女にはこの場の雰囲気が今一理解しがたかった。

 それが言葉になって出る


「これには何の意味があるんですが、作戦を実行できるような状況になっても、ここまで冒険する必要が微妙だと思われます」


 疾風が笑って応じる。

 

「いいじゃないですが、総大将自ら偵察二足機彩雲で星間連合軍の旗艦に肉薄するんですよ。それだけで面白い」


 この疾風の言葉で、会議室内の防人部隊の隊員たちが盛り上がる。


 草刈やレティなどの飛行隊長などと呼ばれる二足機部隊の指揮官たちは賛成。これで、会戦でこの作戦が実行されるか否かは別として、実行の可能性もありとなってしまった。


 内心反対だったセシリアが溜息をつき、氷華は無表情のジト目で天儀を呆れてみていた。

 

 盛り上がる隊員たちへ天儀が、予想される会戦の状況が表示されたスクリーンを背後にしながら

 

「とにかく誤認させればいい。アキノック将軍の左翼が敵旗艦に迫った時に、我が方の旗艦信号が迫っていれば間違いなく敵は動揺する。二倍の相手を支えると予想される中央の紫龍軍が、壊滅する前に敵に降伏を選択させるにはこれしかない」

 そういい室内をぐるりと見渡すと、レティが右手を胸の高さまであげつつ、


雷撃機らいげきき随伴ずいはんしましょう。目標座標からなら二足機搭載の対艦ミサイルでも射程圏内。近衛隊には雷撃特化の小隊があります。どうでしょうか」 

 と提案。


「私の座乗する彩雲改は偵察機で、管制の補助ができる。脅しにはちょうどいい。やろう」


「護衛には最精鋭の近衛隊がつくのです。死なせません」

 

 レティが天儀へ真っ直ぐ視線を向けた。

 意見を採用されたレティの表情は明るい。先程まで防人隊と共同作戦を行うことが面白くなく腐っていた様子とは随分違う。

 

 気分を良くしたレティがさらにつづける。


「さしずめ虎旗隊ですね」

 

 天儀が、何がだというふうにレティを見る。

 

「この『虎旗作戦』を実施する艦載機集団の名前です」


「なるほど、大和直率の第一戦隊艦載機隊では洒落っ気がない。それも採用しよう」

 

 この天儀の言葉にレティが弾けんばかりの笑顔になった。


『虎旗隊』の提案が終ると、同時に作戦へ向けての訓練日程が、正面のスクリーンへ表示される。


 虎旗隊は会戦までに5パターンほどのケースを想定して、6回の訓練が実施されることとなったのだった。

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