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彼女たちの極秘事項(トップシークレット)  作者: 黒野ノエル
第3話 フォース・カインド
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第3話 フォース・カインド(1)

「来たか……」

 立体幻像ホロミラージュの青白い画面に映し出された敵性反応のチップが忙しく点滅した。

 数は3つ。事態が事態だ、相手もかなりの手練れを出しているはず。

 だが、そんなの関係ない。

 倒せばいいだけの話だ。

 新たな刺客が現れたとしても、同じ。

 ひたすら戦って戦って逃げて逃げて守る。

 それが私の存在意義であり、心の支柱だ。

 だが、逃げ切ったとして、その後はどうする?

 右も左も分からないどころか、頼りにする者などいない。

 どうすればいいのだろうか?

 夕暮れ時の爽やかな風に髪の毛が揺れる。無意識に涙が溢れ、頬を伝わってきた。

 ダメだ、ここに来てから感傷的になりすぎている。

 頑張れ私、今から行かなければならないのに。

 私はあの青年から借りたハンカチというもので涙を拭い、感情のブレを修正する。

「よし、行くか……」

 私は茜色の空を見上げ、溶け込み、空を駆けた。

 ミューナを助けるためにも、ミミを救うためにも、私は戦う。

 命を投げ捨ててでも、二人を守ってみせる!!


             ※


 突如、俺と大きなミミの前に現れた謎の三人組。

 まるで映画の1シーンのような状況に、俺は無意識に唾を飲み込んだ。

 どう見ても友好的には思えないし、とても話し合いの通じるような相手にも見えない。そのくらい胡散臭い出で立ちだ。

 しかし、どうしてアイツらにもネコ耳とネコの尻尾があるんだ? 同じ国の人間なのか? それとも、別の何か……。

「にゃあにゃにゃあ、にゃあにゃあにゃあ」

 耳を疑った。

 中央にいる銀髪の少年が話している言葉が、大きいミミと同じネコ語じゃないか!?

「にゃ!! にゃあにゃあ!!」

 対して、烈火のごとく大きなミミが猛反発する。徹底抗戦の構えであることは間違いない。

「にゃあ……、にゃにゃにゃあ、にゃあにゃあ?」

 やれやれとポーズを取り、溜め息をつく銀髪の少年。

 しかし、とても苦労しているように思えない。それどころか、余裕に満ち溢れている。

「にゃあ、にゃあにゃあ」

「にゃあにゃあにゃ、にゃーにゃあ」

「うにゃあにゃ!! うにゃにゃにゃあ!!」

「うにゃーあ、にゃあ」

「にゃあにゃあうにゃあ!! にゃーあにゃあにゃあ!!」

 繰り広げられる二人の舌戦、いや猫舌戦。

 現場を見ていなければ、ただの猫の喧嘩キャットファイトに見えるかもしれない。だが、実際には熱い口論が展開されている。とてもではないが、俺が入る余地などない。

 右隣のボブカットの少女が、銀髪の少年に耳打ちをした。大きなミミに聞かれてはいけないことでもあったのだろうか?

 それにしても、さっきから妙な音が近くから聞こえている。なんていうか、耳にまとわりつくような不快な音が。もしかして、蚊か蠅でも飛んでいるか? しっしっ、あっちに行け。

 だが、それでも謎の不快な音は止まない。五月蠅いなあ、気が散るだろ。

 俺は不快音の正体を確かめるためにも振り向いた。

 それは蚊でも蝿でもなく、生物とは程遠いものだった。

 眼前からおよそ2m先、野球ボールと同程度の灰色球体。

 ただし、球体は球体でも、ただの球体ではない。球体は時計回りに高速回転しながら、空中停止をしている。それも何の仕掛けもなく。

 このボール、どういう原理で浮いているんだ? こんなものTVですら見たことがない。なんとも不思議な物体じゃないか。

 俺がゆっくりと謎の球体をゆっくりと指を近づけていく。

 その時、起こった!!

「うぉっ!?」

 突如、謎の球体は俺の顔めがけて飛び込んできた。それも、速球派ピッチャーのストレートですら敵わないほどの超スピードで。

 俺は反射的に、本能的に屈みこんだ。理由はただ一つ、危険だと直感的に感じ取ったからだ。

 で、その球体はどこへと行ったかというと――、恐ろしいことになっていた。

 パイプを数本真っ二つに折り、コンクリートの壁に深々とめり込んでいた。これがもし、顔に命中していたら……。想像などしたくない。

 しかし、これで理解した。

 あの三人組が、既に気付いていることを。そして、俺を抹殺しようとしたことを。

 やはり、こいつらは敵だ。ミミの敵であり、俺の敵だ。

 何が目的かはさっぱり分からないが、俺たちを狙っているのは間違いない。

 許さない、俺とミミをこんな理不尽な目に遭わせた奴らを絶対に許さない。

 得体の知れない存在への恐怖よりも遥かに勝る怒りの炎、熱した水銀のようにふつふつと煮えたぎる血液。この怒りを奴らにぶつけずして、どこにぶつける?

 俺は感情を抑えきれぬ感情を糧に、猪のように4人の元へと姿を現した。

「おい、そこのお前ら!!」

「にゃ?」

「にゃにゃ!!」

 大声に合わせて、4人は俺に視線を合わせた。

「お前ら、寄ってたかってミミに何をしやがる!! 身代金目当ての誘拐か!? それとも、悪の組織の刺客とでもいうのか!? どっちにしても、俺はお前たちを許さない!!」

「にゃ……」

 まるで舞台俳優さながらの激しい啖呵たんか。憤怒という名の推進剤が、俺を正義の味方へと変えてくれた。もっとも、口先だけの張子の虎でもあるが。

「にゃあにゃあ……」

「にゃ? にゃあにゃーにゃあ」

「にゃあ、にゃにゃにゃあ」

 あっけらかんな表情で意味不明なネコ語で喋る三人組。

「ネコ語なんて喋っていないで、日本語で喋りやがれよ!! お前らの言っていること、全然分からないんだよ!! いい加減にしろ!!」

「にゃ?」

「ミミもミミだ!! どうして、ここから逃げようとは思わなかった!! こんな奴らに喧嘩を売っている暇があるんだったら、さっさと逃げろよ!!」

「にゃにゃにゃ……!?」

 怪訝な顔のミミだが、今は口論などするつもりはない。やるべきことはひとつだ。

「さあ、こいつらから逃げるぞ!! 服はその後だ!! 一段落ついたら、また泊まらせてやるからさ!! デュタも探してやるからさ!! だから、今だけは我儘を言うな!!」

「にゃにゃ……!?」

 俺は大きなミミの腕を強く引っ張り、草原をかける脱兎の如く走り逃げた。

 乱雑に置かれた段ボール箱やゴミ箱をかわし、幾度も道を曲がり。

 覚醒したばかりで覚束ない足取りであることと裸足ということが、大きなミミの全力疾走を妨げる。それでも、一生懸命に逃げるしかない。

 だが、あんなとんでもないブツを持っている連中相手にどこへ逃げる? すぐに見つかって、すぐに追い詰められて、すぐに捕まるのがオチだ。

 その後はどうなるのだろうか? 拷問なり、リンチなりでもされるのだろうか?

 分からない。でも、つかまったら不味いことだけは分かる。

 だから逃げて逃げて逃げまくる、追っ手が消えるまでひたすら逃げる。

 俺に残された選択肢はこれしかなかった。

「どうしてこんなことになったんだ……」

 裏通りを駆け抜ける中、俺は思わず唇を噛みしめるのであった。


             ※


「やれやれ、部外者に妨害されましたか……」

 銀髪の少年は何一つ乱れず、状況把握する。

 このような事態は、彼らには想定済みの織り込み済みだった。急がなくとも、すぐに捕まえることが出来るイージーミッションにすぎない。

「誰か来たっすよ」

 視覚に入ったのは、おおよそ40過ぎぐらいの中年男性だった。それも剣幕な表情で、ずかずかと大股で近づいてくる。

「おい、外で五月蠅いと思ったら貴様らかぁ!!」

 恐らくは、この建物の持ち主であろうか。裏でこんなに荒らされれば、彼に限らずとも、怒っていても何らおかしくない。

「なんだ、これ!! 穴まで開いているじゃないか!!」

 中年男性は、今にも髪の毛が逆立ちそうなほどに怒り狂った。耳鳴りのするような目障りな声だ。

 ボブカットの少女は、銀髪の少年に耳打ちした。

「SSIP(置換式空間隔離プログラム)を使用しますか……? それとも、TSIP(転移式空間隔離プログラム)を使用しますか……?」

「そうですね、手間や安全性のことを考えればSSIPのほうが賢明でしょうか」

「了解……」

 彼らにとって中年男性のことなどどうでもいいことだった。上層部から与えられた任務を果たすこと以外は。

 そんなことも露知らず、中年の男性は更に熱を上げる。

「おい、貴様ら、聞いているのか!?」

「おっさん、ちょっと黙ってもらえないっすか?」

「えっ?」

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