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彼女たちの極秘事項(トップシークレット)  作者: 黒野ノエル
第2話 セカンド・インパクト
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第2話 セカンド・インパクト(5)

「うーん、見つかるといいんだけど……」

 大和くんと犬飼くんが川を挟んで西側を探している一方、私たちは東側の橘町商店街を探していた。

 数百mほどある橘町のアーケード街には、昔ながらの肉屋や八百屋といった昔ながらのお店に、個人経営のスーパーや薬局といった品揃え豊富なお店、レトロな香りが漂う洋食屋や喫茶店や定食屋、ちょっと変わったものが立ち並ぶ不思議なお店、そして私がよく利用する古本屋。橘町商店街という空間は、私のお気に入りの一つ。

 でも、この商店街の一番のいいところは人の優しさが満ち溢れているところ。みんな元気にあいさつをしてくれるし、隣のお店が困っていたら隣のお店の人が助けに行く光景も見かける。こんなに素敵な町が私は大好き。ただ、町内のみんなに協力してもらうことが出来ないのは残念だけど。

「凄い活気ですね」

「うん。休みは人が多いけど、今日はいつも以上かな」

 人が多い理由は簡単、ミステリーサークルや隕石の落下した町に遊びに来た観光客の人たち。親子連れの家族から見た目からしてUFOが大好きそうな人たちまで。商店街でこんなに多くの人を見たのは初めてかもしれない。

 だけど、商店街のみんなもそれに負けていない。ミステリーサークルや隕石を目的に観光客が来ることを見越して、それぞれの店でそれにちなんだグッズを出していたの。ミステリーサークル風のバームクーヘンやメロンパンの底に大きなビスケット生地を張り付けたUFOパン、隕石風のドーナツなどなど……。アピール用ののぼりやポスターもそこかしこに張られていて、お祭りムード。大和くんの家に行く前に古本屋へ立ち寄ったけど、今はそれ以上の人盛り。

「にゃあ~……」

 ミミちゃんは、物珍しそうに辺りを見回す。ミミちゃんの住んでいた星には、こんな街とか無かったのかな? やっぱり、住んでいる星が違うと、文化そのものも価値観も違うのかな?

「ところでそらさま、大和さまがいないので一つ聞いてもいいでしょうか?」

 藪から棒に妙ちゃんが質問をしてきた。それも、少し恥ずかしげに。何か重要なことかな?

「ん、なーに?」

「そら様は大和さまのことをどう思っているのでしょうか?」

「えっ!!」

 思いも知らない質問に私は人前で大声を出してしまった。

 注がれる通行人たちの視線、私は恥ずかしさのあまり思わず縮こまってしまった。

「ご、ごめん……。でも、いきなりこんなところで話さないでよ」

「それは空気を読まなかった私が謝りますわ。ただ、一つ聞いておきたかったことですの。これから先、私が大和さまと関わるからには」

 それは私にとっての試練だった。今まで大和くんとずっと一緒にいることが出来たけど、妙ちゃんというライバルが現れた以上はそういうわけにはいかない。でも……。

「わ、私は大和くんの……」

「大和くんの?」

「大和くんの、お、幼馴染なの!! う、生まれてからずっとの幼馴染なの!!」

 言えた。直視出来ないし、どもったし、小声だったけど、何とか言えた。

「わ、私と大和くんは同じ日に同じ病院に生まれて、隣の家同士仲良くして、幼稚園も小学校も同じ場所で、教室も遠足も修学旅行も隣の席だったの。中学生の時は私が東雲学園に進学したからしばらく別れていたけど、高校に進級してからまた大和くんと同じクラスになったの。なんでも私と大和くんはいつも一緒。だから……」

 恥ずかしいけど、口が止まらない。感情が決壊したダムのように激しく流れ出ていく。こんな気分になったのは初めてかもしれない。

「だから、私は大和くんの幼馴染なの……」

 最後は尻すぼみだったけど、ちゃんと言い切れたのは嬉しかった。

「そらさまと大和さまの関係って、そのような関係でしたのね……」

 あまりに恥ずかしかったので俯いていたから妙ちゃんの表情は見えなかった。一体、どんな表情をしているのだろうか?

 私は恐る恐る視線を妙ちゃんの顔に合わせる。

 しかし、その表情は私の想像するものとは別のものであった。

「素晴らしいですわ!!」

「えっ?」

 妙ちゃんは太陽のような笑みで称賛していた。

「生まれてから今日までこんなに固い絆で結ばれていたなんて!!」

「そんなに褒めることでも……」

「いいえ、それはすごいことですわ。どんなに長い付き合いでも時が経てば薄れていくもの。でも、そらさまと大和さまの絆には時なんて関係ありませんわ」

 さっきとは別ベクトルで恥ずかしい。褒められるのは嬉しいけど、ちょっとムズムズしちゃう。

「でも、私もそらさまには負けませんよ!! 長く過ごしている年月はそらさまの方が長いかもしれませんが、私の愛の強さだってそれには負けていません。私だって、大和さまのことを愛していますのですから」

 私は羨ましかった。妙ちゃんはちょっと不思議なところがあるけど、こんなに優しくて強い子だなんて。料理やお洒落もそうだけど、見習うべきことが多い子だ。

 ただ、私も少し反撃をしておかないと。

「そう言えば、妙ちゃんはどうして大和くんのことを……」

「にゃあにゃにゃあ!!」

 私が話しかけていた時、ミミちゃんは突然、何かに向かって走り出した。気まぐれでかわいい猫ちゃんそのままに。

「ああん、待ってミミちゃん」

「待ってください、ミミさま!!」

 ミミちゃんが走った先にあったのは、商店街の外に停められた一台の真っ白なワゴンカー。前後両側面には、可愛くデフォルメをされた三毛猫の顔、そして絵の下には、『ネコのパン屋さん』と書かれていた。

 初めて聞いたお店だけど、私が知らなかっただけかな? それとも、新しくできたお店なのかな?

「うにゃあ~」

 指を咥えながら涎をたらし、ワゴンに並ぶパンの数々を見つめるミミちゃん。焼きたてのパンの香りが周囲一帯に立ち込める。焼きたてのパンの香ばしい香り、フルーツや砂糖の甘い香り、総菜パンのスパイシーな香り……。ミミちゃんじゃなくても、この香りは誰もが足を止めちゃう。

「へい、らっしゃい!!」

 ワゴンの中から現れたのは、体長2mを超える巨体の男性だった。でも、相撲取りのように太っているわけではなく、ラグビーやプロレスの選手みたいに筋肉質。簡潔に答えるのなら、爽やかマッチョ。

「うにゃあ~」

「ミミちゃん、もしかしてお腹がすいたの?」

「うにゃ!!」

 水飲み鳥みたいに返答するミミちゃん。

 私は時計を見た。2時前だ。探すことと話すことにばかり力を入れちゃったから気付かなかったけど、こんなに時間が経っているとは思わなかったよ。

「焼きたてホヤホヤ、地元新鮮素材とこだわりの製法で作った『ネコのパン屋さん』の手作りパン、お一つどうッすか?」

 にこやかな表情を見せるマッチョなパン屋さん。

「どうしますか、そらさま?」

「うーん、どうせなら大和くんたちと一緒に食べた方がいいかな?」

「それは、とてもいいアイデアですわ」

「にゃあ!!」

 私の提案に二つ返事のミミちゃんと妙ちゃん。やっぱり、みんなでご飯を食べた方が美味しいよね。

「もしかして、これから友人との行楽っすか? でしたら、これがおススメッす!!」

 私たちの話を聞いていたのか、マッチョなパン屋さんはワゴンの奥から木編みの籠を持ち出した。

「こんなの初めてみた……」

「なんだか変わったパンですね」

「うにゃあ~」

 とても変わったパン、でも、とても美味しそうなパンに私たちは目を惹かれた。

「実はこのパン、かなりこだわりがありまして。このパンに使っている……」

 マッチョなパン屋さんのパンに対するこだわりと情熱、それが早口に、熱弁に、喋り上手に語られていく。それを聞くにつれ、私はそのパンへの興味が見る見るうちに大きくなっていった。隣にいるミミちゃんも妙ちゃんも。

「……というわけなんすよ。というわけで、どうすっか?」

「5つください!!」

「うにゃあ!!」

 私とミミちゃんは、ワンテンポも置かずに即答した。私が天体観測や宇宙人が大好きなように、このマッチョなパン屋さんもパン作りが大好き。だから、私もそれに応えないと。

「ありがとうございまッす!!」

 籠に入ったパンは、ロゴマークの猫が描かれた紙袋にインされる。そして、これとは別にもう一つ紙袋を渡された。中には飲み物の缶が5本ほどが。

「これはサービスっす。これと一緒にお召し上がりくださいッす」

「こんなにプレゼントしくださるなんて……」

「これ、貰ってもいいんですか?」

「いえいえ、話を聞いてくれたお礼ッすよ」

 ニッコリと歯を見せて笑うマッチョなパン屋さん。私たちの反応がとても嬉しかったのかもしれない。

「これからもまた御贔屓にッす!!」

 マッチョなパン屋さんは私たちが見えなくなるまで手を振ってくれた。とてもず爽やかな笑顔で。

 こんなに素晴らしいパン屋さん、また出会う機会があったら買いたいな。


                ※


「こちら、ブラン。目標を発見したッす。女性が二人ほどついていましたが、どうしますッか?」

「とりあえず、泳がしておきましょう。まだ動くには、少し早いです」

「了解ッす。ただ、一つ気になったことがあったッす」

「なんでしょうか?」

「実は……」


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