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彼女たちの極秘事項(トップシークレット)  作者: 黒野ノエル
第2話 セカンド・インパクト
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第2話 セカンド・インパクト(4)

 俺と武士が最初に向かった場所、それは河川敷のミステリーサークルだった。

 宇宙人などは全く信じてはいないが、宇宙人がらみということでここが最も怪しい。だから、明るいうちに来たのだが……。

「人が多いなあ……」

「だな」

 発見から翌日であることに加えて、本日は土曜日。人が多いのも道理である。ミステリーサークル目当てで、県内どころか全国各地の見物客でごった返している。恐らくは、昨日の早朝の十数倍の客がいるに違いない。

 想像以上の光景に、俺と武士は溜息を漏らす。

「こりゃあ、デュタとやらを見つけるのが一苦労になりそうだぜ。最悪、こにはいないかもしれないぞ」

「それでも探すしかないだろ」

 ミステリーサークル観光が目的なら別に揉まれても仕方がない。だが、俺たちの目的は人探し。とてもではないが、あの人ごみの中に入る気力など湧かない。それでも……。

「大和、生きて帰ってこいよ」

「ああ、お前もな」

 俺と武士は入るのに少し躊躇っていたが、覚悟を決めて戦地へと飛び込んだ。

「さっさと先に進んでくれよー」

「おい、なにをするんだ!!」

「これがミステリーサークルかぁ」

「どうせ、誰かの悪戯なんだろ。TVで制作現場を見たぜ」

 観光客ですし詰め状態のミステリーサークル現場、平日の通勤ラッシュなど比較にならぬほどの詰め込みよう。これはかつてないほどの密集状態だ。やたらと体をぶつけられるし、息も苦しいし、非常に五月蠅い。

 観光客の押し合いへし合いに、俺は予想以上の苦戦を強いられてしまう。

 だが、こんな事でへこたれてはいけない。ここで根を上げていたら、これから先どうする? ミミだけでなく、俺の人生の懸かった一大事なんだぞ。一刻も早くデュタを見つけなければ。

 俺は全神経を研ぎ澄ませ、デュタがいないかと見回す。

 デュタはどこだどこだ? どこにいる?

 しかし、残念ながらデュタと思わしき人物は見つからない。それどころか、水色のショートヘアーという組み合わせの人物すら見つからない。特徴的な髪の毛だから、そこまで見つけるのには難しいはずではないのだが。それともここにはいないのだろうか?

 そんな悠長なことをしているうちに、ミステリーサークル目当ての観光客の流れが急に変わる。まるで波のプールで押し戻されるかのように。

 突然の方向転換に俺は何とか留まろうとするが、逆らうことが出来ない。それどころか、ぐいぐいと外へと追い出されていく。

「はーい、次のお客様のために早く進んでくださいー」

 拡声器を持ちながら、ミステリーサークル現場を警備するやる気のなさげなボブカットの女性警備員。急転換の原因は、彼女の警備にあった。

「早く進めよー」

「先が詰まってんじゃねーか」

「何してんだー」

「もっと見たかったのにー」

 お世辞にも上手くない誘導に不満が漏れる観光客たち。その間にも、人と人がぶつかり合い揉みくちゃにされてしまう。痛い痛い、止めろってば。もっと真面目に働けって。

 ぶつかりまくった末に流れに何とか乗ることが出来たが、見るも無残な姿になってしまった。髪の毛はボサボサ、服はヨレヨレ、体のいたるところが打ち身で痛い。

 だが、武士はもっと酷かった。俺が人混みから出て1,2分後に抜け出せたようだが、人とぶつかった際に服の裾が破れる悲劇に遭ったようだ。一張羅かどうかは知らないが、ご愁傷様である。

「み、見つかったか、武士?」

「いや、全然。それどこか、まともに見ることも出来ねえぜ」

 どうやら、武士も同じく見つからなかったようだ。お互いに収穫なしの散々な結果に終わってしまった。

「もう一回揉まれに行くか?」

 嫌そうな顔の武士。お前が嫌だからって、俺に振ってくるなよ。

「ちょっとそれは勘弁させ……、あれ?」

 俺は、河川敷の高台に妙なものがあることに気が付いた。

 河川敷の高台に駐車された風景に似合わぬ10mはある黒光りの高級外車。その高級車の中から出てきたのは、俗に言う和ゴスと呼ばれる独特の衣装に、赤毛の縦ロールとこれまた不釣り合いな少女。そして、シニヨンが特徴的なメイドと思わしき女性。

 一人は分からないが、もう一人はしっかりと名前も顔も覚えている。

 東雲しののめ学園のノーブルローズこと、ブリジット・東雲しののめである。

「昨日のあいつじゃねえか。どうしてこんな所に用事があるんだ?」

「さあ? でも、何かヒントになるかもしれない。ちょっと話にいこう」

「おい、わざわざ関わるんか? また面倒なことになるかもしれないぜ」

「昨日とは状況が違うだろ。妙もいないんだしさ」

「しゃーねえな、あん中に入るよりかはよっぽどマシか」

 遠目からミステリーサークルを物見するブリジットに、俺と武士は坂を駆け上り急接近した。

「あら、貴方たちは昨日の……」

 意外そうな顔をするブリジット。どうやら、俺たちのことは全く気付いていなかったようだ。

「よぉ、一日ぶりじゃねえか。えーっと……、東雲のノーブラルーズだっけ?」

「ノーブルローズですわ、ノーブルローズ!! ブラジャーぐらいしてますわ!! おっぱいが原因で負けたわけではありませんこと!!」

 人前であること関係なしに武士相手に興奮するブリジット。無茶苦茶な間違えをする武士も悪いが、昨日のおっぱいの件を未だに引きずっているのもどうかと。

「ブリジット、お前も野次馬根性か?」

「いいえ、わたくしは貴方たち庶民とは同じような理由でこのようなところに来ませんわ」

「じゃあ、なんなんだよ?」

「現場確認ですわ。東雲家次期当主として、この東雲の町で事件一つ起こることなど許しませんことよ」

「へ~」

 東雲家次期当主としての責任感だろうか、それとも個人としての正義感だろうか。どちらかは分からないが、俺は彼女の志に多少の感心を覚えた。

「だとしたら、これは事件だと思っているのか?」

「事件という可能性もあるかもしれませんわ。ですが、宇宙人の可能性というのもありますわ」

 意外だった。東雲の性格から考えて、宇宙人なんて全く信じていなそうだったが。意外にもファンタジーを信じる性格のようだ。

「意外だな。乙女のロマンってやつか?」

「そういうのじゃあありませんことよ。確かに、世間一般では宇宙人がいないということになっていますわ。でも、それは現在の科学で及ぶ部分の話にすぎませんことよ。遥か遠くの宇宙に存在するかもしれませんし、この地球のどこかにひっそりと生きているかもしれませんわ。あるいは、何十年、何百年後の先に到来するかもしれませんわ。わたくしたち人間の考えなど、宇宙という膨大な世界の前には矮小そのもの、いないと断言するのは愚かですわ」

 そらのファンタジーチックな考え方とは違い、東雲の言葉には説得力というものが滲み出ている。これが東雲のノーブルローズとしての威厳たるというものであろうか。

「ところで、貴方たちはどうなのかしら?」

「俺は、一応信じているぜ。だって、大和がうち……、ううぅっ!!」

 咄嗟のヘッドロック!! 危ない危ない、めるのがもう少し遅かったら面倒なことになっていた。

「うち?」

うちでSF映画を見たからだってさ!!」

 苦し紛れの言い訳。だが、これで押し通すしかない。

「ああ、この間『スタートラック』っていうリメイク映画を2人で見に行ったんだけど、こいつが宇宙人の映画にはまっちゃってさあ。暇さえあれば、宇宙人の話ばっかりだ」

 よくもまあこんな嘘を、本物であるかのようにベラベラと話すとは。今の俺は、世間でちやほやされている大根役者な俳優よりかは上手く演じている気がする。

「ふーん……。ところで、貴方の連れは大丈夫なのかしら?」

 ブリジットに指摘されて、俺は今も武士を思いっきり絞めていたことに気が付いた。

「ギブギブ!!」

 顔を真っ赤にしながら武士はタップアウトをする。

「おおっと!!」

「はぁはぁ……、い、いくらなんでも本気出すなよ」

「すまんすまん」

 武士は窒息寸前状態から解放され、提灯のように真っ赤だった顔が元の顔色へと戻る。気付くのに遅れていたら、俺は殺人罪で逮捕されていたかもしれない。

「貴方たち、野蛮ね……。で、貴方はどうなのよ、夏目大和」

「ああ、俺か。俺は宇宙人とかUMAユーマとか超常現象の類は信じてないな。ああいうのは、漫画とかアニメとかゲームとかの世界の存在さ」

「そういう考え方もありかもしれないわね」

 東雲の考え方とは対照的なものであったが、あまり気にしていないような物言いだった。これまた意外な反応。

「でも、何か根拠でもあるのかしら?」

「いやいや、宇宙人なんて空想上の存在さ。特に獣のような耳とか尻尾を生やした宇宙人なんかいた……、ぶびゃっ!!」

「ぐばへぁっ!!」

 瞬間、俺と武士は、背後から強く弾き飛ばされた。俺は宙を3回転した後、ゴロゴロと河川敷へと転がり落ちた。イングランドのチーズ転がし祭り、あるいは池田屋の階段落ちさながらに。

 一方の武士は、俺とは逆側の坂へと転がり落ちた。どのように転がり落ちたかは死角になっているためよく分からないが、あまり想像したくない。

 何が起きたんだ?  俺は体にまみれた雑草や土埃を払い高台を見つめた。ぶつかったのは自動車か、それとも猪か?

 いや、ぶつかったのは自動車でも猪でもなかった。自転車に乗る小柄なウルフカットの少女だった。

「ブリジットさまー!! ミステリーサークルを撮影したよ!!」

 桁外れに高いテンションの突撃少女。似合わぬ年代物のカメラを持って、はしゃいでいる。それは宇宙人の話題をしている時のそらに匹敵、いや下手をするとそら以上のものかもしれない。おかげで俺と武士は、生まれて初めてのトリプルアクセルを体験してしまった。

「リリィ、お疲れ様よ」

「きゃう~~ん」

 吹っ飛ばされた俺を気にせず、リリィという名の少女の頭をグシャグシャと撫でる。その様は、とても気持ちよさそうだ。もっとも、俺の気分は最悪だが。

「それではわたくし達は用事がありますので、これでお開きにさせてもらいますわ。夏目大和、犬飼武士、御機嫌よう」

河川敷の下まで転げ落ちた俺を一瞥し、三人と自転車をのせた黒塗りの外車は、どこかへと立ち去ってしまった。

「いててて、最悪だ……」

 見る見るうちに小さくなっていく外車を見つめ、俺はゆっくりと立ち上がる。ただ話していただけなのに、こんな災難に遭うとは……。しかも謝ってくれなかったし。昨日もついていなかったが、今日もかなりついていないな。

 そういえば、反対側に転げ落ちた武士はどうなったんだ?

 俺は坂を再び駆け上り、武士の安否を確認した。

「うへぇ……」

 武士が転がり落ちた先は、ドブだった。そして、武士はそのドブで――あまりに悲惨な姿なので、これ以上は武士の名誉のために省かせてもらう。


                ※


「こちら、スミレ……。現在、接触者Aを発見。しかし、ターゲットは発見できず……」

「そうですか、引き続き監視を続けてください」

「了解……」


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