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彼女たちの極秘事項(トップシークレット)  作者: 黒野ノエル
第2話 セカンド・インパクト
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第2話 セカンド・インパクト(2)

「うにゃあ」

「ごめんな、今はこれしかないんだ」

 当たり前だが子供用のパジャマなど持ち合わせていないので、俺は予備のパジャマとボクサーパンツを着せた。主観的感想としてはブカブカで着心地が悪そうだ。しかし、ネコ耳少女はそのことを全く気にしていないようだ。それどころか、気に入った模様。

「そろそろ寝るぞ」

「うにゃあ!!」

 俺は押し入れに詰め込んでいた布団と掛布団を畳の目に沿うように並べた。それを見て、ネコ耳少女は布団に向けてダイビングジャンプをする。

「うにゃにゃにゃあ……」

 布団の上でゴロゴロと転がりながら喜ぶネコ耳少女。なんだか年相応らしい行動で可愛いらしい。

「気持ちいいからって、またお漏らしなんかするなよ」

 俺は部屋の灯りを消して、睡眠モードへと移行する。

 狭い布団に入るや否や、ネコ耳少女は俺に抱き着く。服を通して伝わる温もり。抱き枕の気分というのはこういうものなのだろうか? 意図したものではないが、こっぱずかしい。

「にゃーにゃにゃにゃ」

 ネコ耳少女が言っていることは分からない。だけど表情と声色からして、喜んでいるのは確かだ。

「うーにゃにゃあにゃ、にゃにゃにゃあ。ふにゃあーにゃ、にゃにゃ、うにゃあ」

「そうか、そうだったのか」

「うにゃにゃ、みゃあ!! うにゃあにゃあにゃあ、にゃにゃ」

「ふむふむ」

「ふーにゃ、うーにゃ、にゃーにゃ。にゃあにゃあうにゃ!!」

「へ~」

 ネコ耳少女の話に合わせて相槌を打つ。どんなことを話しているかは理解できないけど、ネコ耳少女がとても楽しく話していると思わずつられてしまう。それに、分からないからといって無反応というのもネコ耳少女にとって気分が良くないかもしれない。今はとにかくネコ耳少女の気分を安らげることが先決だ。

「にゃあにゃあ……」

 突然、ネコ耳少女のトーンが落ちた。

 いや、トーンだけではない。表情も快晴のような笑顔から曇天のような表情へと変わる。

「にゃ、にゃあにゃあにゃ……」

「一体何があったんだ?」

「うにゃうにゃ……」

 ネコ耳少女の瞳から涙が零れ落ちた。

「もしかして、寂しいのか?」

「うにゃ」

 ネコ耳少女はコクリと頷く。

「やっぱり、家族のところに戻りたいのか?」

「うにゃ」

 ネコ耳少女は再びコクリと頷く。

 いくら俺のことを気に入ったからといっても、やはり幼子。長い時間親元から離れていれば、心細くなってもおかしくはない。

 しかし、ネコ耳少女の両親の電話番号や住所が分からないから今こうやって悩んでいる。何を言っているかもわからないし、この様子だと言葉を書けるかも怪しい。

 唯一の手がかりは、夕方に出会った少年と画像。体格こそは違うが、あの画像を見る限り、かなりの共通点がある。恐らくは家族か友人、あるいは関係者かもしれない。

 だが、携帯電話の一つでも持たしてやらなかったのだろうか? そうであれば、こんな事態にならなかったのに。あの少年に出会ったら、事情を洗いざらい吐いてもらわないとこちらとしても溜飲が下らない。「にゃあ……」

 ネコ耳少女は、いつの間にか泣き顔から何か恐れているような顔へと変わっていた。怒りが顔に出ていたのだろうか? 風呂の時もそうだが、少し深く考えすぎだ。

「怖がらせてごめんな」

 俺はフォローするかのようにネコ耳少女の頭を優しく撫でた。

「にゃあん」

 涙で濡れた頬を俺のパジャマへと擦り付けながら、再び抱き枕みたいに抱き着く。

「明日、お前の両親を見つけてやるからな」

「うにゃ」

 ネコ耳少女は、小声で相槌を打った。

 それから何分経ったのだろうか。泣き疲れてしまったのか、ネコ耳少女はそのまま眠りについた。

 頬は少し赤く、うっすらと涙と跡が残っている。悲しげな表情も今は無防備な状態、子供の可愛い寝顔そのものである。

 それにしても今日は目まぐるしい一日だった。

 朝はそらに無理矢理起こされて、ミステリーサークルの現場で大恥をかいた。

 学校では謎の美少女転校生の妙に一目惚れされた。

 橘橋で謎の少年に人探しを聞かれた。

 夜は妙がどうやってか調べたのか分からないが俺のバイト先を見つけて、バイトを始めた。

 そして、隣で寝ているネコ耳少女との出会い。

 二十四時間、ここまでアクション出来るとは思わなかった。自分を褒めてやりたいぐらいだ。

 さて、冗談はこれぐらいにしてそろそろ寝るとするか。明日の朝にでもこれから先のことを考えよう。今は少し前に放送されたZ級映画『エイドリアンVSエイドリアン』並みに眠たい。

 おやすみ。


                             ※


 雀のさえずりが聞こえる。

 カーテンとカーテンの間から、日差しが差し込む。

 気怠さに耐えながらも、手元に置いた時計を確認する。11時だ。

 これが平日ならば、三時限目の授業。大遅刻どころか仮病休みそのものである。

 だが、今日は土曜日。学校は休みだからそんな気兼ねもなく布団に籠ることが出来る。

 俺は再び安眠の時へと入る。

 いや、俺の都合通りにはさせてくれなかった。

 眠気眼からおぼろげに見える、空飛ぶ物体。その謎の飛行物体の正体に気付くのは、1秒後だった。

「にゃにゃあ~!!」

 昨日拾ったネコ耳少女だった。

 掛布団を挟んでボディプレスをするネコ耳少女。

「ぐべぇっ!!」

 俺はなんとも情けない叫び声をあげてしまった。

 年齢相応の体重であるため、そこまで重たいわけではない。だが、勢いがある分、衝撃が加わり、体全体に重圧がかかる。

「にゃにゃー、にゃにゃーん!!」

 馬乗りとなり、ゆさゆさと揺らして起こそうとするネコ耳少女。それも無邪気な笑顔で。

「お、起きるから止めてくれ!!」

 朝からテンションMAXのネコ耳少女の目覚まし時計に眠気が醒めてしまった。こんな強烈な起き方で、まだ眠っていられる人がいるのなら、相当図太い神経の持ち主だ。

 俺は眠気に耐えながらも布団から出て、冷蔵庫の中を確かめる。昨日は買い物に出ていないからロクに食べ物がないが、二人分の料理を作るには十分。それに起きたのが遅いから、今日は少し多めに料理を作ろう。洒落た風に言えば、ブランチってやつか。

 冷蔵庫に残っていたツナ缶と鮭フレークを使ったおにぎり。そらや妙ほどではないが、それなりに上手に作られる卵焼き。軽く焦げ目のついたウインナー。そして、じゃが芋とキャベツと豆腐の味噌汁。冷蔵庫に残っていたもので作ったにしては、それなりにいいものが作れているじゃないか。

 パッパと作られ、小さなテーブルに並ぶ料理の数々。その光景に、ネコ耳少女は一昔前か二昔前でよくあった少女漫画のヒロインのように目をキラキラと輝かせている。

「よし、食べるか」

「うにゃ!!」

 俺は、手を揃えて「いただきます」と食事の挨拶をする。それを見てネコ耳少女は、意味が分かっているのか分からないのかは知らないが、「にゃにゃにゃー!!」と真似をする。

 テーブルの中央に置かれたジャーマンポテトを箸で突き刺すネコ耳少女。

「箸は突き刺して使うもんじゃない。こう使うんだ」

 ネコ耳少女にお手本となるよう、正しい箸を使い方を見せつける。俺はゴツゴツとして厚切りになっている味噌汁のじゃが芋を絶妙なバランス感覚で摘み取る。決して器用というわけではないが、このぐらい造作でもない。

「にゃ、にゃにゃあ」

 箸を初めて使ったのか、上手く箸を持てないことに幼子なりに難しい顔をする。

「にゃあ!!」

 突然、ミミは台所へ向かって走り出した。一体何があったのだろうか?

「にゃあにゃ、にゃにゃにゃ!!」

 中から取り出したのは、フォークとスプーン。どうやら、これで食べようとしているようだ。

 だが、使わせまいとすかさず取り、俺は食器棚へと戻す。

「ダメだ、フォークとスプーンを使っちゃあ」

「うにゃ~……」

 しょげながらもトボトボと席へと戻るネコ耳少女。昨日知り合った子であっても、マナーは守らせないと将来苦労してしまう。これは、そのための教育だ。

 しかし、今度はウインナーの皿を箸で引き寄せて、ウインナーを箸で突き刺すミミ。

「だから、握り箸も刺し箸も寄せ箸もダメだって!!」

「にゃー、にゃにゃうにゃー!!」

「意地悪じゃなくて、これは食べる時のマナー。親から教わらなかったのか?」

「うにゃ~……」

 機嫌こそは悪いものの、やっと理解したらしく、今度は正しい箸の持ち方で食べ始める。慣れていないためにかなり危なっかしい光景ではあるが。

 ふぅ……、風呂の時といい、料理一つ食べさせるのにこんなに苦労するとは。俺の両親もこんな感じだったのだろうか。仕送りもそうだが、なんだか親の有難味が少し分かった気がする。

 心で親に感謝しつつ、俺はアツアツの味噌汁をすする。ちょっと、味噌を多く入れすぎたかな? いつも

より濃い味になってしまった気がする。

 ビーッ、背後から安物らしい呼び鈴の音が鳴り響いた。こんな時間に用事とは、宅配便だろうか?

 確認のためにドアの小穴から外を覗き込む。

 外にいるのは、武士にそら、そして妙。一体、何の用事だろうか?

「大和。いることは知っているから開けろ」

 ドア越しに聞こえる武士の声。はいはい、と俺は扉を開けようとする。

 だが、直感的に気付く。扉を開けてはいけないことを。

 もし、ここで扉を開けたらどうなるだろうか。確実に誘拐犯だと誤解されてしまう。そうなれば、俺の人生が終わってしまう。とても「迷子の少女を泊まらせました」などという言い訳が通じそうもない。

 俺は血の気が引く感覚に襲われてしまった。よく考えなくても、非常に危険な状況だ。

「大和、開けるぞ」

 武士がドアノブに手をかけようとした直前、俺が先に扉を半開きの状態にする。当然、俺が隙間に重なるようにして、部屋の中が見えないように。

「あ、朝から何の用なんだ。た、武士に、そらと妙」

「何の用事って……。昨日の夕方、言ったじゃねえか。お前にゲームを貸してやるって」

「そ、そういえばそんなこと言っていたな。だが、そらと妙は一体?」

「橘町の古本屋で専門書を買ってたの。その帰りに武士くんに出会って」

 そらのトートバックの中から出てきた数冊の天体学やロケット、宇宙人関連の専門書。折り目がついていたり、黄ばんでいたりとどれも年季の入ったものばかりである。

「私は、大和さまに逢い来ましたわ」

 休みなのに、俺の家まで来るとは。昨日は一日中振り回されたというのに、今日も振り回す気なのか?

「ご、ごめん……。今日は、急用が出来てな……。ちょっと急がないといけないんだ」

 俺は、適当に誤魔化そうとする。しかし、

「急用って、一体なんだ? それだけ忙しいことか?」

 なかなか引き下がってくれない。普段はそこまで勘が良いわけじゃないのに、今日に限ってどうして勘が良いんだ?

「いや、うちの親戚の爺さんが亡くなって……。だから、今から出ないといけないんだ」

「大和くん、嘘を言わないの。もし、それが本当だったら、私の所にも連絡が来ているよ。大和くんのおじいちゃんを勝手に死なさないで」

 そういえばそうだった。近所のよしみか、こういう事に関しても付き合いがあったんだよな。俺としたことが、簡単なミスを。

「もしかして何か隠しているの、大和くん? 見られちゃあいけないものでもあるの?」

「大和さま、私たちに言えないことを隠しているのでしょうか……?」

 不安そうな表情のそらと妙。ヤバい、俺が隠し事をしていることに気付き始めた。このままでは俺がネコ耳少女を匿っていることがバレてしまう。

 だが、それに追い打ちをかけるようにトラブルが発生。

「うにゃあ!!」

 背後で器を落とす音とともに、ネコ耳少女の叫び声が。音からして、味噌汁あたりが零れたのかもしれない。どうして、こんなタイミングでトラブるんだ。

「うにゃあ、って……。もしかして、ネコでも飼っているの?」

「大和さま、重要なことでしたら私たちが相談してあげます」

「友人同士での隠し事は良くないぜ。早く開けるんだ」

 もうこれ以上は隠しきれない。こうなったら、強行策に乗り出すしかない。

「だから! 俺は今日、忙しいって言っているじゃないか!」

 仕方なく、俺は感情に身を任すという選択肢を選んだ。いや、選んでしまった。

 大声に驚いたのか、後ずさりをする三人。

「俺だって、お前たちに言えない用事だってあるんだよ!! プライベート的な用事が!!」

 周りに迷惑がかかるかもしれないが、ここで武士たちを追い払わないと俺の人生が大変なことになる。だから、信頼に関わってもいいから切り抜けないと。

「いや、そんなに怒らなくても……。分かったぜ、今日は帰らせてもらうからな」

「ご、ごめんね、大和くん。本気にさせちゃって……」

「すみませんわ、大和さま……」

 さっきまでとは違い、声のトーンが低くなる三人。

「ごめん、本気になって。でも、今日は忙しいんだ。大和、そら、妙、また今度にしてくれ」

「分かったぜ。じゃあな、大和」

 武士との会話を最後に三人はアパートから立ち去った。人生に左右する出来事との直面しているとはいえ、何か後ろめたさがある。月曜日には謝っておこう。

 だが、それよりも先にやることがある。ネコ耳少女の零した味噌汁を拭かなければ。

「大丈夫か」

「うにゃにゃにゃ~」

 茶色に変色し、味噌汁の匂いの漂うパジャマとボクサーパンツ、畳に散らばるじゃが芋とキャベツ。

「全く、世話のかかるやつだ」

「にゃにゃん」

 俺は、ベランダに放置された雑巾で濡れた畳を綺麗にふき取る。その一方で、ネコ耳少女はネコ耳少女でびしょ濡れになった服装をあっという間に脱ぎ、髪飾り以外は生まれた時とそのものとなる。昨日、見た姿ではあるが、直視出来るほどの勇気などない。

 押し入れから替えとなる半袖の服を出そうとするが冬服に埋もれているせいか、なかなか見つからない。当面使う機会がないから奥にしまっていたが、こんな時に仇になるとは。

「あったあった、これだこれ。これなら、汚しても大丈夫だ」

 押し入れの奥から見つけたウニクロの無地の黒Tシャツ、1枚980円。値段が値段だけに、安っぽい作りではあるが、これなら多少汚したりしても問題ない。

「これに着替え……」

「大和、ゲームを渡すの忘れてい……」

 開かれた絶望の扉。六つの瞳には、絶対に見られてはいけないものが映し出されていた。

 全裸のネコ耳少女を着替えさせる東雲学園高校二年生、夏目大和の衝撃シーンを。

「「「「あ」」」」

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