第1話 ファースト・コンタクト(1)
数年ぶりに、小説家になろうでリスタートしました。
本家ブログでも更新しておりますが、小説家になろうへのリソースを回す余裕が出来ましたので、1からやり直すという形で連載開始しました。
新しくなったオリジナルSFファンタジーライトノベル。『彼女たちの極秘事項』、略してカノゴクを最後までお付き合いよろしくお願いします。
今日のバイトは、恐ろしく大変だった。
客の間でのトラブル、レジの収支報告のミスによる残業、店長の無駄話。様々な要因が重なって、11時を過ぎてしまった。
せっかく楽しみにしていたバラエティTV番組を見ることが出来なかった。だからといって、仕送りだけでは生活が出来ない。放課後にバイトをする必要がある。そんなジレンマがストレスを募らせる。
だからこそ、今日ぐらいは少し贅沢をしたい。ストレスを溜め込んでいても毒だ。甘いものでも食べて解消をしたい。
お気に入りのバーゲンダーツのチョコレートアイス? それとも、最近発売したシェフの気まぐれで生まれた伝説的なシュークリーム? どちらも捨てがたい。
小市民的思考ではあるが、ちょっとした楽しみに俺は期待が膨らむ。
しかし、そんな小市民的思考を邪魔する要素を1,2分前から感じ取った。
誰かにつけられているのだろうか? 自分のものとは違う足音が重なるように小さく響く。それもこちらが歩調を速めれば、もう一つの足音も早くなるし、歩くのを止めれば、足音も止む。
俺は早足で十字路を切り、曲がり角にべったりと隠れた。足音の正体がアレならば、逆に返り討ちにしてやろうじゃないか。
だんだんと大きくなっていく足音。どうやら、こちらの意図には気付いていないようだ。
目標接近まで、3,2,1……。
「わっ!!」
深夜でもあるにも関わらず、童心に戻って、足音の正体を驚かした。いつものことならば、腰を抜かして驚くであろう。
だが、予想は大きく違っていた。
「うおるわあぅっ!!」
間の抜けた声と共に、思わず尻餅をついたのは、俺のほうだった。
曲がり角で待ち構えていたのは、東雲学園のブレザーを着た、耳も目も鼻も口も無いのっぺらぼう。女性用のブレザーと胸が膨らんでいることから、女性であることは確か。そして、のっぺらぼうのような人間がこの世にいるわけが無いのも確か。これが、パーティーグッズの被り物あたりだということは、容易に想像がつく。
だが、俺には二つの盲点があった。
一つは、驚かすことばかりに意識が集中していたために、逆に驚かされることを想像などしていなかったこと。もう一つは……。
「あははは、ひっかかった、ひっかかったーっ!!」
のっぺらぼうの被り物を剥がし、露わになったのは、二つの星がポイントなった髪飾りと腰ほどの長さがある黒髪ロングが特徴的な茶色の瞳の少女。
そう、俺の幼馴染みである星野そらが、珍しくもこんな悪戯をしたことが、もう一つの理由だ。
星野そら。
俺の幼稚園時代からの親友であり、幼馴染みでもあり、腐れ縁でもある。
隣に家同士だったから何かと関わりも多かったし、遠足や祭り、運動会といったイベントでもよくペアを組むことが多かった。中学に進学してからは、そらが中高一貫校である東雲学園で寮生活をするようになり、しばらく疎遠になったが、俺が東雲学園に高校から入学してから、再び関係を持つようになった。前のように親友として、幼馴染みとして、腐れ縁として。
それにしても、普段はこんな事をしないそらから不意打ちから受けるとは……。いつもなら、そらの方が驚くのだが。
「もー、毎回毎回、同じ手が効くと思っているの?私だって、そこは学習するんだから」
「参ったな。今日も、ビックリすると思ったのだが」
やれやれと髪を掻きながら、俺は立ち上がる。
「それに、相手が私じゃなかったからどうするの?私以外だったら、大変なことになっていたかもしれないよ。ケガをしていたかもしれないよ、警察沙汰になっていたかもしれないよ」
説教をしているが、口調が丸いためか、あまり説得力を感じられない。そこがそららしいと言えば、そららしいのだが。
「それはそうだけど……、お前だと分かっていたから、こんな子供っぽい事をしたんだからな。お前じゃなけりゃあ、そういうことはしない」
「えっ……」
「まあ、幼稚園時代からの腐れ縁ってやつか」
「うん、そうだね……」
そらは何を期待していたのだろうか、僅かながら表情を濁らせる。なにか不味いことでも言っただろうか? しかし、そらはすぐに元の明るい表情へと戻る。
「そういえば、大和くん。今から、見に行かない?」
そらは、肩に背負っていた天体観測用の望遠鏡を見せた。小学4年生の時、誕生日プレゼントとして貰ったお気に入りの屈折式望遠鏡だ。
「天体観測か? ああ、別に悪くないが。でも、そろそろ帰らなくても大丈夫なのか? 終電に乗り遅れるぞ」
「ううん、大丈夫。だって、今日は大和くんの家に泊めてもらうもの」
「俺の家に!? ちょっと、いきなりすぎるって!!」
突然の申し出に、俺は若干パニくってしまった。
幼馴染みではあるが、一緒に寝るなど小学生の時以来だ。高校生になって異性が同じ部屋で寝るなど、如何わしいことをしていたと思われてもおかしくない。
絶対に断らなければ、俺のためにも、そらのためにもならな……。
「それとも、年頃の女の子に野宿でもさせるの? 大和くん、酷いよ……」
目を潤ませ泣き落とす女の子の切り札を使われてしまった。そう言われてしまうと、返答のしようがない。全く、女の子という生き物はズルい。男が同じことをしても、絶対に通用しないというのに。
「ったく、仕方ないな。ただ、泊まる以上は色々と手伝ってもらうからな」
「ありがとう、大和くん……」
少し顔を赤らめ感謝するそらに、俺はつくづく甘いなと内心思うのであった。