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愛でる会、入会

一見、人を拒絶しているかのような不器用の裏に隠れる可愛さを知ってしまった俺は、自分でもどうかと思うくらい、彼女の全てが可愛く見えるようになった。


蔑むような眼も、緊張と視力のせいで、一生懸命こちらを見ようとしているのだと思えばむかつくこともない。一言一言、言葉を区切るように言うのも、馬鹿にしているわけではなく、こちらに聞いてもらおうと必死だと思えば愛おしい。


仕事が一山抜けたこともあって、時間が取れるようになった俺は、何故かちょー協力的な先輩の後押しももらって、彼女に積極的に話しかけた。俺は犬かって突っ込みいれたくなる位、纏わり付いた。自覚はある。ただ、自重はしねーけどな!


「ゆいちゃんせんぱーい、好きです。先輩に頼まれて書類出しに来たっす」


分かったこと。


仕事中のアタックには、鉄壁のガードが発動する。俺が、どれだけくさい台詞をはこうと、全く照れたりせず、一言のもとにばっさり切り捨てる。ドサクサ紛れにぎゅっと手を握った時には、軽くゴミ虫を見るような眼で睨まれた。


「ゆいちゃんは真面目だからねー。お仕事ちゃんとしないのは、かなりのマイナスだよ」


先輩のアドバイスもあったため、仕事の間は、挨拶をするだけに留め、仕事で必要な話以外は控えるようにした。


その代わり、先輩とのお昼は一緒に付いてった。というか、先輩をだしに、毎回誘った。その甲斐あって、俺に話す時に緊張することがなくなり、段々と素の彼女が見れるようになった。


「へぇー。結構近くに、こんな美味しい場所があったんだねぇ」


「でしょでしょ? ちっちゃいから見逃すけど、安くてうまいんすよ。大盛り無料なんで、量も十分だし」


流石に先輩達の行く店に、毎回行くのは厳しいので、俺が開拓した中で、先輩達が喜びそうな場所に来たんだが、当たりのようだ。二人とも、美味しいねー、と頷きあっている。


その表情をこっちにも向けろ! と念を送っていると、それぞれの頼んだものが眼に入る。……あっちもうまそー。。


「……ひと口ほしいの?」


「あ、やだなー、ゆいちゃん先輩。ただ見てただけっす。だけど、くれるっていうなら、ちょっと食べてみたいっす」


目ざとく気付いた彼女が、自分の分を少し取り分けて、お皿に置いてくれる。先輩も、同じく分けてくれた。二人とも、実は女神?


「んめー! お返しに、はい、あーん」


他人からもらうおこぼれは、ただでさえ美味い。ましてやそれが、慕わしく思う相手ならなおのこと。俺は、その感動を素直に伝え、お返しに自分のおかずを箸でつまんで差し出した。


「わ、私はいいわ」


「なに言ってんすか、もらいっぱは良くないっす。はい、あーん!」


「じゃ、じゃあ、あーん。……うん、ありがと、美味しい」


くーっ! 躊躇いながら食べ、はにかみながら礼を言うその姿。たまんねー!


「只野君只野君、私にはそのデザートでいいよ」


今なら、先輩にドサクサ紛れにおねだりされたって、二つ返事でオーケーしちゃうぜ!


「りょーかいっす。ゆいちゃん先輩もどうっすか? 何なら、俺と半分ずっこってのもありっすよ!」


また、あーんで食べさせてあげますよ! という言葉は隠して聞いてみた俺だったが、らんらんとした俺の眼に、何かやばいものを感じたか、引き気味に拒否されてしまった。


「わ、私はいいわ。自分達の分を頼んで」


ちぇー。


「すみませーん、胡麻団子みっつー!」


「た、只野君、私はいいって……」


「なんすかー? やっぱ俺と半分こにしたいっすか? あーんがいいっすか?」


顔をずずいと寄せて食い気味に聞くと、慌てて首を振る彼女。結構分かりやすく押しに弱い。



「いやぁ、只野君なら分かってくれると思ったんだよねぇ。ゆいちゃんの魅力。可愛いゆいちゃんをいじ……愛でる会へようこそ!」


後日、先輩から、彼女を思う存分堪能する会の存在を知らされた。


俺が彼女を嫌っていたときから、俺は会員として有望だと目をつけられていたらしい。何でも、あれだけ彼女を意識してるなら、魅力にやられるのも時間の問題だと思ってたとか。


「でも俺、どっちかっつーと、皆にとって邪魔になるよーな気がしますけど」


その他大勢と、仲良く愛でるなんて無理だし。俺だけのもんだし。


「あぁ、それはいいの。先着一名、抜け駆けオッケーだから。私達は、そのポジションに興味がないだけで、恋人がいても、一緒に愛でるだけだから大丈夫」


恋人とのやり取りをすらも愛でる会なので、いじる人間が誰でもいいらしい。


「だから、見られてると緊張しちゃって普段どおりになれない人より、皆の目の前でどうどうといちゃついてくれる只野君なら大歓迎! 私達、その反応を見て楽しむから」


……どうやら、干渉されない代わりに鑑賞されるようだ。でもまぁ。


「そんなんで、応援してもらえんなら、いつでもオッケーっすよ!」


まぁ、勿論、他人の目のないところで十分いちゃいちゃしたいことはあるけど、流石に、部屋に隠しカメラとかがある訳でもないんだし、大丈夫だ。


「だから、これからも、ご支援ごべんたつのほど、よろしくっす!」


「うむうむ、苦しゅうない。存分に頼るがよいぞ」


とても頼りになる協力者を味方につけ、これからも頑張るぞ!

何という手のひら返しな態度でしょうか。


それでも、自分は最初っから彼女のことが気になってたんだ、とは気づけないのが只野くんクオリティ。

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