三人でお昼
久しぶりに、小説を投稿してみたところ、恋愛ジャンルが「異世界」と「現実」に分類されているのにびっくり。
いや、それ、戦記物とか、そういうやつにする分類じゃないのかね。。。
恋愛なら、両想いと片想いとか、悲恋か得恋かとか、そういう分類なんじゃないかなー、と思ってしまった私は、オクレテルんだろうか。。
俺は、斉藤唯子が気にくわない。
あいつは、俺の三年上の先輩であり、隣の部署に配属されている。
俺のOJTの先輩が、あいつと同期であり、かつ仲が良いことから、何かと眼にする機会があるのだが……。
「ゆいちゃーん、お仕事終わった? お昼一緒に食べよ~」
「うん。もう少し待ってくれる? ……あ、こんにちは。貴方もいたんですね、お昼は貴方も一緒に来るんですか?」
これだ。
先輩にはにっこり笑って答えてるくせに、俺を見た途端、眉根を寄せて嫌そうに聞いてくる。誰がお前なんかと食べるかっての! ……とは、面と向かって言えないけどな。
胃の中のムカムカを表に出さないように、穏便に断ろうと口を開いた俺だったが、言葉は音になる前に遮られてしまった。
「あ、それいいねー。只野君、お昼外だよね? 一緒に行こうか。太っ腹な先輩達が奢ってあげよう」
せんぱーい! 勝手に決めないでくださいよ! ……いや、奢りは正直助かるけど。でも、女二人と一緒に行って、奢るどころか奢られる男ってどうなの。いや、先輩達の行く店ってお洒落で、俺が一人で行けるようなとこじゃないから、奢られるより他ないんだが。でも、やっぱ、男が奢られるって、格好付かないっつーか。
ていうか、二人とも、俺より早く働いてるったって、たった三年だろ? なのに、何でこんな店行けるんだ?
「先輩達、何でそんなに余裕あるんすか? 先輩達も一人暮らしっすよねー?」
俺なんて、思ったより食費や電気代がかかって、毎月かつかつだってのに。……はっ! まさか、うちの会社、毎年昇給すっげーの? 三年経ったら、うっはうは?
思わずにやつきそうな頬を押さえて見た先に、にこにこと笑う先輩と、絶対零度の瞳で俺を見つめる女の姿。
「言っておくけど、そんなに夢を見るほど昇給なんてないわよ。毎月、絶対に必要な分だけ取ったら、その後は何にどの程度使うかを決めておけば、最後に足りなくなって慌てるなんてことなくなると思うけど?」
声に硬度があるなら、正にダイヤモンドの硬さだろう声色で吐き捨てた嫌味な女は、そのまま何もなかったかのように食事を続ける。
それが出来たら、最初っから苦労してねぇんだよ! ふんっ!
「そうだねー。最初は、どこにどれ位お金かけていいか分からないから、ざっくり使う分を用途別に分けておくといいんじゃないかな?」
不貞腐れた俺に、優しい先輩が具体的なアドバイスをくれる。
「封筒に、それぞれの予算を入れておいて、その用途に使う時に、封筒から出して使うようにすれば良いんだよ」
そうすれば、小まめに家計簿をつけられない俺でも、自分がどの程度使ってるか分かるんじゃないか、という話だが……。
先輩には悪いが、十分めんどい。毎回、お金下ろして、予算決めて、それぞれ分けて、使うのはその封筒からって。。。
例えば、スーパーで食べもんと歯ブラシ一緒に買ったら、どうなる? コンビニで弁当とパンツ買った場合は? いちいち考えなきゃなんないのが、かったるい。
この方法、元々キチンと家計簿つけられる人間には楽かもなんだけど、レシート取っとくのですら面倒だった人間には、ちょっちハードル高すぎるんじゃねぇかなー。。。
より詳しくやり方を教えてくれてる先輩を横目に黄昏れていた俺だったが、馬鹿にしたような声に、意識を戻された。
「無理じゃない?」
「ん? 何が?」
話を遮られても、怒らず笑顔で聞き返す先輩。天使だ。
「多分、やろうとした時点で訳が分からなくなって、結局封筒買うだけ買って、そのまま終わりになるのがオチだと思うわ」
ちろりと、こちらを見下したように、思いっきり馬鹿にしたことを言う、嫌味女。
やってみねーとわかんねぇだろ! と怒鳴ってやりたいが……。じゃあ、やってみろといわれるのがオチだ。で、出来なかったら、すっげー馬鹿にされる。絶対、ほれ見たことか、と蔑みの視線を向けてくるにい違いない!
想像するだに屈辱的で、拳を握り締め、ふるふると震える俺。そんな俺に、あいつは更に追い討ちをかけてきやがった。
「まずは、飲み会とか友達なんかとの遊びのための予算だけ決めて、その分だけは封筒に入れておいて、その封筒全部使っちゃったら、それ以降は参加できないようにするだけでいいんじゃない?」
あんたのレベルなら、精々その程度でしょ、という副音声でも付いてそうな、何かを含んだ歪な笑顔。にこり、ではなく、にたり、という感じ。よく見ると、ひくひくと口元が引きつっている。
こちらも思わず顔が引きつったのは不可抗力だと思うが、嫌味女はお気に召さなかったらしい。明らかに不自然に下を向いて視線を逸らされた。それがまるで、俺が悪いことをしたと責めているようでむかつく。
そんな俺たちを尻目に、先輩が明るい声で、パチンと手を叩いた。純粋な先輩は、俺らの間に漂う険悪な雰囲気など理解できないのだろう。
「あ、そうだねー。最初から全部やろうとすると大変かもしれないし、一番削ろうとすれば削れるけど、使おうとすればいくらでも消えていく部分だけ、上限決めて守るようにした方がいいかもね~」
先輩の中身は、性善説で出来ているに違いない。嫌味女の嫌味も真っ直ぐ受け止め、さっすがゆいちゃん、などとおだてあげている。何という天使。あまりの神々しさに、思わず手を合わせたくなる。なむなむ。
一方、嫌味女は、褒められたのが嬉しいのか、先輩の方を向いて、俺には一度も見せたこともないようなやわらかい笑顔。……何か俺、二人の世界に入ってる恋人同士の馴れ合いを覗き見してる独り者みたいじゃねぇ?
な~んか、無性に面白くない。女二人もいて、状況的には両手に花だってのに、何で俺がぼっちになるわけ? ここは、先輩と俺が楽しく話してる中に入れないあいつを、俺が鷹揚に仲間に入れてやって、感謝される場面じゃねぇの?
腐った気分でパスタをつついていると、ようやく観客を思い出したのか、嫌味女の顔がこちらを向く。な、なんだよ、じっと見てきやがって。
途端に、ばくばく騒ぎ出した心臓を必死に押さえていた俺だったが、あいつはやっぱりあいつだった。
「最初は、その程度からやってみたら? それで、慣れることが出来たら、少しずつ項目増やせば良いじゃない。一応、ぎりぎりとは言え、ひとりで生活できてるんだから、一気に全部管理しようとしなくなって大丈夫でしょう?」
ま、それすら出来ないんでしょうけどね~、という副音声付の提案をしてくる嫌味女。ご丁寧に、馬鹿にした笑顔付。さっきの笑顔は、悪人をも浄化する清らかさを持つ、先輩に対してのみ適用されるものだったらしい。ふざけんな。
くっそー! 負けるもんか! やってやる。絶対にやり遂げてやるー!!!