路地裏
「つまんねえな・・・」
暗い夜の路地裏で少年が呟いた。
服は破れ、その隙間から見える肌には深い傷があり、ふらつきながら歩き出そうとしている。黒いはずの服の生地に赤黒いシミが広がっている。
周りには数名の男が倒れていて意識はない。喧嘩で少年がたった一人で全員倒したのだ。
ふわふわとした黒い耳と銀が混ざった黒い尻尾が生えている。それは彼が狼男であるという証拠。
少年の名はトウリ。
先ほどまで彼が喧嘩していたのには訳がある。
幼い時に彼を置いて両親が家を出た。頼れる親戚も居なく、貧しい生活を盗み・汚れ仕事で乗り越えて来た。そのために様々な人に追われてたびたび襲わていたのだ。
その生活も手伝ってか、感情が欠落して人を殺めることを躊躇しなくなり情を抱くことが命取りとなる仕事で天才とも呼ばれているのだが。
そんな彼でも流石に一度に多くの人数を相手にしたのは無理があったようだ。
少し進んだ先で口を抑えうずくまる。
「カハッ……」
手に血が吐き出される。
「っ!?」
本人もここまでダメージが大きかったとは思ってもみなかった。そしてその時、自分の残りの時間を感じ取った。手を動かそうとするが全く力が入らない。
「っち………」
冷たいコンクリートに横たわったままふと、今までの人生を振り返る。物心付いた時には周りには誰も居らず、施設でも孤立。養子に迎えられた先は暗殺者。人殺しなんて日常茶飯事。
「ふっ……ろくな人生じゃなかったな……」
ビルの間から見上げた夜空は澄み渡り星が瞬いていた。よくよく考えたら夜空なんて気にしたのは初めてだった。“綺麗だ”なんて初めて思った。生きてきて悔いなんて残っていないけれど、汚れた過去を巻き戻せやしないけれど、眩しい光に触れることさえ許され無いけれど…普通の幸せも感じてみたかったなんて願ってしまう。
それが今まで気づこうとしなかった本心なのか、それとも死に際で心が狂ったのかも分からない。
でもそんな哀れな少年の願いは誰かに届いた。
息を引き取っていく彼の傍に立ち、何かを唱える影が一つ。
「確かに貴方の願いを聞き届けましたよ。さあ、行け。」
誰かの声が響いた。
そして、少年は闇に飲まれていった。