「新・仕置き人」の後日談
「あの男が刑務所で首吊り自殺をした」と、男が言った。
無言で妻が頷いた。
「あの男、刑務所仲間に大分“掘られた”らしい」
「“掘られた”って何? 」夫婦の三歳の孫娘が言った。
「何でもないのよ、沙織 」と妻が言った。祖母に似て頭のいい孫娘はアンパンマンの人形に興味を戻した。
妻は男をにらみ、男が肩をすくめた。
「しようがないわ。最悪の結果にならなかったのを“よし”としましょう」と妻が言った。
“この男、もう少し使い物なると思ったに見込み違いだったわ”と妻は思った。“その点、やっぱりお父様はたいしたものだったわ! ”
その時、ドアホーンが来客を告げた。
二人の刑事だった。
「本部長の杉下さんはお元気かね? 」と、男は言った。「一月ほど前、ある会合で夕食をご一緒した」
「さぁ、どうですかね? 私は本部長殿に会ったことないので知りませんね 」と、年かさの刑事が平然と答えた。
男は“かました”つもりだったがその効果が無かったことを知り、妻は夫がやはり“役立たず”ということを痛感した。
刑事が言った。
「新聞等で報道されているとおり、半年程前、電車の中で女子高校生に卑猥な行為をして捕まった男はとんでもない詐欺師でした。男が捕まって次々と被害届けが出てきましたが、先生のことですからご存知だと思いますが(刑事は皮肉な笑いを浮かべた)、男は先日刑務所内で自殺しました。で、男は置き土産として自分が騙した被害者の名前と金額のリストとメモを残しました。男自身が騙されて無くし金……。詐欺師が詐欺にあって全財産失うなんてとんだ大笑いですよね! ……。そんなことはどうでもいいことでした。で、ここからが問題です! あの男の詐欺の被害者はたいてい警察に届け出てきたけれど、一人、届け出てこない人いました。最も大きな金額の被害者が届け出ない? その男に関するメモは実に面白い内容です。それは誰か? 先生、あなたですが、どうして届出てこなかった!? 」
刑事は一拍置いて続けた。「『届け出なかった』のではなく『届け出られなかった』? 」
「そ、それは……」六十男はひどく狼狽し、顔が真っ赤になった。
“本当! 駄目な男! 無駄に年老いただけね。有罪を告白したようのものだわ! ”
「先生にはいろいろと噂もあります。任意ですが署までご同行願います」
男が何か言いかけたが、一瞬速く、妻が先に言った。
その目には涙さえ浮かんでいた。
「だから止めておきなさいと言ったのよ。それをあなたは…… 」
男は気づいた。
・妻に裏切られた。
・所詮、自分は妻の手のひらの上で踊っていただけだ。
・自分は自分が思っているほど利口ではなかった。「馬鹿」だった。そのことにようやく気がついた。
つまり「大馬鹿」だった。