部屋の主
メイド長のサーラのお話。
キラキラと輝く朝日。
時折吹き込む爽やかな風。
朝日に照らされ、風に乗って緩やかに翻る、真っ白なカーテン。
そして、カーテンと同じように風に遊ばれ、光を纏う黒く艶やかな流れる髪。
小さく、囁くように、甘く響いてくる歌声。
思い出したようにかき鳴らされる、弦楽器の切なく聞こえる音。
こちらに気付き浮かべられる、柔らかな微笑。
優しい挨拶に、細やかな気遣いの声。
その部屋の扉を開ければ、いつも。
いつまでも変わらずに見れると、聞けると思っていた日常。
私にとって、その部屋は特別だった。
とっても特別だった。
誰も使用していなかったその部屋を、綺麗に掃除したのは私だった。
掃除はされていても、どこか埃っぽかった空間。
冷たい色の床も、どこかくすんだ壁も、高くて手が届かない天井までも、頑張って掃除した。
窓を大きく開けて、部屋の空気も入れ替えた。
色褪せたカーテンも、寝具も、すべて新品に変えた。
新しく迎えるその部屋の主のために。
その部屋に人が入り、部屋の整頓を任されたのも私。
乱れた寝具を治すのも、散らかった小物を戻すのも、壊れた備品を回収するのも。
一日に二回。
汚れて見えなくても、丁寧に掃除をした。
その部屋の小さな主のために。
その部屋の主の言葉に従って、部屋の内装を一緒に考えたのも私。
味気なかった部屋を、主が気に入るように、趣味に沿うに。
少しづつ、時間をかけて整えていった。
華美と言っていいほかの部屋と趣を異にする、一つだけの部屋。
モノトーン調の落ち着いたデザインに、シンプルで機能的な家具。
すべて優しく穏やかな、その部屋の主のために。
なのに、どうして・・・。
あの方のために整えた空間を、別の人間が奪ったのだと聞いた。
聞いていない。
知っていたら、全力で阻止した。
確認しに行ったら・・・。
部屋はそのままなのに、部屋の主だけ変わっていた。
暗いままの室内。
聞こえるのは寝息だけ。
白いカーテンを開け、ベッドに向かう。
床に落ちている、趣味の悪い、お金だけはかかっていそうな上着。
汚れてしまっているふかふかのクッション達。
妙な方向を向いている椅子に、散らかっているテーブルの上。
ごっそりと無くなっている本棚の中身。
この衝撃を、私はいつまでも忘れないだろう。
・・・仕事を辞めようと思った。
いや、あの方が移られた先が気になる。
また、部屋を整えるお手伝いがしたい。
さっさと用をすませ、あの方にお会いしなければ。
「・・・おはようございます、神子様。お目覚め下さい。」
ベットに眠る見知らぬ少年にだけ声をかけ、揺り起こした。
その隣にいる男は無視の方向で・・・。
目は開けたし、準備はほかの人に任せよ。
「・・・すぐに支度を手伝うものを呼んでまいります。」
私は足早にその部屋を去ることにした。
サーラ嬢の独り言。
職位が上がり管理仕事が増えました。
それもこれもあの方に心地よく過ごして頂くため。
あの方には毎日お会いしたいですが、多少の我慢はいたします。