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ロレンシア傍流譚  作者: RK
第零章 本流を外れて
3/9

第二話 人は当たり前のように勇者を求める

 先代勇者が死んでから10年。

 魔族との戦いは激化していく一方で、未だに終わりが見えない。

 勇者は魔族との戦いで命を落とした。

 そのせいで士気は下がり、人間は劣勢を強いられていた。

 パンギルア大陸の中央に位置する場所にある王都キングスタッドではその劣勢を覆そうと試みていることがあった。

 それは新たなる勇者が生まれるのを待つのではなく、勇者を喚び出すという方法であった。

 過去の文献によればこの世界とは異なる世界が存在し、そこから勇者を召喚したと記録がある。藁にもすがる思いでそれを実行しようと当代の王、ヘリオス・ヴァ・キングスタッドは優秀な魔術師を集めて召喚の儀を執り行うことを決めた。


「王、準備が整いました」

「わかった、すぐにでも始めてくれ」


 15人の魔術師が魔法陣を取り囲み呪文を唱える。次第に魔法陣が発光し、紫電が漏れ出す。

 徐々に徐々に空間に亀裂が走り、過去の勇者召喚は事実であったのだと歓喜する。


「来るか!勇者よ!さあ、早く来るのだ!人間を救いに!我らに勝利をもたらしに!!」


 ヘリオスは興奮して叫ぶ。それと同時にひときわ強い光が生まれ紫電が魔術師たちを吹き飛ばす。

 空間の亀裂が広がりそこから風が発声する。風は周りにあったものをなぎ倒して行く。

 ヘリオスだけはそんな中でも風に逆らい立っていた。白煙が収まるとそこには異装を身にまとう人間が4人いた。

 状況を把握しきれずに不安そうに辺りを見回している。


「ようこそ、勇者様がたよ。私はヘリオス・ヴァ・キングスタッド。このパンギルアを治める王でございます」

「へ?ゆ、勇者…?」

「ドッキリだろ?」

「すげえ!異世界にマジで来れちまったよ!」

「あー、俺まだ寝ぼけてんのか…寝よう…」


 四者四様の反応を示す。ヘリオスはそんな勇者たちを見つめて笑みを浮かべる。

 彼らはこんな見た目でも強い力を持っている。わかるのだ。

 ただそこにいるだけで圧倒されそうなほどの力が溢れ出ている。

 

「勇者様がた、突然のことに驚いていらっしゃるとは思いますがお聞きください。私たちを、世界を救っていただけないでしょうか?」

「えーっと…」

「カメラはどこだ?」

「キタコレ!俺も勇者だ!世界を救ってお姫様とムフフ展開!?ヒャッハー!」

「うるさい夢だな、静かにしろよ…」

「…ドッキリとかカメラとかキタコレとやらがなんなのかは存じませぬが、これは夢ではありません」


 異世界の言葉は理解に苦しむ。突然のことに対応できていない勇者たちが混乱しているのは当然のことではあるが些か面倒ではある。

 異世界には魔術が存在しないと文献には書いてあったので手っ取り早く納得させるにも魔術を使うのが一番だろうと判断する。


「ご覧下さい」


 そう言ってヘリオスは光の球を生み出した。初級光魔術の「ライトスフィア」だ。暗闇を照らすための魔術で攻撃として使うものではない。だが、召喚された勇者たちの目を奪うことは簡単だった。


「触ってみてもいいか?」

「どうぞ、気の済むまでご確認ください」


 勇者たちは光球の周りをぐるぐると回ったり触ったりした。そして種も仕掛けもないことを確認し終えたことでヘリオスの言うことを信じた様子だった。


「最初は半信半疑だったがまさか本当に異世界とは…」

「俺は初めから分かってましたがね!いやー、これで俺も勇者ですよ勇者!」

「夢じゃないのか…」

「そう、みたい…ですね…」

「ご納得していただけたでしょうか?」

「ああ」

「ありがとうございます。では話を続けましょう。先程も言ったとおり、勇者さまたちにはこの世界を救って欲しいのです」


 ヘリオスは今、この世界がどうなっているのかを勇者たちに説明する。

 勇者たちは真剣な表情でそれを聞いていた。


「まあ、大体の事情はわかった。それで勇者の力が必要なことも。だが俺たちは戦う方法なんて知らないんだが」


 その言葉に勇者全員が頷く。


「ご心配されずとも大丈夫です。勇者の武器が戦い方を教えてくれますので」

「そんなもの持ってないが?」

「まさかと思って期待したのになかった…」

「持ってねえ…」

「持ってないです」

「少し目を閉じていだたけますか?」

「?」

「閉じて頂ければわかりますよ」


 ヘリオスが促すと首を傾げつつも勇者たちは従った。ヘリオスは文献に記されていた呪文を唱える。

 それは勇者の武器の召喚呪文だ。

 どうやらこの勇者の武器は勇者の心を武器にするというものらしい。


「なんだ!?」


 勇者たちが驚きの声を上げる。


「見えましたか?それがあなたたちの武器です。その武器が自身の手にあると強くイメージしてみてください」


 すると勇者たちの手に武器が現れる。

 剣、杖、盾、鎌。


「それがあなたがたの武器です」

「これが…、妙に手に馴染むな」

「鎌とかかっけー!まじかっけー!でも勇者っぽくねえな!まあいいか!」

「杖か…、近づかなくていいし、弓と違って力もいらないから楽でいいな…」

「よかった、人を傷つけるものじゃなくて…」


 それからヘリオスは勇者たちにこれからの話をする。

 もちろん異世界からはるばると来てもらって報酬もなしという訳ではない。

 最大限の持て成しはするし、この世界で永住するのであれば地位、名声、金を与えるとも約束した。


「では、勇者の皆様方。お名前を伺ってもよろしいですかな?」


 ヘリオスの言葉に勇者たちは同意する。

 まずは黒髪の勇者。ヘリオスと受け答えをしていた男だ。持っている武器は剣。

 ヘリオスが見たところ、戦う方法を知らないと言っている割に体付きが良いと感じる。背丈も十分にあり持っている。顔の作りも良く先ほどの真面目な受け答えからして理想の勇者像であると言えよう。


「俺の名前は臥竜岡竜也ながおかたつや。歳は今年で19歳になる。大学二年生だ」

「タツヤ殿。よろしく頼みます」


 ヘリオスが頭を下げると次に鎌を持った勇者が名乗り上げる。

 茶髪で歩き方はだらしない。さらにはキョロキョロと辺りを見て落ち着きがないように見える。だが、見るところはしっかりと見ているようで注意力散漫という訳ではない。ヘリオスの一挙一動を抜け目なく見ているのがその証拠だろう。

 戦いでは相手の隙を付け狙うトリックスターとして活躍するだろう。

 ただし、勇者像からは外れている。


「俺は赤城相馬あかぎそうまですわ。鎌とかマジしびれるわー!あ、年齢は18歳でーす!大学一年ですわー。可愛い女の子とかいたらよっろしくぅ!」

「ソウマ殿。どうかよろしくお願いします」


 相馬の番が終ると次は杖の勇者がめんどくさそうにぼそぼそと名乗る。

 ボサボサの長い髪が印象的な男だ。やる気、というよりも覇気が感じられない。

 だが、地位や名声などに興味はあるようだ。だが、その理由も楽をしたいからというものだろう。

 杖という武器からもわかるとおり、体を動かすのはあまり得意ではないようだ。

 楽をするために他人を使うのが上手い人間ではあるだろう。

 だが、勇者というよりも不審者に見えるのは問題ではないだろうか?


黒木憂くろきゆう…19歳。大学二年…」

「ユウ殿。よろしくお願いします」


 そして最後の勇者が名乗りを上げる。

 四人の勇者の中で唯一の女性だ。心細そうにしているのは周りが男だけというのもあるだろう。

 黒髪の中に茶色が混じったセミロングの髪を持ち、顔の作りも悪くなく、美少女ではあろう。だが垢抜けない様子ではある。

 盾という武器は彼女があまり戦う事をよしとしていないという心の現れだろう。守りの勇者という意味で聖女として祭り上げれば兵の士気をあげることができるかもしれない。だが、聖女というには神聖さが足りないがそこは後で考えることにする。


「えっと、神楽・ハルモニア、です…。16歳、高校2年生…です」

「ハルモニア殿、お願いします」


 全員の紹介が終わった。

 ヘリオスはもう一度勇者たちに頭を下げる。


「では、勇者様がた。今夜は宴を催します。こちらで部屋をご用意しますのでどうぞくつろぎ下さい」

「ありがたい」

「いいねー、あ、ハルモニアちゃん俺と一緒に遊ばない?」

「えっと、その、今度で…」

「寝よう…」


 それぞれが感謝の言葉?を告げて用意した部屋へ案内される。

 勇者が召喚されたことは次の日には国民に知らされ。

 人間と魔族との戦いは激化していくこととなるのは誰の目にも明らかだったが、勇者の召喚、それも四人も現れたことで国民たちは活気にあふれていたのだった。



 ―――先代勇者の死など、誰も気にもとめていないのだ。

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