魔法使いが仲間になりました
本文に書かれていることはすべてギャグです
実際するあらゆるものと関係ございません
勇敢に(土と)戦い、ギリギリのところで真珠魔法石を手に入れた勇者は、港にはよらず、直接塔に来ていた。
この塔の主、魔法使いミルゴは先代の勇者の誘いを断ったとセイロンは聞いている。(実際は先代の勇者がミルゴを仲間にするイベントごと無視しただけ)
先代より劣ると考えているセイロンは真珠魔法石を持ってしてもミルゴが仲間になってくれないだろうと思っていた。ここに来たのは魔王の情報一つだけでも聞くことができればいいと思ってのことだ。
「失礼する!」
叫んで扉を開けた。が、これだけ高い塔である。上にいるだろうミルゴに声が届いたかは分からない。
「あ、こんにちは」
目の前に少女がいた。ぶかぶかの黒い装束に身を包み、即座に視線を逸らしたセイロンにすら肌の色が視界にちらつく。
「ききききききみは!だれだ!なぜそのような格好をしている!?」
「人の家に突然来て服装に文句ですか!しかも家主に向かって誰だときましたか!」
「家主?で、では君がミルゴか」
視界を手で覆い、セイロンがミルゴを直視しないようにして尋ねる。そんなセイロンのうぶな反応を楽しむようにミルゴは笑っていた。
「そのとーり!私がミルゴですよ!」
「わ、私は国王に頼まれ、勇者として魔王を倒す旅をしている者だ!名をセイロンという。その、とりあえずまともな服を着てくれないか」
「まともな服ですかー?今のところないですね。家の中ですがマントを被れば肌は見えませんしそうします?」
「た、頼む…」
「ぺぺろんちーの!」
「…?」
「今のは呪文です。はい、マント着ましたよ。見てましたか?私の呪文によってマントが宙から現れたところを!この魔法をここまで使いこなせる私は天才かもしれません!」
「い、いや。残念ながら見ていなかった」
宙から「つっこめよ!」と叫びが聞こえた気がした。だが、セイロンは鋼の精神でその叫びも目の前の、少し…おかしな、いや…可哀想な少女の言動にも何も言わずにおいた。一言でも聞いてしまえば少女はセイロンにはわからない世界のことを語りだしそうだったのだ。
「それで?王様に認められた勇者様がどのような用事なのですか?」
セイロンが改まってミルゴを見るが、かなり幼い。セイロンとてまだ二十代前半の若造だが、この少女はまだ二桁になっていないのではないだろうか。流石に二桁には届いているだろうか。
「い、いや。魔王の情報とかないかなって…」
そんな恐ろしく若い(幼いと素直に認めるのはセイロンのプライドが許さなかった。幼い魔法使いを当てにしていたなど絶対に認めたくない)に仲間になってくださいとは言えない。
(はっ!まさか先代の勇者も同じことを…。断られたのではなく、断ったのか!いくら優秀な魔法使いでも、このように恐ろしく若い少女を酷な戦いの旅に連れて行くわけにはいかないと…。くっ!仲間にさそって断られた勇者などと街の人に言われても、この少女のことを想ったのか!自分本位で仲間など求めた私は恥ずかしい!恥ずかしいぞ!)
と、また余計な誤解が生まれていた。セイロンが思うほど先代の勇者では立派ではないと誰か行ってやらねばこの誤解は解けないだろう。
「魔王の情報ですかー?んー、先代の勇者様はちゃーんと魔王を破ったはずですから、新しい魔法がたったと考えるべきなんでしょうねー。新しい魔王の情報なんて何一つ入ってないないよー。ただ麦茶が好きみたい!人間っぽいとこあるよねー」
「あぁ、あのお茶はおいしい」
四獣サクロスからもらったおちゃっぱを取り出し、セイロンは飲む?と尋ねるようにミルゴにそれを見せる。ミルゴは嬉しそうな顔で頷いたので、セイロンは立ち上がってキッチンを借りることにした。
「あれ?火が起こせないぞ?」
「あ、魔法でやっちゃうから!ええーい!せきゆすとーぶ!」
ミルゴの呪文(掛け声?)と共に火がついた。セイロンは感心しつつも湯を沸かす。
なるほど、どれほど幼くても魔法使いは魔法使いか。セイロンが聞きなれない音の並びは呪文というやつなのだろう。魔法に精通していないセイロンが呪文に耳慣れしていないのも仕方が無い。
「ほら、どうぞ」
「わーい。ありがとうございまーす」
無駄に間延びしている声を上げながらミルゴがお茶を飲み干していく。よほどおいしいのか、セイロンがついでやるのを待たずに自分でおかわりを何回もしていた。
「おいしー!セイロン様は旅の途中なんですよねー。一緒に行ってはだめですか!?こんなおいしいお茶、セイロン様と一緒にいないと飲めないですもん!」
「え?あ、いや。過酷な旅なんだ。君は幼いだろう?」
「じゃ、おししょー様のところまで道案内ってどうです?魔王退治にはおししょー様と一緒に行けばいいんですよ!途中の道を援護します!私ってこんなんですけど、魔法使いですからね!セイロン様のお手伝いぐらいできますよ!」
「う、うむ。ではその師匠のところまでなら…」
「わーいわーい!やったぁ!」
歳相当のテンションで喜ぶミルゴを見て、セイロンはその微笑ましさに笑ってしまった。彼女がいれば旅路が楽しいことに違いはない。
「これからよろしく、ミルゴ」
「はーい!これからよろしくおねがいしますね!セイロン様ぁ!」
「で、この真珠魔法石はどうすればいいんだ?」
「あ、それで武器作れますよ?結構強い武器なんでこれから役に立つに違いないです!」
「つまりいらなかったのか…」
「お茶がなかったら必要だったかもですよ!私一緒に行きたいなんて思いませんでしたもん!」
「うーむ…」
セイロンは残ったお茶を飲みながら、魔物からもらったお茶で仲間ができたことを良しとしていいのか複雑な気分だった。それにしてもこのお茶で魔物と仲良くなったり、仲間ができたり、いいことばかりである。
(そういえば先代の勇者も質素な麦茶を好んでいらっしゃったと聞く…。これも勇者の加護かもしれないな…)
などと見当違いといえなくも無いことをセイロンは心で思った。
>>セーブしますか?
>はい
いいえ