勇者は真珠魔法石を見つけました
本文に書かれていることはすべてギャグです
実際するあらゆるものと関係ございません
ここは魔王城。
魔王が住み、選びぬかえた魔族だけが入ることを許される城。
その頂点に君臨する魔王は、人間界の飲み物である麦茶をちびちびと口に運んでいた。
「そういえば勇者どうなってんの?俺が優雅にティータイムを楽しんでる間に一回ぐらい教会の世話になった?」
「それが命は一つと考えているようです。命大事にの作戦のままですよ!というかステータス欄開きませんねぇ。たぶんわかってないんじゃないですか?自分のレベルもわかってませんよ」
「うわーまじですかー。俺は無駄に序盤でレベルあげたからなー。港町で仲間にするはずだった魔法使いをスルーしちまったんだよなー。んで、後半で出てくる魔法使いの師匠?を仲間にした!弟子より師匠がいいだろ!うんうん」
「ストーリーガン無視じゃないですか。大体弟子と知り合ってないのにどうやって師匠と知りあったんですか?」
「え?突然出てきたから。お互い誰?ってなったけど、まぁいいか。手持ちに魔法使い居ないし仲間になってよ。って。そのまま仲間になった。まぁ後で知ったんだけどそいつもそいつで暇だったらしいし」
暇だったというが、実際は研究に詰まっていて全てにおいて資料を燃やした後。つまりは自殺する手前ほど追い込まれていたわけだが、こんなクズでも元勇者。勇者一行の魔法使いとなれば、また発言力も増すなどと考えられた結果だったのだ。
そんなこと、この元勇者現魔王、貫いてクズである魔王がしるわけないのだが。
「…可哀想な勇者だな」
「セイロンのことか?まぁ、真面目に勇者なんて出来ないのさ」
ケノスが心の中で、それはお前が証明している、と付け足す。
こんなクズでも先代の魔王を打ち破っているのだ。ケノスなんか手も足も出ない相手であることに変わりは無い。このクズは魔王としてはともかく、勇者としては一流ですでに役目を遂げたのだ。驚くべきことに途中で闇討ちなどに遭わずに。この性格ならどこで恨まれていてもおかしくないクズなのに。
「あれ?魔王様?ケノス様?何をサボっておいでなのですか?」
アクロスが新しい書類の束を持って部屋に入ってくる。魔王を休ませる気などさらさら無い。
「さぼっていない!切り詰めても意味がないとティータイムなんだ!もう少しで終わるから、終わったらちゃんと残りの復興作業とかするよ。いや、これホント」
「そうでしたか。なら私も少しお茶にしましょうかね」
「ついであげよう!」
「ついでって、酒でもないんですから」
ケノスが苦笑で見守るが、お茶を入れてもらったアクロスは非難の声を上げた。
「……麦茶」
「うまいぞぉ!いやぁ魔物たちもいい仕事をする!ものの数年ですばらしいおちゃっぱを作ってくれた!」
が、魔王はその様子に全く気づいていない。
「アップルティーがおいしいですのに」
「アクロス様。もはや魔界の特産はあの紫色の木になる黒色の林檎ではなく、緑の茂る茶畑から取れる光り輝いているようなおちゃっぱなのですよ。残念なことに」
人間界の飲み物など魔界に住む魔物にとっては美味とは言えない。まずくはないのだが、水を呑んでいるも同然である。
「いやーうまいわー」
「ケノス様の飲んでいるものはアップルティーですよね?」
「わ、私は!領地に林檎の木が残っていて、使用人たちもアップルティーの淹れ方を熟知していたものだから、まだ残っているのだ!」
「はぁ…。あの舌を刺激する味が恋しいですわ」
アクロスが独白するが、ケノスは申し訳なさそうに目を逸らすだけだった。自分の分を確保するので精一杯で、アクロスに分けるほど余裕があるわけではない。
「あれ?勇者が洞窟に戻ってる。どうしたどうした?もう田舎に変えるのか?」
「なっ?あの勇者がですか!?そんな馬鹿な!このクズならともかく、あの真面目そうで可哀想な勇者が!田舎に帰っても止めてやりたくないぞ!なんていったて可哀想だからな!」
「そうですよ!逃げるなら魔族の私たちに止める理由はありませんし、なにより可哀想なので勇者なんて本当に可哀想!」
((こんな奴の後を継ぐなんて!!))
ケノスとアクロスの心の声がぴったりと重なった。
「あー、これイベントだわー。宿屋のおっさんに話しかけると始まるの。ストーリーだから絶対だぜ?船が出るまで時間がかかるからなんちゃらーってな。でも俺は小船を買って進んだからいまいちわかんねーな。ここは真珠魔法石探すんだってよ。いやーあれ大変だぜ。俺は四獣サクロスを倒す前に洞窟からありったけの魔法石掘りつくして売ったからいいけど、真珠魔法石ってあれ。すっげー奥のほうに、護衛獣にまもられてんの。マップ見たらわかんだけどさー」
「あ、田舎に帰るわけではないのですね」
「うん、たぶん。いやー俺もはじめてみるからちょっと見てますか!」
「ストーリー無視して進める勇者じゃない分安心ですね!」
「ストーリーなんて自分で作るものなりて!」
「…」
「おいおい、真珠魔法石だろ…?壁探したって無いって。奥の宝箱だよ、宝箱!」
「というか、なんで洞窟で採掘される魔石が宝箱に入ってるんですか?」
「勇者が必要とするものだからじゃない?聞くなよー、そんなことー」
映像の中でセイロンがつるはしで壁を突いていく。ケノスの隣で魔王がだめだめーと楽しそうに叫んでいた。魔王の声が届かない勇者は、糞真面目に真珠魔法石を掘り出そうとしている。
これを可哀想といわずなんというべきか。
『はぁはぁ…。真珠らしいものどころか、魔石なんて一つも出てこないぞ…』
荒い息を整えるべく、近くに座り込む勇者。奥に進む様子など見られない。
「こりゃ、長い旅になりそうだな。うんうん。のんびり復興しながら待つか。復興が終わったらもうちょっとからかってもいんだけどよー」
「それでは仕事に戻りましょう。魔界の担当は決めたものの、人間界へ旅行している同族たちに勇者の存在をしっかり伝えなければなりませんから。まだ返事が返ってきていない者たちに追って伝書鳩を飛ばします」
「頼むわー。んーんんっと。さてさて。お、おう?何これ?」
「はい?あぁそれは魔族の間で使われる言い回しですね。要約すると『クズが』ってことです。素直なお手紙頂きましたね」
「え?喜ぶの?喜ぶとこなの?」
「だってクズでしょう?」
「ま、まぁね…」
なんて魔王とアクロスが会話しているうちに。
「あ、あれ?光?どこかに通じたのかな?」
勇者セイロンは穴を掘り進め、マップを塗り替えていた。道どおりに進めば遠い遠い真珠魔法石の入った宝箱。実際に見ると入り口より少し入った道の真横なのである。
セイロンが前を向くと強そうな護衛獣の背中が見えた。
「………あれには勝てないな」
真面目なセイロンすらそういうしかなかった。一桁のレベルで挑むような相手ではないことは確かだ。
「あ、宝箱。もらっとこう」
鍵もかかってない宝箱をセイロンがあける。そこには土に囲まれた洞窟には似合わない真珠が入っている。さすがにセイロンにも自分が本来の道を通っていないことがわかってしまった。
「…でもあのガーティアンには勝てないよ。今回ばかりは許してもらおう。ごめんなさい」
セイロンは、背中を向ける護衛獣に深々と礼をしておいた。必死に守っているものを横から掻っ攫って、真面目なセイロンはいい気分ではない。
でもとりあえず、勇者セイロンは真珠魔法石を手に入れた。
>>セーブしますか?
>はい
いいえ