勇者は洞窟の中で迷ってしまった
本文に書かれていることはすべてギャグです
実際するあらゆるものと関係ございません
「くっ…、なんたることだ…」
「おーい、セイロン。先いくぞー?って何してるんだ?」
「この岩、動かせそうなのですが…、力が足りないみたいですね」
「おー、これはな。中盤に出てくる街『ヒルズ』で仲間になる怪力系の奴が必要なんだぜ」
「仲間になるとか予定なんですか?」
「え?予定じゃなかったらなんなの?」
「…」
セイロンが思わず黙ってしまった。
ここはすでに洞窟の中だ。先代の勇者一行の友人だという男に連れられて洞窟に来ている、のだが。たった二人なのだ。その先代の勇者一行の友人だという男と、勇者セイロンだけ。
「え、えっと…」
「あ、ここの魔物はなー、打撃に強いんだよ。序盤で打撃に強いってほぼチートだよな。後半でまた四獣とは戦うことになるから、ここは助っ人くるまで待てばいいだけ。五ターン過ぎたら助っ人登場するから。それまで回復薬で持たせて」
「序盤?後半?ごたーん?」
「ごたーんってなんか呪文みてぇだな。ゴターン!上からたらい落ちてきそうだぞ」
「た、倒すために私は…」
「倒す?四獣を?今のお前が?無理無理。ぜたーい無理。五ターンだけなんだから頑張って。おれは途中ではぐれるけどよろしくな!」
「は、はぐれるのまで予定ですか!」
「うん。だってお前勇者なんだろ。頑張れ!」
「は、はい…」
何か違う気がするとセイロンは思うのだが、当然のように先代の勇者一行の友人だという男は話を掘り下げようとはしなかった。
なにこれ、当然なの?とセイロンが首をかしげつつ、その後を追う。
「あぁ!?見失っている、だと!!」
後を追っていたつもりが先代の勇者一行の友人だという男は失踪していた。言っていた通りに進んでいる。
「な、なんなんだ…、これは…」
勇者セイロンは、こうして洞窟の中で迷ってしまった。
それを見ていた魔王は、はっきり言ってオロオロするばかりである。
「ど、どうしよう!?あぁ!洞窟の入り口の分かれ道!なんでもう片方も行かないの!?進んでもう一回分かれ道がきたら戻って前の分かれ道埋めようよ!あそこの宝箱に地図あるんだよぉ!!」
「地図がなければあの洞窟は魔物にもきついですからね」
ケノスが洞窟の地図を思い浮かべようとするが、細部は浮かばない。人間より圧倒的に良いステータスである魔族でもそうなのだ。人間である勇者が地図なしで進める場所など限界があるだろうに。
「どうしよう!あとアルバスっていう俺の元仲間が書いた『勇者の冒険の書』読んで!あいつ、それで稼いでるんだから買ってあげて!地図とかコンパスとか、各ダンジョンで場所が説明してあるから!野宿する時のコツとか、イベント戦とか、ボス戦攻略とかぜーーーんぶ書いてあるから!」
魔王の癖に勇者を助けようとしている。だがケノスがそのことに突っ込む冷静さなど持っていなかった。いや、普段なら持ち合わせていたのだが、勇者セイロンあまりにもかわいそう過ぎるのだ。一人で真っ暗な洞窟を必死に進んでいる。
あまりにもかわいそうな姿から視線を逸らし、この呑気な魔王の話に乗っておくことにしたケノスであった。
「あ、それ買いましたよ。いやー、魔王城に来るまでこんな苦労をするもんなんですねー、勇者って。オレ魔族でよかったーって思いましたもの」
「ケノスたん!新しいの買ってあげるから、今すぐ勇者セイロンに渡してきてあげて!暗い洞窟一人で迷ってるなんて泣いてもおかしくないよ!すっごい怖いんだから!序盤なんて勇者としての自信もないし、怖いし怖いし怖いんだよ!!」
「そこに魔族がアイテム渡しにくるとか最悪でしょう」
「あ、そっか。よし、よし!勇者セイロンに催眠術かけてきて!俺が夢の中で渡してくるから!!」
「分かりました!!」
ケノスが魔王城を飛び出し、魔王は待機である。魔道具を準備して他人の夢に入れる術式を整えなければならない。
「うわぁぁぁ!!勇者セイロンガンバって!!ちょっと!!泣きかけてるじゃん!四獣ちゃん!雑魚を道順においてあげてぇ!!一人じゃないよー!って倒せるレベルの雑魚ね!瀕死状態になったら経験地一杯投げてあげてぇ!」
『魔王さ、ま?え?ざ、こ?雑魚をですか…。一応いとしい部下たちなんですが』
「勇者に倒される運命だろー!!」
『は、はいぃぃぃ!!』
魔王は勇者のレベル上げを手伝う結果となってしまった。しかも自分の冒険の書、つまりは攻略本を渡してしまったのである。