勇者は魔族を打ち倒しました。
本文に書かれていることはすべてギャグです
実際するあらゆるものと関係ございません
勇者一行は広間のような場所にたどり着いた。大きなテーブルの、主が座るべき椅子に優雅に腰掛けている男がいる。その男は従者もつけず、貴族や王族が食べていそうな食事を口に挟んでいる。
「やっと来ましたか。こんにちは、勇者一行。まぁ、食事が終わるまで待ちなさい。なんなら貴方達の分も用意させましょう。四人分の人間の食事を、ここへ」
静かに告げられた指令に魔族たちが出てきて食事を用意する。食事の場を整えるとすぐに部屋を出ていく魔族たち。
「魔族と食事を共にするものか」
「なんと余裕のない。その程度では魔王様のもとにたどり着くことすら不可能。品のない人間たちよ、侵略者たちよ。この城のいたるところに置いてある彫刻品の内側、空洞を確認したかね?」
「時間が惜しい。武器を構えろ、みんな」
「魔王様から勇者一行にプレゼントが入っていたのだが、そうか、それほどまでに滅びを選ぶか。愚かな人間たちよ、侵略者たちよ。ここで滅びろ!」
魔族がマントを閃かせ、勇者一行の前に立ちはだかる。
「滅びる侵略者たちよ、お前たち人間の死の世界へ、見上げに我が名を持っていくがいい! 我が名はケノス。ケノス・ル・テオ・ポンム!」
いつの間にか部屋の中に入ってきていた魔族のメイドたちがテーブルを端に寄せる。椅子は一つ残らず持ち出していく。
そこまでを眺めていたミルゴは言語化できない違和感がこの部屋中に溢れていると見渡していた。敵も、自分の主も見ずに、「ああ。ここは変だな」とのんびりと頭を働かせていた。
「ミルゴ、ミルゴっ! 防御力低下の魔法とかないのか!」
「セゴン、ごめんっ!」
なんてことだ。世界を賭けた戦いなのに集中できないどころか、全く敵を倒そうという気持ちがわかない。
ミルゴは街から離れた塔で暮らしていた。師匠のウィルから受け継いだ大切な塔だ。街から遠いけれどそれでも大好きだ。最も近い街の人たちもミルゴによくしてくれる。あまり良く知らない人でも街の人だと思えば嫌悪感など抱かない。
眼の前の魔族、ケノスと名乗った男にもミルゴは同じようなことを感じていた。知り合いの知り合いで、敵対する人ではないと。いや、人じゃないんだけどね。
「ズコケーン」
「弱体化魔法など、いまさら効くかぁ? いや、効くはずもない!」
ケノスの余裕の笑みは変わらない。魔法が効いていないと悟ったが、それで諦めるわけにはいかない。いくらやる気がでないとはいえ、これは勇者一行として世界を賭けた戦いなのだから。
「ズコケーン!!」
「ぐっ」
あれ、今ので効いたの? いや、偶然ってこともあるもんね。
ケノスという魔族にミルゴの魔法が効いたところから逆転劇が始まった。レアミルの的確な回復魔法もあって持久戦にもなったが、見事勝利を収めた。
勇者が切りつけたことによってできた傷を抑えて蹲る。トドメを刺そうと勇者が聖剣を振り上げる。ミゴンはその光景がなんだかとてつもなく悪いものに見えて、思わず勇者の腕を掴む。
「セイロン、行こう。その剣は魔王を倒すものでしょう?」
「ここで魔族を殺してから行くべきだろう!」
「セイロン!」
「ミルゴもセイロンもやめろって。セイロン、次に進もう。少しでも体力を回復したいじゃないか。ここまでの傷を負ったらすぐには治らない。行こう」
「……命拾いしたな、魔族!」
セゴンも助け舟を出してくれたので、勇者は次へと進む。レアミルはミルゴとセイロンを睨んでから勇者の後ろに付き従った。
「ケノス、さん? 私はケノスさんのこと知らないはずなのに、知っている気がするんです。どうしてでしょう?」
「私は人間に知り合いなど……、ん? 貴様、あの憎き魔法使いの関係者か。ウィルとかいう屑を極めたような女の品を持っているだろう?」
「お師匠様の? はい、アクセサリーを……」
ミルゴが装備品の一つを見せる。ケノスはそれに手を伸ばし、丁寧に魔石部分に触れた。わずかに陰って見えた魔石が僅かな光を灯す。
「えっ、なんで!?」
「かつての魔王様の部下として、ウィルという魔法使いと戦った。その時も私は敗北し、魔王様のもとへ勇者の一行を進ませてしまった。ただ私として力を削ったのだ。私に弱体化の魔法をかけた魔法使いに呪いを放った。装備品のいくつかに分けて吸収していたようだがな……。その呪いを取り除いたのだ」
「どうして、取り除いてくれたんですか?」
「私が、私が……魔王様と、付き従ったお方は、世界を諦めるようなお方ではなかった。私は、あの方の弱者にも手加減しない強さが、好きだった……」
「……魔王は蘇ったのではなく、新しい魔王なんですね?」
「……次へ進むがいい。愚かな人間たちよ、侵略者たちよ。お前たちに誇り高き魔族の死に様を見る資格などない」
それ以上話すこともない、とケノスはその場に椅子を魔法で出し、そこに座った。その姿あまりにも優雅で、かばう必要などなかったのではないかと思わせる。
ミルゴは黙って部屋をでることにした。人間と魔族ではわかりあえないのだから、ここで話をしていてもおかしい。そもそも勇者は次に進んだのだから、ミルゴとセゴンは勇者を追いかけるべきなのだ。
パタンっときれいな音をを立ててしまった扉を見て、ケノスは自らの傷をすべて癒やした。メイドたちを呼び出して食後のアップルティーを楽しむ。
「ウィルにも弟子が……。ああ、やはり、人間は他者との繋がりがなければならないのだな」
瞼を下ろして、かつて全力で戦った敵の姿を思い出す。全員がバラバラでそれぞれが独立した理由で戦っていたかつての勇者一行。そんな彼らも人間の社会というものに執着があった。
あの魔王にもあるのだろうか、と役割を終えたケノスは魔界の空を見上げて思案するのであった。
* * *
「あらあらまあまあ」
おっとりとした女性の魔族は、ケノスと違ってすでに武器を構えていた。大魔法使いウィルに似た服装にも思えるが、彼女より黒の色が多い。大きな杖とあまりにも多い装飾品が目立つ。
「ケノス様ったら、全員通してしまうなんて。よろしいですわ、私がお相手いたします」
「女と言っても魔族! 見るからに魔法使いタイプだ、セゴン、物理で行くぞっ!」
「おう、援護するぜ、勇者様!」
武器で切りつけても不思議なバリアのようなものに弾かれる。ちっと舌打ちしてミルゴを見る。ターン経過のものでどう仕様もない、とサインが返ってきたので何度か殴りつける。バリアの内側であきらかにヤバイエネルギーが貯められている。
「ミルゴ、俺たちの防御力アップ頼む! なんか来るぞっ!」
「セゴン!? 私単体防御アップしかできないよ!」
「魔法使い! 僕にかけろ! 僕が順番に蘇生魔法や回復魔法をかける!」
「お願い、ミルミル!」
「ミルミルと呼ぶな!」
後ろから僅かな光。セゴンとセイロンでできる限り盾役もこなさなければ防御力アップしても絶滅ということもあり得る。
「セイロン、俺とおまえにスキル使うから寄れ!」
「わかった!」
ミルゴほどの防御力アップはできないにしろ、対魔アイテムを勇者と自身の間にぶちまけた。その直後にとんでもない光が場を覆う。光が引いていくのを待って、自分の体力を確認する。もちろん真っ赤だがわずかに残った。隣の勇者も残っている。後ろを確認しようとしたが、その前に前の敵から追撃が来た。なんとか防御するが、次一発でも喰らえば自身も瀕死状態になる。
「セゴン!」
勇者のかばうスキルが発動し、次の一撃を耐える。だが、嫌なことに再び相手はチャージを始めている。
「"僕らは神に祈る。その祈りよ、我らに祝福として降り注げ"」
自分の体力が戻り体が軽くなる。ああ、よかった、レアミルは生き残れたか。だが次のチャージ攻撃で全滅する。だがバリアは消えていた。体力も戻ったので、自己強化を施して敵に一撃を入れる。
「ああ、煩わしいですわね。蝿よりも価値のない人間たちが、私に歯向かうなんて」
そういうと女の魔族はなぜかチャージ魔法をやめて、セゴン単体に狙いを変えた。チャージはしないものの、強力な魔法が向けられる。
「シイルドン!」
自分にきっちりと強化が施され、先程までの敵の圧すら軽くなったようだ。それにミルゴの声を聞いて安堵した自身をセゴンは自覚していた。
(仲間が助かるのは、いいよな?)
思わず笑ってしまったと思う。戦いの途中ではあったが、セゴンは余裕すら持った気がする。
「ああ、愚かな人間たちのくせに、いい顔しますのね」
斬りつけるため間近にいたセゴンにしか聞き取れなかっただろう。数々の装飾品が飛び、会心の一撃が敵の身を切り裂く。よろりとふらついたが、杖を支えにして倒れなかった。女の魔族は片手を上げて、なにか魔法を発動させる。完全に不意を疲れた勇者の一行はその光をまともに受けた。
「……無事、か?」
「自爆魔法? 魔族の姿が見えないな」
「自爆魔法にしては被害がないが……」
「ミルミル、一応みんなに状態異常解除かけて。先に行こう。……セゴン、大丈夫?」
「いや、なんでもない。行こう、ミルゴ」
遺体も残らない死を選んだ敵。その最後の攻撃の効果がわからないことに恐怖もあるが、今は魔王へたどり着くことが大切だ。
セゴンが殿を務め、その部屋を最後にした。セゴンは黙って、吹き飛んだ総力品を一つ拾う。女性のアクセサリーらしい、なんの意味もない美しいものだった。
(魔族、名前も聞かなかった。これが、世界を救う戦い? 身を飾る女性を斬りつけて殺すことが?)
現在の勇者一行
■◇※△ Lv.62 "魔を滅ぼす者"
ミルゴ Lv.62 "大魔法使いの弟子"
ゼゴン Lv.63 "伝説の騎士崩れの傭兵"
ハースレア Lv.61 "光の一族"
前勇者一行の公開情報
全員漏れなく屑
前勇者現魔王 Lv.??? "元屑勇者現屑魔王"
ウィル LV.94 "大魔法使いにて超がつく変人で一番の屑"
アルバス LV.95 "諦めの僧侶"
ミーナ Lv.93 "水に住む変人"
魔王側メンバー
前勇者現魔王 Lv.??? "元屑勇者現屑魔王"
ケノス Lv.205 "アップルティー好き"
アクロス Lv.210 "教育係"
キミタルシア Lv.102 "貴族"
魔王のペット Lv.203 "魔王の相棒の鳥"