勇者は魔界に入りました。
本文に書かれていることはすべてギャグです
実際するあらゆるものと関係ございません
ハースレアを仲間にした勇者一行は魔界へつながる穴の前に立っていた。ハースレアは一族のものに指示を出している。
「流石勇者様です。選ばれし御身が近づくだけで穴が次々に塞がっております」
「では人間界に空いてしまった穴の対処は残ったものに託せるか」
「はい。後は我が一族の者だけで十分でしょう」
ハースレアが一族の者たちを振り返る。皆がハースレアに力強く頷き返している。ことごとく一族の実力者たちを飲み込んできた穴と同じ穴と思えないほど、全て弱りに弱っていた。
これが勇者というものか。ハースレアの視線は勇者の方を自然に向いてしまう。自暴自棄になりかけた原因の一族の崩壊も、彼なら――。
「では、魔界への通路を開けてほしい。レアミルの一族の者であれば何か知っているだろう」
「……勇者様。魔界への通路は今すぐにでも通っていただけますが、魔界は魔物たちの強さも桁違いでございます。いくら勇者様といえど装備を揃えずに突入しては厳しいかと」
「いや、なんともない。宝剣があればよかったのだが、前任の勇者が持ち去ったままなのだろう? 仕方がないさ」
これが勇者か。
絶望も諦めもすべて掻っ攫って前へ向けてしまう。これが勇者か。
* * * * *
「それが勇者だ、ミルミル君」
「魔王様?」
「キミシア君。勇者ってね、自暴自棄になってる人でも落ち込んでる人も諦めてる人も、みーんな救って前に進ませるんだ」
「それは、その――
「素直に」
「――それは傲慢ではないでしょうか」
キミタルシア・ラ・ジューンは魔物である。魔族の貴族の出身で外見こそ人間に近いが、その本質は人間のソレとは全く違う。前に進む者が良いという考えもない。悩むことも立ち止まることも諦めることも、魔物という集団の中では生まれてきて当然の考えであり、それを非難するような考えはない。
それを誰かが前を向かせていいのだろうか。
「勇者。ミルゴ。セゴン・ヴァイオレット。ハースレア・デュク・レアミル。それがお前の仲間か」
元勇者は目を閉じて自らを振り返る。胸に手を当てて、魔王ではない頃の自分を振り返る。
屑だと呼ばれて馬鹿にされるたびに開放されていくように感じた。勇者になりたかった。勇者になった。それが重荷だった。
傍に世間ではのけ者にされていく者たちを集めていたら、それが自分の仲間になっていた。
『今なら魔法使いのお嬢ちゃんや傭兵の下に返してやる。記憶をいじって、なんともなかったようにして。お前のステータスも全部直してやる。どうする? 勇者』
『―――』
答えは分かりきっていた。わかっていて聞いた。
なにせ彼は勇者だ。そして自分もそうだった。わかりきっていたことだった。
* * * * *
魔界への通路の前に立って、勇者一行は前を睨み付けた。この先に魔王がいる。勇者が倒すべき魔王が。
「行こう」
勇者の一言。勇者の一歩。
それに仲間が続く。宝剣がなくとも彼が勇者である。彼の勝利は揺るがない。
>>セーブしますか?
>はい
いいえ
5ヵ月も空いてしまったのですね……。
来年もまた更新は亀より遅くなりそうですが、完結させるつもりです。
どうぞよろしくお願いします。