勇者はレアミルの街にたどり着きました。
本文に書かれていることはすべてギャグです
実際するあらゆるものと関係ございません
「いやぁ、ガーディアン強かったな……」
「そうだねー、三回も全滅したねー」
「最終的にはもう一度レベリングしてから挑んだな……」
ゼゴン、ミルゴ、勇者、と街の噴水の淵に座ってたそがれていた。アルバスに案内された教会の奥には、神々しい光の門と、その門を守るガーディアンが居たのだ。本来ガーディアンは攻撃してこないはずなのだが、魔界の空気に当てられて勇者たちすら攻撃するようになってしまっていた。
苦戦を強いられた三人だったが、やっとの思いでガーディアンを破壊し、目的地であったレアミルの街にたどり着いたのである。アルバスは門の前で別れを告げてからは会っていない。
「魔王の……鳥? は退治できたんだよね?」
「どうだか。余裕綽々って感じだったぞ」
「まだ腹部が痛む気がするぞ」
「だって勇者様ったら、食べられてたもんね。もぐもぐーって」
ミルゴが片手で狐を作り、勇者の腹部をつつく。やめなさい、とゼゴンがやめさせた。
「この街で魔界と人間界の通路を管理する一族を探そう。レアミルという一族のはずだ。街の名前がそのまま一族の名前だと言っていたから」
勇者が立ち上がり自らのステータス表を開く。今までの記録を読み直しているようである。
「あれ? 勇者様、ステータス開けるようになったんですか?」
「何を言っている。開けない訳ないだろう。私は勇者だぞ」
「そうだぞ、ミルゴ。最近変なことばっかり言ってるぞ? 勇者様の荷物整理も変にやりたがるし」
「あれ? あーえっと、なんでだろう? ごめんなさい、勇者様。ミルゴ、変になってるみたい」
「漏れでている魔界の空気のせいかもしれないな。ほら、お茶でも飲んで落ち着きなさい」
勇者が自らの水筒からミルゴに茶を分け与える。ミルゴはそれを受け取って違和感を無視した。お茶はとてもおいしい。このお茶がミルゴは大好きだ。そう、自分を大きく動かす力が沸いてくるようで、何より勇者との強い絆を感じて……。
「おいおい、落としかけてたぞ、ミルゴ。本当大丈夫か? 勇者様に言って休ませて貰うか?」
「ううん……、ゼゴン、ミルゴは大丈夫だよ……。ごめん、きっと魔界の空気のせいだね」
心配そうにミルゴの顔をのぞいていた勇者は、そうだな、と同意してもう一杯お茶を注いでやった。落ち着きなさい、とお茶をミルゴに手渡す。
「にしてもレアミルの一族なんて見つかるんですかね、勇者様」
「見つけるしかないだろう、ゼゴン。それに私は勇者だぞ。運命が魔王討伐を望むのならば、私が望んできぬ事などない」
「……?」
「ゼゴン?」
「あっ、いや。おれまで魔界の気にあてられましたかね。ぼーっとしちまって。さすが勇者様だわ。魔界の気がこんなにも強くなってるのに正気を保ってるなんて」
「それしか出来ることがないからな。コレほどまでに魔界の空気、瘴気に満たされた街でレアミルの一族が見つかるかどうか。いや、見つけるしかないのだがな、私は勇者だ」
同じようなことを繰り返す勇者にゼゴンとミルゴは首をかしげた。しかし、すぐに首を左右に振って不敬な考えを振り落とす。勇者を疑うなどあってはならない。
「行こう、ミルゴ、ゼゴン」
「はい」「わかった」
従者を二人連れて勇者は歩く。アルバスに言われた言葉を思い出しながら。
『君は××××かい? 本当に?』
もやがかかってよく思い出せない。ほんの数分前に聞いたばかりの言葉なのに。いや、言葉を直接聞いたときもある部分だけもやがかかったようになっていた。何だったのだろう、あれは。何が聞こえなかったのだろうか。
「勇者様!」
「どうした、ゼゴン」
勇者が考え事をしている間に従者の一人が何かを発見したらしい。勇者は優しい笑みを意図的に浮かべて従者に優しく聞いた。どんな発見を勇者に知らせてくれるのか、楽しみだと期待しながら。
「宿屋にこの魔界の気の中でぴんぴんしてる奴がいるらしいです! レアミルの一族の者かもしれません!」
「本当か!? すぐそちらに行く!」
期待以上の報告に勇者はすぐに方向を変えた。ゼゴンが先に行き、すぐあとに勇者が続く。勇者のすぐ後ろにミルゴが続く。
三人がその宿屋の扉を開けたとき、丁度彼は全客共同スペースで暇を潰しているようだった。
「ちょっといいかな? 名前を聞いても」
「先に名乗るものじゃないですかね?」
「お前、この人は!?」
「いや、いいよ、ゼゴン。私は勇者の役割を与えられた者だ」
「勇者!?」
目の前の男はすぐに姿勢を正した。そして自分の非礼を勇者に詫びてくる。同然の図だが、ミルゴとゼゴンには気味悪さが残っる光景だった。
「君はレアミルの一族の者か、またはその知り合いかな?」
「……わたしは、ハースレア・デュク・レアミルです」
「ハースレア、か……。今、この世界に魔界の空気が漏れ出ていることを知っているか? またそれは世界に空いた穴のせいである。穴をふさぐ方法を知っているか?」
「知っています。もちろん一族総出で穴を防ごうとしました。しかし、穴の近くには強力な魔物が居るのです。一族の者はそのほとんどが逆に魔界に引きずり込まれました。今や屋敷に残るのはわたしのような若輩者ばかり……。勇者様のお役に立てるかどうか」
「穴までの案内を頼む、ハースレア」
勇者が手元でステータス画面をいじる。ハースレアの近くで通知音がした。勇者からパーティに勧誘されている、との通知が勝手に開く。もちろん、断るなどと言う選択は用意されていない。
「このハースレア、全てを勇者様のために」
ハースレアは恭しく勇者に頭を垂れた。この世に勇者に逆らうものなど、魔王以外には存在しないのだから。