勇者とは謎が多き人物のことです。
本文に書かれていることはすべてギャグです
実際するあらゆるものと関係ございません
一人宿に残った時には確かに罪悪感があった。宿の窓から外を眺めた時、幾度となくそうしてきた錯覚があった。
「あぁ、そんなことだったんだ」
自分の指の先に何か不気味が四角い光が浮かんでいる。ミルゴやゼゴンが見せてくれたステータス画面というやつなのだろう。やっとそれを自分で開けるようになったようだ。
「………」
窓辺に座って、何気なしに画面をいじる。王都を出た時、いや、山を出た時から共に居る剣の説明書きを音読したりして時間を潰した。こんな時でも剣を振れば鍛錬として認められて自らのレベルを上げることも出来るのだが、そんな気分にはなれなかった。
山の奥深くにひっそりと建てられた小屋。そこで剣を振るうか学ぶかに費やした時間。そんな時間と同じぐらい記憶をしめている、小窓から除いた木々しかない光景。いつも、そこには姉が居た。
「姉さん。僕は勇者失格ですね。勇者が自らの家族について話すなんて……」
冒険書も手に取った。何度読み返してもそこから勇者という人物が読み取れはしない。
勇者とは魔王さえ倒せば風のように消えなければならない。仲間以外に繋がりなど残してはならない。
「でもね、姉さん。ミルゴとゼゴンと友人になれて嬉しいんだよ。だたの勇者一行ってだけじゃなくて、仲間になれて。姉さんのことも伝えられて、僕や姉さんが生きた証拠にもなってくれるだろ。この旅はとても危険なんだ。いつ僕が死んでしまうか分からない。そんな時、あの二人が『セイロン』が生きていたと残してくれるだろ?」
ねぇ、姉さん。
そう呟くと画面が音を立てて切り替わった。手紙の絵が画面に現れ光がついたり消えたり、存在を主張する。恐る恐るその絵に触れると、また画面が切り替わって文字が現れた。
【勇者へ
消えろ
魔王より】
文字を読み取れたか再び音が鳴ったのが早かったのか。窓をつきやぶって突撃してきた黒い鳥に腹部を咥えられた。みしみしと体がいやな音を立てる。咀嚼されるたびにその音が鈍く変化していく。
痛いとか戦わなくてはとか、不思議とそいういうものは感じなかった。ただ指先にあったはずの画面が顔の前まで移動してきて僕にその文字を見せ付ける。
【"孤独の勇者"の称号を手に入れました。独りで闇に落ちなさい】
どういう意味なのか、何が起こったのか、わからない。
今までの中で一番耳に残る音とともに下半身の感覚が消える。食べられている、と恐怖が後ろから体を蝕んだ。そしてもう一度、体を貫くような音が――。
>>セーブできません。
>セーブできません。
セーブできません。
―――魔王城
魔王はたそがれていた。わざわざ広い部屋の壁側によって、窓から魔界を覗いていた。
空を飛ぶ黒い鳥を発見する。それが自分の使い魔で、何を終わらせてきたのか理解している。
魔王はバルコニーに出て使い間を迎えた。本来ならそんなことしないのだが、大仕事を終わらせてきた長年の友だ。それぐらいしか出来ないというのなら、せめてそれだけでも。
「すまんな、嫌なこと頼んだ。屑だと罵ればいい。自分の手でやればいいのに、他人を使いやがって、と」
使い魔は魔王を慰めるようにその手に頭をこすりつけて甘える。気にするな、と魔王には感じられた。
「勇者って結構厳しい役職なんだ。ダメだぜ、勇者らしさを失ったら」
魔王は屈んだ。使い魔がつれてきてくれた勇者の顔を見るために。
「大丈夫。もうお前は勇者じゃない。闇に落ちた、元勇者だ」
そして元勇者を元勇者は撫でる。自分の手がセイロンの性質を変えていくのを見ていた。
「勇者は仲間を持つけど友達なんて持たないんだ。孤独でなければならない。あの称号は最後の通達なんだけどなー。『最後はせめて勇者として』っていう慈悲深いシステムなんだって。クソ食らえだろ?」
最後の称号は救いである。世界を救う勇者に対する最後の救い。誇りを守って勇者として死ぬか、誇りをすてて堕天して生き延びるか。本来なら選択権は称号を手に入れた者にあるのだが。
「可愛そうな勇者。俺が堕落を教えてやるから」
元勇者の現魔王は、その権限を勇者から奪い取った。そして、この哀れな勇者に死を許さなかった。