勇者は考えなければならなかった
本文に書かれていることはすべてギャグです
実際するあらゆるものと関係ございません
「ゼーゴーンー」
「どうした? ミルゴ」
二人連なって歩く様は親子にしか見えない二人だが、この二人は正真正銘勇者の一行、つまり仲間である。立場も対等であって周りから見れば少しおかしいかもしれない。
そんなことは関係なく、二人は彼らのリーダーの行いを謝りに行く途中なのだ。本人は、「あの人を目の前にして冷静に謝れるとは思えない」と同行していない。
「前の勇者様もセイロンと同じなら、なんでアルバス様に対して怒らなかったんでしょうね。セイロンみたいに家族に女性とか居なかったらそれがおかしいことって分からないまま旅をしてたのかなぁ~って」
「まぁ、セイロンも世間知らずなところがあるからな。山の中で育ったとなれば知らないことは仕方が無いんじゃないのか? まぁ、そうだつっても女性を軽く扱うのはどうかと思うが」
「謝って、レアミルへの道を教えてもらったら少し聞いてみようよ、前の勇者様のことも。一緒に旅をしてたアルバス様なら知ってるはずだよね!」
「知らないはずはねーだろうけど……、俺が聞いてやるからミルゴは後ろにいろよな。昨日も変なこと言われただろ。またそんなことあったらセイロンが怒るかもしれないだろ」
「はーい」
「っと、ここだここ。んじゃ、頭下げに行くぞ」
「おー」
ゼゴンを先頭にアルバスが昼間には居るという建物に入る。その建物は昨日あった彼には全く合わないものだった。
「失礼します」
「失礼しまーす!」
二人が中を覗き込むと祈りのための小さな空間に彼は居た。本当に昨日に勇者一行が見たアルバスか、と疑いたくなるほど立派な僧侶に見える。
ゼゴンとミルゴは互いを見た。勇者一行における僧侶とは治療魔法を担当する魔法使いのことだ。その名には合わないが教会に属していることが多い。そして彼ら僧侶が祈りをささげるのは鍛錬と同じ効果を生む。言えばレベリングなのだ。
「意外と真面目?」
「もう旅にも出ないのに祈りか……」
よって「旅の必要がないのにレベリングをしている」光景は、この世界では違和感があるものだ。
「ん? あぁ、君たちは昨日の。勇者君の姿が見えないけれど、昨日あれだけ起こっていたから顔を合わせづらいかな? それも仕方が無い」
「昨日はセイロンが……、うちの長が悪いことをした。それをまず謝りたい。本人も謝るつもりはあるんだが、あなたと顔を合わせて冷静で居られる自信がないそうだ」
「いや、構わない。こんな屑に勇者本人が出向いて頭を下げる必要などないからね。いいよ、テンポよく話は進めよう。レアミルへ行きたいんだろう。この建物自体が門になっている。門を開く方法はおれが知ってる。準備があるから今日の夕方ぐらいに来なさい」
「あ、あの! 勇者がどんなところから来るのか、聞いてますか?」
「……あの屑、前の勇者から聞いている。山から一人降りてくるそうだな。君たちがどこまで知っているのか知らないが、彼ら、それぞれの一族から毎回一人出すんだよ。そして、『王都に一番最初にたどり着いた者』が勇者になる。それ以外は……どうなったか分からないそうだ。でもそりゃそうだよね? 山に引きこもってた子供が、魔物溢れる道中を越えて王都につけるかどうかなんて分からない。多くは死ぬことになるのだろう。たどり着いても二番目なら……どうなることやら。おれはね、歴代の勇者なんかより、勇者になれなかった人たちに祈りをささげるのさ。魔王が生まれない時代に生まれた勇者の一族の者、男ではなかったから死ぬしかなかった一族の女性、せっかく勇者になれるかもしれなかったのに道中の雑魚に殺された若者、たどり着いても一番ではなかった者。かなしいな。だからね、一言、言わせてくれ。おれは勇者が嫌いだ。選ばれた者の癖に、山ほどの命を踏み台にしたくせに、へらへら笑う前の勇者も、卑屈と謙虚を履き違えてる君たちの勇者も。でも役割だからね。おれは勇者を導く役割を持った。前は勇者の仲間として癒す役割を持った。それだけのこと。役割を果たすまでのこと。それに抗いたくなる気持ちも分かるが、おれは勇者側、人間なんだ」
最後の言葉を言うとき、アルバスは空を見上げた。空の先に居る誰かを見つめているようにも見える。
「勇者に託すしかないおれは、勇者が来ない間遊んでいても同じこと。堕落した時間を過ごしても同じこと。どうせ同行も出来やしない」
「あっ……そっか」
ミルゴの師匠、ウィルも言っていた。掛け持ちは出来ないのだと。
「まぁ女好きも嘘じゃないし。とりあえず殴ったのはもういいからね。夕方においで。レアミルへのゲートがある遺跡への一本道を開いてあるから。戦闘の準備してきてね。ゲートを守るガーディアン、あの屑の命令で勇者に攻撃してくるようになってるから」
「屑?」
「魔王のことさ。現魔王の、屑としか言いようの無い屑だよ」
ウィルもそしてアルバスも魔王を屑と呼んだことを疑問に思いながら二人はその建物を出る。十字を掲げた、どうみても教会であるその建物を。
「……しっかし、レアミルの街の前にボス戦かー」
「レベル足りるかな?」
「セイロンも四十台に乗ったし大丈夫じゃないか? 冒険書みると魔界が四十後半ぐらいだって書いてあるし」
「そうだねー。でも魔界までにもう一人、回復役欲しいよね」
「あーそうだな。でも近接二人、遠距離二人で大丈夫か?」
うーんと悩みつつセイロンが待つ宿に帰る二人。夕方までに準備を終わらせるとなるとすぐにでもセイロンに伝えたほうがいいのだが、
「どうしよう、王都にたどり着けなかった他の勇者候補のこと、セイロン知ってるのかな?」
「……たぶん知らないだろうな。伝えなくてもいいだろ。知らなくていいこともある」
「そう、だよね。うん。そうしよ!」
うん、とミルゴが大きく頷き扉を開けた先には、飛行型の巨大な魔物と、傷だらけでその魔物に掴まれているセイロンの姿だった。
セイロンは"孤独の勇者"の称号を手に入れた。
称号が"孤独の勇者"に強制変更されました。
セイロンのHPが10あがった!
セイロンのMPが10あがった!
セイロンの状態異常耐性が3さがった!
セイロンは称号特殊能力"堕天"をおぼえた!
>>セーブしますよ
>はい
はい
現在の勇者一行
セイロン Lv.41 "孤独の勇者"
ミルゴ Lv.43 "大魔法使いの弟子"
ゼゴン Lv.47 "伝説の騎士崩れの傭兵"
前勇者一行の公開情報
全員漏れなく屑
前勇者現魔王 Lv.??? "元屑勇者現屑魔王"
ウィル LV.90 "大魔法使いにて超がつく変人で一番の屑"
アルバス LV.93 "諦めの僧侶"
???? Lv.91 "水に住む変人"