勇者は僧侶:アルバスを殴り飛ばしました
本文に書かれていることはすべてギャグです
実際するあらゆるものと関係ございません
「とりあえず、この街にレアミルの街にいくゲートがあるんだな……」
「もー、道中の魔物が増えて大変なのー!」
「街に入ったからもう平気だろ。えっと、アルバスだっけ、先代の勇者様の仲間って」
「おししょー様がいうには屑らしいけど」
「流石先代の勇者様のお仲間だな……」
「「えっ!?」」
またこの勇者は何を言い出すのやら、とミルゴとゼゴンが顔を合わせる。此処まで屑が揃っていたと知れば敬意も失われると思っていたのだが。
「謙遜していらっしゃるのだ。仲間皆さんで同時に謙遜し合っているのだ! あまり謙遜が過ぎると仲間同士の罵り合いに聞こえるのか……。だが、互いにそれを理解し許す友情も持ち合わせていらっしゃるからこそ!」
「あー、ダメだ。自分の世界に飛んでるよ」
「セイロンって本当、嫌いとかいう感情がないんじゃないのか?」
「かもねー」
自分の世界へ行ってしまったセイロンの手を引いてミルゴが先に進む。ゼゴンも道行く人に「アルバス」について質問しながら後を追った。
「ミルミルちゃん、ミルミルちゃん」
「見つかったの? アルバスさん」
「この先の店に入り浸ってるってさ。あとセイロンが正気に戻って恥ずかしそうだから手を離してやってくれ」
「あっ、セイローン。アルバスさんが見つかるかもってー」
「聞いていた……」
い、いこうか、とセイロンがやけにおとなしい。フラフラと歩いていくセイロンは顔が赤い。
その姿からミルゴと初めて出会ったセイロンが連想させた。
「セイロンって女性にいい思い出ないとかかな?」
「……ミルゴさん? もしかして自分を女性にカテゴリーしていらっしゃいます? どう見ても幼女ですよ?」
「敬語!? しかも幼女!? ひどいっ! ゼゴンひどいっ!」
「杖でたたくな! HP減ってるだろ!」
二人が戯れる間にセイロンの姿が見えなくなっている。二人揃ってしまったと叫んであわてて追うと、衝撃的な場面に遭遇した。
「ゴミめ」
「あれー? 今回の勇者は大人しい真面目なやつだって聞いてたんだけど?」
見知らぬ男がセイロンに見下され、暴言を吐かれている。地面に倒れている男は頬に殴られた痕が見て取れた。この状態から、セイロンが殴ったとしてもいいだろう。
「私は、女性に無責任な者は大嫌いだ」
「無責任? 違う違う。みーんな責任取るよ。僕に責任取られたくない女の子が逃げていくだけだよ?」
「正真正銘の、屑だな」
「はは、酷い酷い」
そういって殴られた男性は周りに山ほどいる女性の手助けを借りながら立ち上がった。ニヤニヤとしていてゴミだの屑だの、暴言を受けた後には思えない。
「あいつのこと知りたいっていうから女の子紹介してくれたらいいよって言っただけじゃないかー。あっ、いい子見っけ。ん? ちょっと若すぎるかな。まぁ、この僕の手で育てるってのもありだけど?」
男の視線を受けたミルゴは条件反射でセゴンの後ろに隠れた。セイロンも男とミルゴの間をふさぐ様に移動し、もう一度屑め、とはき捨てる。
「貴様が先代の勇者の仲間であるということをふまえても、私は貴様に教えを請うことはない」
帰ろう、とセイロン。普段は露出の多すぎる魔法使い独特の姿をしているミルゴに自ら触れることのないセイロンだが、今回はミルゴの手を躊躇なく取って宿への道を進んでいく。
「せ、セイロン」
「どうした? ミルゴ」
「セイロン、女たらしに嫌な思い出でもあるの?」
「……私は、女性を軽々しく扱う者は何に優れていようが嫌いだ」
「セイロン、手……」
「あっ! す、すまない! 無意識で、その」
はじかれた様にミルゴの手を離し、セイロンも、ほんの少し普段の様子に戻ったように見える。次の言葉が見つからないのか、セイロンは近くの荷物に座ったり立ったり。何か決意したようにミルゴとゼゴンを見てはまた視線をそらす。二人はセイロンが話し出すまで辛抱強く待った。
通りに人通りもいなくなったころ、ぽつりとセイロンが音を漏らす。
「私には……、僕には姉がいたんだ」
勇者の家系について公表されたことは無い。どこからか勇者として表れ、魔王を倒すとどこかへ消えていく。古くから勇者とはそういうものだった。
「僕の家は世間から隔離された山奥で暮らしている。魔王が蘇ったときに勇者として世間へ出て行く。それ以外は山から出ることは許されていない。生きている間に魔王が現れなかったときは、その血を未来につなぐ為に子をなすことが仕事だった」
「セイロンは勇者になれてよかった……の?」
「そういう家柄が複数あって、順番で僕の一族の番だっただけ。先代の勇者様も全く知らない家の人だ」
「でも山の外に出れてよかったじゃねーか」
なぁ? とゼゴン、そうだよとミルゴ。だがまだセイロンの顔色が悪い。
「僕の家では女は必要ない。女は生き残っても勇者に選ばれないから。一族に女が生まれると山の誰も踏み入れない場所に捨てることになっている」
「えっ、でも男の人だけでどうやって子孫残すの?」
「それいうなら一つの家族だけで子孫残してるのも不思議な話だけどな」
「よくわからないが長が山に迷い込んだ女性を連れ去っていたらしい。子供さえ生めばまた山に捨てるそうだ。僕がそれを知ったのは山を出た時だった」
不愉快そうな顔のセイロン。同じ女性としてミルゴは嫌悪の表情になり、ゼゴンはひでぇな、と一言感想を漏らす。
「お姉さんも……?」
「母が姉を哀れんだそうだ。母もいずれは山に捨てられるのを知っていたから、女だというだけで捨てられる姉に自分を重ねたらしい。姉を男子だったと嘘の報告をして、姉は生き延びた。母は僕を産んだ後すぐに山に捨てられたそうだ」
「亡くなったの……?」
「知らない。運よくふもとの里にたどり着いたかもしれない。分からない。ただ、長に兄が姉であると知られないように暮らす日々が続いた。そんな中、王都から勇者を派遣せよと命が届いた。長は姉を指名したが、それ故に姉の性別が公になってしまった。一張羅を仕立てようとしてくれた善意から、な」
「捨てられた、のか?」
「さぁ……。いい境遇ではないだろうけれど、僕は勇者として発てと言われた通りにしてしまったからわからない。ただ、女だというだけで顔を合わせることも無かった母や、忍んで生きていかなければならない姉を思うと、どうしても女性を軽く扱う輩を好きにはなれないんだ」
それも僕の器が小さいだけのことかもしれないが、とセイロンは苦しそうに笑った。こんな話をしてしまってすまない、と立ち上がる。
「明日、申し訳ないがアルバス殿に謝っておいてくれないだろうか。僕が……、私が直接行くべきなのだろうが、またことを荒らげてしまいそうなのだ」
「お、おう。任せてくれ。ほら、今日はもう休もうぜ、セイロン」
「そうだよそうだよ。装備とかアイテムとかも私たちが明日買うからね!」
* * *
「はぁ、勇者にそんな過去があるとは」
「………」
いつも元気な魔王が真剣な顔つきで何か考え込んでいる。もしかしたら元勇者として過去にふけっているのかもしれない。
「放っておきましょう、ケノス様。思うところもあるのでしょう」
「そうですね、アクロス様。ラ・ジューン君も今日は魔王様お一人に……」
「魔王さまぁ……」
部下三人が去り、魔王は閉じていた瞳を開けた。
「女を軽んじる輩は嫌い、か……」
魔王は、屑と呼ばれた男は微笑む。
「アルバスとは合わなかったみたいだし、見込みありかなー。俺も屑だけどアルバス嫌いだったし。屑は屑でも種類が違うし」
ねぇ、アップ、と指示してセイロンの顔をまじまじと見つめる魔王。
「大きくなったな……」
ほんの少し、人間というものへの未練をあらわした。
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