勇者補正「魔王の思い通りなどにはさせない!!」
本文に書かれていることはすべてギャグです
実際するあらゆるものと関係ございません
峠の頂上に達するだろうという頃になって勇者一行の足はとてつもなく重くなっていた。真面目という名の無知であるセイロンはただの疲労と一蹴したが、ミルゴとゼゴンは別の要因があると考え、一度休憩することを提案し、セイロンもそれに賛同した。
何がおかしいのか、とりあえずセイロン以外は自分のステータス表を開く。絆が深まってから判明したのだが、セイロンのステータス表は意図的に開かないように出来ているらしく、二人がいくら操作しても開かなかった。そのせいでセイロンのステータスはミルゴかゼゴンのステータス表から「仲間」を選択して簡易的なものを見ている。
「あれ? 毒になってる」
「三人ともってことはなんか食ったもんがおかしかったか。腹痛が毒表示になってるとかよ」
「でも特に腹痛を感じないぞ。私としては風邪のような、全体的な体のだるさがあるが、それは毒によるものなのか?」
「それだと呪いとかの表示になりそうなんだけどなー? 治療魔法覚えたてでよかったらかけようか?」
「うむ、頼む」
セイロンに頼まれるとミルゴはにっこり笑って立ち上がる。息を大きく吸い込み、全身全霊で新しい呪文を唱えた」
「ソウージキ!」
「そうじき……?」
前からセイロンたちには不思議だったのだが呪文というより掛け声ではないだろうか。
ミルゴは自信満々でどうですか? と尋ねてくる。セイロンたちは素直に教えてやるのだ、効いてないと。
「んー、状態異常回復の呪文ですし、ただの毒なら直ると思うんですけどー……。治療魔法で治らないってことはイベント用かも。頑張って四獣に会うまで登ってみましょ」
「そうだな。体力が減るとか毒らしい症状もないからな。進むしかないか」
「うむ。四獣には知り合いがいるから尋ねてみようではないか」
「「知り合い?」」
「サクロスという名の四獣にはお茶っぱを貰った恩があるからな」
「「………」」
どうしよう、セイロンがおかしい。
と、今更な悩みにミルゴとゼゴンは黙り込んだ。
そもそもこのセイロンという勇者、勇者に選ばれるほど根っこからの真面目だ。真面目だが、魔物だからという理由で迫害することはない。普通に暮らす生物を脅かすなら容赦しないだけだ。
なぜか魔物たちは街を襲わない。港への道や峠道など、とことん街と街の交流を絶とうとしてくるが、街は国だ。無用に交流する街同士など異例であり、道を塞ぐことで困るのは商人ぐらい。
この勇者、商人のために魔物と対峙していると言っても過言ではない。
「ん、あ、いた! サクロスさん!!」
「「さん!?」」
「あ、勇者さんじゃないっすかー。いやーお久しぶりです。今回は人数分台本用意……って、あれ、仲間増えてません?」
魔物のサクロスはいやー久しぶりですねーなどと言って近寄ってきた。丁度峠の頂上あたりだ。待ち構えているのはサクロスたち四獣のようで。
セイロンは台本を一冊受け取って、サクロスの握手に応えている。
「気づきました? ミルゴにゼゴン・ヴァイオレット。魔法使いに騎士! すばらしい仲間です!」
「あー、仲間増えてるとか聞いてねーよ、あの糞魔王」
「どうかしました?」
「あ、いや、じゃまたよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
まるで神聖な試合でもするかのように頭を下げる勇者と魔物(幹部クラス)。そしてセイロンが台本を三人で見れるように開いた。だが、仲間が増えていることを知らなかった四獣が作った台本なので、台詞はセイロンのものしかない。
「峠を通る人々を妨げる四獣たちめ、今すぐどかなければ強制的にどか……って私はこんなことを言わない!」
一行目からセイロンが台本を投げ捨ててしまう。
「どくわけないだ、え? まじで? あ、お茶余ってるけど持っていきます?」
武器ではなくおちゃっぱが入っている箱を差し出すサクロス。
「確かに退いて欲しいとは思うが特に討伐を依頼されているわけでもないからな。お茶は頂きます」
箱は受け取るセイロン。
「えっと、では戦闘しよう。うん。イベント戦で10ターンキルね。10ターンまで生きてください」
「そのイベントというものがわからないんですが、確か私が10回攻撃すればいいのだったな」
「そうそう。お願いしやーす」
「えっとセリフは……、では力ずくだぁっ。……やはり、違うな」
セイロンが首を傾げるが、首を傾げたいのはミルゴとゼゴン、そしてあと3匹残る四獣たちである。
(((((なんでこんなに仲いいんだろうか……)))))
おちゃっぱを受け取ったセイロンは箱をミルゴに渡し、稽古以下の剣あわせをしだした。カキィンカキィンと金属がぶつかり合う音。外野と成り果てたセイロンとサクロス以外は座って戦いを見るはめになっている。
「――8、9、……10!」
「ふぅ。あ、普通に終わっちゃいました! うわー、この10ターンでキル技チャージの予定だったのに!」
「台本にもそう書いてあるな」
「んー。でも間違ってしまいましたし、間違ったものは仕方が無い。あの糞魔王の言うこときくのもあれですし。あ、そういれば体が重くないですか?」
「ん? なぜ知っているんだ?」
「あの屑魔王、魔界の空気を人間界にばら撒いてるからなんですよ。おかげで魔界に帰っても空気が薄かったっすよー。もーやだわー。とりあえず魔界の空気は人間に害だから、体重いと思うんすよ。あ、魔界で育てたおちゃっぱのお茶を飲んでいる勇者さんたちなら症状は軽いほうだと思うんですよねー。あ! おちゃっぱ配れば薬に成るかもしれないっすね!」
「なんと! このおちゃっぱが薬に! もっといただけるか!!」
「もっちろん!! あの屑が大量生産してるせいで余って余って!! 俺たちには人間の食べ物なんて食べれないし!!」
「おぉ! ありがたく頂戴する!」
「えぇどうぞどうぞ。ではお気をつけて」
「うむ。また会いましょう、サクロスさん!」
「えぇ!」
こうして勇者一行は峠を無事に越えました。
*
「駄目だろ!! 四獣が勇者の味方しちゃってるじゃん!!」
「やはり、こいつが屑のせいで……」
*
「ねぇ、セイロン」
「どうした?」
「峠、越えちゃっていいの?」
「ん? いいのではないか?」
「まぁ、いいんだけど」
こうしてもやもやとしたものを屑の魔王や勇者の仲間に残した峠越えは終了した。
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