魔王が動き出しました。
本文に書かれていることはすべてギャグです
実際するあらゆるものと関係ございません
勇者たちが四獣がいる峠へ向かっている間、魔王城では。
「うぃぃぃーーーーーーるーーーーーー!!」
元勇者一行の魔法使い、ウィルの名前が呼ばれていた。呼んでいるのは魔王で、床を転げまわりながらただただ名前を叫んでいる。
「魔王様落ち着いてください!」
「エスタルシア!! 落ち着いてなどいられるだろうか!」
「キミタルシアです魔王様!」
「お、あ、ごめん。じゃキルシア君」
「略しやがった!」
「魔王様が呼んでくださるのなら何とでもお呼びください!」
転げまわる魔王を健気に追い回しているキミタルシアと、書類に囲まれてげっそりしているケノス。突っ込まずにいようとしていたケノスだが、名前を略されたキミタルシアが目を輝かせていたので思わず口を出してしまった。
キミタルシア君、君はおれたちには名前すら呼ばせなかったよね……?
そんな本音だ。
「そうかそうか。で、キルシア君、ケノス、アクロス。問題なんだよ」
「さっきから叫んでますものね。どうかされましたか?」
叫んでいるだけではなく転げまわっているので埃が舞って邪魔なのだ。話を聞くだけで大人しくなるならプラスだろう。
「まぁ、うん。ウィルに俺が魔王だってばれてる。そしてウィルにばれてるってことはミーナにも連絡いってるだろうし、ミーナが知ったら自動的にアルバスも知ってるってことなんだよ! 元勇者一行全員にばれてる! もう人間界にバカンスいけないじゃない!」
「いや、行くなよ。仕事しろよ」
目の前に積まれている書類が見えないのか。この前までは確かに視察と言っていたのに、今日はバカンスと言い切った。それに反応して、一切話に入ってこなかったアクロスも会話に混じってくる。
「そんなことより、魔王様以外は元勇者一行って仲良いんですね」
「あ、それ思いましたよ。すぐに連絡回るのでしょう」
「俺だって仲はいいよ! 皆屑だからね!」
(間違いなくお前が一番の屑だよ…)
ケノスが一人で頷く隣で、キミタルシアが目を輝かせている。魔王に駆け寄って服についた埃を払ってあげるサービスつきだ。
「ありがとうキルシアくーん。魔王のマントに埃ついてちゃ格好つかないよね。さて、ウィルにばれてるみたいだから、本格的に指示しちゃおう。人間界の人間襲おう。というか個人的にアルバスとウィルとミーナちゃん潰しちゃおう。敵なんていなくなるよ!」
「仲間ですよね…?」
「元だよ、元! 特にアルバスと俺は仲悪かったしー。あ、でも人間襲わせると雑魚が勇者とエンカウントしやすくなる。しかたがないかー。時間は貸せげたもんな。勇者のイベント待ってるから歴代魔王は倒されちゃったんだよ。四獣全員に追加支持。メサの峠は全員で対応。勇者潰しちゃおう。潰して、殺さず連れてきて」
「連れてくるのですか?」
「うん。アルバスに台詞なんて与えない。アルバスがいる街になんて勇者一行及びカメラを連れて行きはしないよ!」
「カメラって。物語は勇者視線で進むものですよ」
「うん。だから勇者をアルバスに会わせなければ、アルバスはいてもいなくても同じでしょ? 名前だけ出てくる屑野郎にしよう! それがいい!」
「さすが魔王様! 元仲間にも容赦ありませんね!」
「ラ・ジューン君も盲信しないでね…。そいつ屑だから」
毎日のようにケノスがため息をつく。それが会話の終了の合図にもなっている。
暇で暇な魔王は、会話が終わった後、ある工夫を凝らした。魔界の空気を人間界に漏らす工夫だ。ある種の装備を持たない人間には毒なのである。そして人間界で暮らす魔物たちは強化できる。
ちょこちょこっとするには十分すぎる小細工を、こそっとする屑なのだ。――要するに、何もしないのは暇なのだ。
>>魔物たちが強化されました。
>>状態異常"弱体化"になりました。
>>魔王城の壷にお金がたまりました。