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勇者だった魔王  作者: 空愚木
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伝説の騎士が仲間になりました

 本文に書かれていることはすべてギャグです


 実際するあらゆるものと関係ございません

 船から降りてきた勇者の姿を見たものは後にこう語る。


 ――田舎ものがやってきたとしか思わなかった。

   まさか、あんな奴だとは思いもしなかった――


 その勇者の姿を見たものはその後、見たことも聞いたことも無い体験をしたと言う。

 

 

 

 「って書いてありますよ、この攻略本。物語なのか攻略本なのかしっかりしろって思いますけど」


 「すばらしいお姿だったのだろうな!私も見たかった…」


 「先代の勇者のこと私はあまり知らないんですけどー、どんな人なんですかー?」


 ミルゴが本を閉じた音が響いて、更に一拍置いて、セイロンが輝いた目でミルゴを見た。

 その瞬間ミルゴにもわかった。聞いてはいけないことで、聞けば満足するまで話す。この勇者セイロン、妄想のような理想を先代の勇者に持っていることは、ミルゴだって勘付いていたのに。なぜ聞いてしまったのか。


 「お会いしたことはないが、話を聞いている限りすばらしい方だぞ!自分が悪く言われることもいとわず、周りを思える方でな?それで――


 (あー、これいつまで続くんだろー。聞いた私も悪いけどさー。でも船酔いは忘れてるみたいだし、ほっとこーと。

  ってことで、私がちょこっとリヴァリガイト帝国の説明するよ。この攻略本にも書かれてないし)


 ミルゴがセイロンへの説明もかねて口を開きかけた時。先代の勇者語りから冷めていたセイロンがミルゴの台詞を奪った。このリヴァリガイトという国について簡潔に説明する。


 「リヴァリガイト帝国。通称:騎士の国。王が変われば騎士も換わる。先代の王の騎士が傭兵に落ちるとか。まぁ、現国王の騎士の出来はいまいちで、先代の騎士だった男が伝説の傭兵とか呼ばれるようにになったらしい」


 だろう?とセイロンがミルゴに同意を求め、失礼ながらミルゴは感動していた。この天然でステータス画面の開き方も知らない勇者、しっかり目的地については調べていたらしい。


 「ゆ、勇者様ぁ!調べてたんですか!スイマセンなめてました!!全然、全く、なにも知らないと思ってました!!」


 「調べてるに決まっているだろう!バイトしてたら、勤め先のおじさまが教えてくれたんだがな」


 「ちゃっかり港町に馴染んできたんです!?」


 「先代の勇者様の話をしながら聞いた」


 「そこでも先代ですか!?」


 「これこそ勇者様の加護だろう」


 「違うような違わないような」


 セイロンの先代の勇者のこだわりはたいしたものだとは思う。だがミルゴにはそれが心配でもある。

 なにせこの勇者様、結局先代の勇者一行の手がかりを手に入れずにリヴァリガイトまでやってきてしまった。もしかしたらここで増える仲間は傭兵ではなく、先代の勇者一行だったかもしれない。

 先代の勇者へのこだわりが強いセイロンの性格キャラクターなら、傭兵か先代の勇者一行かといわれれば後者をとるだろう。もしそう組まれていた物語なら、崩してしまう。


 「はー。この勇者様はそんなこと気にしてないかー」


 だからいいんだけどさ、とミルゴは一人呟く。

 ステータス画面の開き方も知らない。攻略本にも頼らない。相手がいい人だと疑わない。あと美味しいものを分け与える心がある。

 ミルゴはそれで「勇者」として十分だと思ったから付いてきた。物語をゆがめてしまうかもしれないけど、魔王に負けてしまう勇者でもいいかもしれない、と。この旅路を楽しむことさえできたら。


 「ミルゴ!!」


 だから、セイロンがミルゴを呼ぶこの声が好き。

 自信満々で、すごいものを見つけたんだ、見てくれよ!と子供のように名前を呼ぶ子の声が。

 だからミルゴも笑顔でセイロンの方を――


 「うわっ!?だれそのおっさん!」


 セイロンが自信満々につれてきたおっさんあらため、中年の男。

 勇者といえども素人まがいでレベル一桁のセイロンや、魔法使いのミルゴなど比べ物にならないほどたくましい体をしている。持っている剣や装備品も使い込まれたあとが伺え、只者ではなさそうだ。

 ミルゴが考え事をしている間にセイロンがその辺りをうろちょろしていたのはわかっていたが、突然男を連れてくるなど。もしかしてもう雇う傭兵を決めてしまったのだろうか。ミルゴとしては勇者の名に恥じない騎士でも連れて行きたかったのだけれど。


 「魔王を倒す旅について来てくれるそうだ!お金のほうも、これからの旅で得たものを山分けする形でいいらしい!名前は、えっと…」


 「ゼゴン。ゼゴン・ヴァイオレット。ま、騎士崩れの傭兵さ」


 「ゼゴン・ヴァイオレットぉぉぉ!?それって、まさしく!まさしく先代の王様直々の騎士だけで構成される部隊の隊長だった人じゃ……」


 なんていう引きの強さ…、とミルゴが絶句する。だが、セイロンは伝説云々ではないとろこに食いつく。


 「なに!そうだったのか?言ってくれればもっとしっかり料金のことだって考えたのだぞ?」


 「なぁーに。元は騎士。元々金を貰って働くのは性に合わんのよ。魔王を倒す定めの勇者にお供したとあれば、おれの落ちぶれた騎士道もまた貫けるってもんさ」


 「そういってくれるならありがたい…。魔王を倒すとあれば旅路にそれなりの金も必要だろうから。節約の旅になる」


 「ちょ、ちょっと待って!仲間になるのに何のイベントもなしですか!?それはちょっと!」


 話が落ち着くなら落ち着くで、ミルゴは落ち着かない。

 勇者の仲間が増えるときはイベントをつれそう。互いに死線を共に越えることで言葉にはできない絆を感じて勇者一行となるべきだろう。ミルゴ自身も最終的にはお茶に施されたとはいえ、真珠魔法石を倒すには強靭なゴーレムを倒さなければならないことぐらい知っている。

 この勇者セイロンは、自分を仲間にするためにその強靭なゴーレムを倒してきた。レベル一桁の癖に。そこも惹かれた要因であることはミルゴも認めざるを得ない。


 「んー、じゃ、今の勇者様の実力が知りたいな。手合わせお願いできるか?」


 「むっ。そうだな。弱い者と共に進むのは気が進まないだろう。私の腕を見せてやろう!」


 (いいのかなー。だって、勇者様レベル一桁だし…。絶対勝てないよね)


 「とうっ!」


 セイロンの掛け声と、振り下ろされる剣。

 だがその剣を軽々と弾いたゼゴンには、本来あるべき驚きとは間逆の驚きの表情があった。


 「え、おいおい。手加減は必要ないぜ?」


 「手加減などするものか!」


 「………」


 どういうことだ?とゼゴンの視線がミルゴに移る。勇者が本気なのは見ればわかるからだ。

 が、リヴァリガイト帝国まで進んだ勇者の実力ではない。弱すぎる。ゼゴンのレベルは十八か十九辺りにもなる。もちろん騎士の剣を使えないやら本来の力が出せないやら云々でレベル調整された数字だが、それにしても勇者よりかなり上であることは一度の剣あわせですぐにわかった。


 「…騎士様ぁー。今勇者様のレベルって七なのですよー?」


 「ななぁぁぁぁ!?え?ここってリヴァリガイトだぞ!?四獣の二匹目だろ!?」


 「な、なぜ知っている!」


 「冒険の書の大ファンだからだよ!!リヴァリガイトにいれば勇者の仲間になれると思ってたのに!!ここにくるなら十六、七ぐらいは……」


 「でも七は七ですもんねー。ま、私は十一ですけど」


 「魔法使いも低い!?船の途中でダンジョン寄ってきたか?そこのダンジョンの雑魚は倒しやすいのに経験値が上手いからそこでレベル上げしてからリヴァリガイトだろ!?」


 「あ、船のイベント無視して強行突破したので、真っ直ぐリヴァリガイトまで来ました」


 「な、なんだとぉぉ!!」


 その叫びを最後にしてゼゴンが頭を抱えてうずくまる。

 確かに冒険においてレベルというものは必要だ。セイロンのように当たって砕けろタイプの冒険者なら特に。リヴァリガイト帝国の時点で一桁というのは無謀すぎる。


 (それにしても、船のイベントあったんだー。やばいなー。どこかでレベル上げしないとー。でもリヴァリガイトの魔物って雑魚でも十四から十七あるよねぇ。どーしよ。勇者様と私だけじゃ無理だよー)


 大量に回復アイテムをもって、こまめに回復しないとレベル上げも満足に出来ない。ミルゴが回復魔法を覚えれば早いのだが、まだレベルが足りないし、覚えたとしてもMP数値ものびていないので回数が使えない。


 「あのぉ。弱い私たちなので、騎士様が先頭に立ってレベルあげしてくださいませんかー?そもそも私たち、殆ど魔物に会ってないんですよー。魔物が出るところ知ってるみたいですし、教えくださーい」


 「それしかないよなぁ…。はぁ、不安だな、マジで」


 ミルゴとゼゴンが頷きあったところで勇者セイロンから一言。


 「あれ?もう剣はいいのか?」


 彼は、本当に当たって砕けろしかできないようで、しかも砕けないとわからないタイプのようだった。


 

 

 >>セーブしますか?

  >はいはい。しますします。

   いいえ。それより魔王サイド見せろや。


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