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作者: せにらん

「はい、笑ってぇ!」


レンズ越しにのぞかれた私は嫌々ながらニコリと笑った。


カシャッ


あまりいい思い出にもならなかった成人式を迎えた私は、自分にはもったいないくらい綺麗で派手な振り袖姿に嫌気が差した。


目の前の写真屋さんはムスッとした私を余所にニコニコ笑ってるし、母親もまるで自分のことのように頬を赤く染めて私の振り袖姿を見つめていた。


うんざりだ。20歳になって何が嬉しい?成人式なんて酒で酔った男たちが市長の挨拶もろくに聞かず騒いでたし、久々に逢った高校の女友達は髪を金髪に染めてまるで別人のような厚化粧をしていてびっくりした。


「綺麗ねぇ。私の成人式の時なんてこんな派手な振り袖は着なかったわよ?」


母親がさらに頬を赤らめて、ねぇ?と年老いた写真屋さんに相づちを求めた。


だから何なんだ?私は成人式なんて迎えたくなかったのに。


私は周りが早く大人になりたいと言う中、一人だけ学生のままでいたいと思ってた。人って、子どもと呼ばれる期間よりも大人と呼ばれる期間のほうがはるかに長いのに。


いつから大人なの?いつまで子どもなの?


私の考えってひねくれてるのかな?


「ふふっ」


自問自答して、自分で笑みが自然とこぼれた。思わず私はしまった!と母親を見る。だが母親は写真屋さんと写真の出来をパソコンで見ていたから、セーフ。


何やってるんだろう。私ったら。


でも、そんな私も、鏡に映った自分を見てほんの少し心踊った。成人式なんてもののおかげで、人生で一度きりこんな綺麗な振り袖を着れたんだから。写真を撮られるのは嫌だったけど、たまにはこんなものを着れるのは嬉しいかも。



「じゃあ、いいですね?」


母親と写真屋さんが納得した様子でうんうんとお互いうなずく。


「はい、じゃあお疲れ様です。向こうで着替えて来て下さいね」



やっと終わった。…いや、もう終わっちゃったのか。


大人になるのは嫌だけど、一日くらいお姫さまのような気分を味わえるのもなんだかいいな、なんて思ってたらもう終わりなんだもの。


さぁ、明日からまた仕事頑張らなきゃ。こんなに大人が嫌なら、大学くらい行っておけばよかった。嗚呼、大学生なんかより先に社会に出ちゃった私、なんだか損だわ。



「ねぇ母さん、母さんの成人式の時の写真あったら見せてよ」


「あら、いいわよぉ?押し入れでホコリかぶってるかもしれないけど」


「ふふっ」


私は成人式に行かなかったのですべて空想です。変なところがあったらすみません。

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