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エピローグ

 潮風がサラサラと心地よい涼しさを運んでくる。

 砂浜に座り波と戯れる由紀と涼子の姿を眺めながら、克巳は高岡のことを思った。

 あれからすぐに東亜銀行の柳田常務と、高岡が自宅のマンションで謎の死を遂げたことは新聞で知ることになった。それが自分を助けるために鳥居彰吾のとった行為の結果であることは克巳も理解している。

 おそらく鳥居彰吾が話してくれたように、今度の事件の発端が高岡であることは間違いないのだろう。

 弟のようにかわいがってきた高岡の裏切りに、克巳はやりきれない思いに包まれていた。

 高岡が克巳の名前を騙って犯した罪の結果、克巳と同じ名前を持つ3人の人間が死に、篠原やそれを調べようとした刑事が命を落とした。

(呪いか……)

 未だに心のどこかで信じることの出来ない自分はいるけれど、あれから一週間が過ぎ、涼子もあの女の夢を見ることもなくなった。

(全て終わったんだ)

 克巳は今、自分や家族が無事に生きていられることに感謝していた。

「お父さーん!」

 涼子が楽しげに笑っている。克巳は立ち上がって手を振った。

(もう忘れよう)

 そう思った瞬間、ポケットにいれた携帯電話が鳴り出した。克巳はすぐに携帯電話を取り出した。

『非通知』

 ディスプレイに表示されたその文字に眉をひそめながら、克巳は電話に出た。

 その瞬間、克巳の表情が変わった。

 ザーザー……と砂の流れるような雑音が聞こえてくる。それは高岡の結婚式の夜に聞いたあの電話のことを思い出させた。

(バカな……全てはおわったはずだ)

 克巳は頬をこわばらせた。

「誰だ……?」

 震える声を押えるように克巳は訊いた。相手は何も言おうとしない。ただ雑音が聞こえてくるだけだ。

(誰かのいたずらなのか?)

 だが、電話を切ろうとした瞬間――

――山崎さん……

 その声に克巳は聞き覚えがあった。

「朝倉さん? そんな……あなた……事故で死んだんじゃ」

――おまえのせいだ……おまえに関わったために俺は死ぬことになった。

「朝倉さん――」

――呪ってやる。


       了


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