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純色童話集

とある男の独白

作者: maki

童話を書くのは三回目かな?

私は森の奥深くに長いこと、というよりほとんど産まれた時から住んでいるのです。


私の顔はとにかく醜い、両親が産まれたばかりの私を見て「なんて醜い子供が産まれたんだ・・・これじゃあ出来損ないじゃないか・・・」そう呟いたのを微かながらに覚えています。私の顔はとにかく醜いのです。鼻は曲がり、目はむくれ、一言で私の顔を現すとしたら化け物が等しいでしょう。それくらいに私はみに・・・・・・いや、汚いのです。汚れているのです。怪物なのです。私自身鏡を見ると吐き気を催すのですから。


ある日でした、私は初めて彼女に会ったのです。


彼女は小さく美しかった。ほとんど人に会ったことのない私にはそういったことにはかなり疎いのですが本能的にそう思ったのです。

私は咄嗟に隠れました。当然です、私を見たら彼女はきっと悲鳴を上げてこの場から逃げ出してしまうことでしょう、この森は住んでいる私でさえ迷いかねないくらいに深いのです。もし我を忘れて走り出すだなんて愚行を犯したらきっと森に飲まれてしまうことでしょう。それだけは避けなくては、私はすぐ近くの木の影に隠れました。


「誰!?」


ああ、私は愚かだったのです!化け物の私がとるべき行為は隠れるなどではなく、彼女に見つかる見つからないを無視して逃げ出すことだったというのに!

逃げ出すことも叶わなくなった私はただ大きいだけの図体をできるだけ小さくしました、そんなことで私のでかい身体が隠れるわけはありませんがとりあえず彼女が気のせいだと思うのを祈りました。


「誰かそこにいるの?」


ああ、察しが良すぎる!彼女は私が隠れている木の影に近づいてきたのです。私は本当に嫌なのに、また運命は私をいじめるのです。

『うわぁ!化け物!』


『なんて醜いんだ!』


『逃げろぉぉ!』


まだ私を運命はいたぶるのです、私自身悪いことはしていないのに。ひょっとしたら私の存在そのものが罪なのでしょうか?そう思ってしまうくらいに私は不運なのです。この顔に産まれてしまっただけでも辛い人生を送っているというに神はまだ私に辛い責め苦を与えるのです。これはもはや試練などではなく私刑です、神は私の困っている様を天からご覧になっては神は醜い私を嘲っているのでしょう。

観念した私はゆっくりと木陰から姿を現します、ああ、また叫ばれる。この少女も逃げ回って私が森を歩き回っている時に死体に出くわすのです。私は醜いなりをしていますが死体を見るような趣味はありません。いつも痛みを覚えて苦しむのです。


「人間?人間なの?」


少女は意外なことに逃げ出しませんでした、私はただそれだけの事実に面喰らってしまい少女の問いに答えることができませんでした。初めてだったのです、顔を見られて逃げ出されなかったのは、敵意を向けられなかったのは。


「どうしたの?ひょっとしてあなた口が利けないわけ?」


少女は心配そうに私の顔を除き込みます、びっくりしました。人生初の体験、今まで無条件で忌み嫌われていたこの顔の持ち主を目の前の少女は気にかけてくれているのです。


「怖くは・・・ないんですか・・・?」

「なんだ喋れるじゃない」

少女はにっこりと笑いましたが私の質問には答えませんでした。しかし、しかしです。私は生まれてこのかた会話というのをまともにした経験がありません、だからそれをこれっぽたして不自然とは思いませんでした。むしろ嬉しかったのです、誰かと喋るなどどこかであきらめていましたが心のどこかでは人恋しかったのかもしれません。


「あなた、どうして泣いているの?」


私は少女に言われて初めて自分の頬に涙が伝わっていることに気づきました。ポタポタだなんて生半可なものではありません、後から後からひっきりなしに溢れてくるのです。


「あなたひょっとしたら噂の『森の人食い』っていう化け物だったりするの?」


少女は物騒な通り名を口にしました、聞いたことはありませんでしたがきっと私の通り名であることは間違いないでしょう。私は人など食べやしないのに。


「あなた有名よ,この森に入った者が誰も帰ってこないのは『人喰い』の仕業だって。ひょっとしたら私も食べる?」


物騒な質問をするわりに彼女は落ち着いていました,大きな目はほとんどぶれることなく私を射抜いていて私が嘘をつくことを許さないようでした。


「・・・・・・大丈夫です、私は人を食べたりはしません。人を食べるのはこの森なんです」

「森が人を食べる?それは・・・・・・この森は悪魔に呪われているという意味かしら?」


悪魔、言い得て妙でした。どうやらこの少女の村はかなり一般常識というものが欠けているようです。きっと神様も信じているだろうし架空の化け物の存在も信じていることでしょう、だから私が迫害に近い扱いを受けているのかも知れません。


「悪魔なんてこの世に存在しませんよ、この森が鬱蒼としているから入った人はみんな迷ってしまって出ることができないのです」

「嘘!?じゃあ私は・・・・・・」


少女の声が初めて小さくなり、視線が下を向きました。彼女に対して勝ち気な印象しかなかった私には少しだけ意外で、異常なほどに気にかかりったのです。


「ところであなたはどうしてこの森に入ってきたのですか?」


少女は「はぁぁあ」と長くため息をついて首を上に折り曲げます、世界中の人の数よりもこの森の樹の方が多いと思えるくらいに樹木が並び立っているこの森は空が見えないので上を向く必要はないのにと私は思いました。


「友達と賭けをしてね・・・・・・賭けに負けたからこの森に入ることになったんだけど友達ったら私が女だからって理由で怖くて入れないだろー、って言われたから連中の目の前で走りながらこの森に突っ込んだの・・・・・・そしたらこの有り様、あなたに会ったのは入ってから二時間したくらいから」

「だいぶ走ったんですね」


私は苦笑してしまいました、見た目こそ幼い彼女でしたが年齢的には12、3といったところでしょうか?きっと今までの様に普通に男の子達と遊んでいたら身体能力に差が出てきてついていくので精一杯。バカにされることが多くなって、だから見栄を張りたくなったのかも知れません。


「笑わないでよ、私にとってこの森から出ることは死活問題なんだから」

「すみません、真剣な話でしたね」

「やっぱり笑ってる」


彼女の怒った顔を見ているとなんとなく癒されました、私に向けられてきた怒りの表情はどれも私を本気で殺そうとするものばかりでしたからどうしても和んでしまうのです。


「よかったら私が村まで送りましょう」

「道が分かるの?」

「生まれた時からここに住んでるものですから、この森は庭というよりも自宅のようなものなんです」


そこから少女の村まではけっこう時間がかかります、私は少女とずっとなんらかの話をしながら歩き続けました。互いの身の上話をした際に彼女は驚いていましたが私はその反応を見ているだけで幸せな気分になれました。


「あっ、野苺」

「この森には随所にはえていますよ」

「あっ、キノコ」

「それは食べられますからいくらでも採っていきなさいな」

「詳しいのね」

「肉が食べられないからそればかり食べているんですよ」


少女と話している間に村までの道のりはだいぶ消化しました、あと十分程度で彼女の村に到着するでしょう。


「ねぇ、あなたには本当に名前がないの?」

「ええ、さっき言ったように両親は私が物心ついた頃になっても私を人間扱いしてませんでしたから」

「かなり悲惨よね、どうしてあなたの両親はあなたにそんな扱いをしたのかしら?」

「・・・・・・この顔ですから、私を生んだ時から周りの人達にかなり影口を叩かれたそうです」


でもむしろ感謝しているのです、生きる術を叩き込んでくれてから私を捨ててくれたので。


「あのさ、私の家に来ない?私の家私一人しかいないの、両親は去年亡くなったからずっと寂しいんだ」

「他の村の人に殺されてしまいますよ」


少女はそれだけ言われると黙ってしまいました。私も心が痛みましたが仕方がないのです、この世にサクセスストーリーなんで実際には存在しないのですから。

醜いアヒルの子は醜いままで人生を終えるのですから、醜いままで生きていくしかないのですから。


「・・・・・・つきましたよ」

「あっ、本当だ」

「お友達には適当に言っておいてくださいね、私のことは決して口にしないでください」

「わかったわ、ありがとう、えっと・・・・・・」

「名前はありませんよ」

「そうだったわね」


彼女は苦笑いをしながら互いの姿が見えなくなるまでずっと手を振ってくれました。彼女が見えなくなるとなんだか切ない気持ちになりましたが私なんかが彼女と一緒に暮らすだなんてとんでもない,私どころか彼女も迫害されかねません。幸せな人間は幸せなままであり続けるのが一番ですから。


「はぁ,今日は疲れた・・・・・・」


私は森の中にたくさん点在している私の小屋の一つの中に転がり込むと床に寝っ転がります,もう本当に疲れました。人と久々に話すとこれほどに疲れるものなのでしょうか。


「嬉しかったな・・・・・・」


逃げずに自分と正面から話してくれた少女,初めて偏見の含まれていない目に映る自分を見てもやはり醜いままでしたが自分の笑顔という物を初めて見たような気がします,頬の感じから私は自分が笑っていることに気づきました。


「幸せとはこういうものなのかな・・・・・・?」


今日は寝よう、ゆっくりと目を閉じると私はすぐに寝てしまいました。





「また来たわよ」

「・・・・・・歓迎しますよ」


泥だらけでドアを荒々しくノックした彼女をにっこり笑いながら頭を撫でる、どうやら余生を一人でこっそり生きていくことはできないようです。

どうだったでしょうか?感想、ご指摘などがありましたらよろしくお願いします。

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