ごめんなさい。私が偽物の聖女です!
冷や汗がしたたり落ちる。
本物が現れた。
「ごめんなさい。ごめんなさい!私は偽物でした!光魔法なんて使えません!ごめんなさい!」
私は床に手をついてひたすら謝った。
「ネダ?」
「ごめんなさい。父の大司教に言われて聖女の振りをしたんです。本物は、あちらのルシアナ様です!」
殿下は、優しい殿下は信じられないと驚愕の表情をしている。
そうよね。
私がずっと聖女だって思っていたから。
私は大司教である父の実の娘だけど、光魔法は空っきり使えない偽物の聖女。
先代が亡くなる寸前、後継者を選んだのに、父がそれを握りつぶして、私をすげかえた。
本物の聖女は色々なところで奇跡を見せて、ついに王都へたどり着いた。
このまま嘘をつき通しても、待ってるのは破滅。
大体、大司教の娘である私も、正妻から生まれてはいない。
正妻は子に恵まれず、私は大司教が手を出した信徒の一人から生まれた。
美しかった母は大司教に半ば強引に体の関係を結ばされ、私を生んだ。
それを正妻が取り上げ、母はショックで亡くなったと聞いている。
正妻、お母様は表面上は私の母親として振る舞ったけど、裏では最悪。
父も私を駒としてしか思っていなかった。
聖女の寿命は五十年、だから最初から私を使う気だったみたいだ。
「兄上。その者の言うことは事実です。このルシアナ様こそが本物の聖女。そこのネダは偽物です。長い間兄上に取り入り続けた醜い輩だ」
弟君のブラルド殿下の言うことはその通り。
私はずっと聖女を演じ、アルド殿下を欺き続けた。
この優しい人を。
「兄上」
現在陛下は病状中で、現在第一子であるアルド殿下が代理の王のようなものだ。
なのでブラルド殿下は私と、父の処遇を迫っているのだろう。
死にたくない。
私はただ、従っただけ。
だけど、私には断る選択はあった。
断ってどうなるかはわからなかったけど。
「アルド殿下。これまでの企みはすべて、この魔女ネダの企みでございます。私は彼女を聖女だと信じておりました。私は無実です」
父は最後のあがきとばかり、私に罪を擦り付けようとする。
そんなの酷い。
「酷いです。私はただあなたに従っただけなのに」
「何を言う!魔女め!」
父が激高し、杖を振り上げた。
「おやめなさい。ヴァルド!」
威厳のある声が響き、父は動きを止めた。
「ロマニーナ様!」
そして先代聖女の名を叫ぶ。
「ふっ。ヴァイド。私の声は覚えていたみたいね。よくもまあ、醜いことを考えたものよ」
その声はルシアナ様の口から発せられていた。
その表情はいつもの柔和なルシアナ様ではなく、厳しい感じでまるで別人のようだった。
「ルシアナを後継に指名したのに、それをもみ消し自らの娘を聖女として王家に報告する。これは反逆罪にあたる。そうだな。ブラルド」
「はい。ロマニーナ様」
ブラルド殿下が恍惚とした表情を浮かべて頷いている。
……ん?
「アルド。心配しなくてもよい。ネダはヴァルドの娘であるが脅されていただけだ。彼女には罪はない。そうだろう。ブラルド」
「そうであります」
私には罪はない?
いいの?
それで、だって私はアルド殿下を、王家をずっと欺いてきた。
「無論、無罪とはいかない。贖罪は必要であるな。ブラルド」
「はい。ロマニーナ様」
「先代聖女の分際で、何をそう偉そうに!」
父はもう逃れられないと思ってか、完全に血迷っていた。
聖女ルシアナ様、ロマニーナ様に襲い掛かろうとして、ブラルド様に切り殺される。
「申し訳ありません。このような者の血であなたの美しい姿を汚してしまいました」
「構うでない」
死人に口はなし。
どこの言葉だったか、王家を欺いた聖女事件は大司教の仕業だということで幕を閉じた。
私は聖女の側付として今は仕えている。
「ああ、もう嫌になっちゃう。また勝手に私の体を借りられちゃたわ」
聖女ルシアナ様はすっかり元に戻っていて、日々、聖女の務めを果たしている。
私がどんなに頑張ってもできなかった光魔法、その癒しの力を使って、人々を救済している。
「五年、私の元で贖罪すれば、もう自由だからね。だけど、その先も自由かはちょっとわからないけど」
「ネダ!」
ルシアナ様がお茶をしていた場所に、アルド殿下が現れる。
「アルド殿下。またいらしゃって。こんなところで油を売っていてよろしくて?」
「大丈夫。ブラルドも一緒だから」
「え?ブラルド様も?」
途端ルシアナ様は不機嫌な顔になる。
「ルシアナ。なんだ。俺がきたら不服か」
「不服ですわ。どうせロマニーナ様に会いに来られたんでしょ?今は私が表に出ているから、残念でした」
「別に残念ではないけどな」
ブラルド様はロマニーナ様にぞっこんで、最初はロマニーナ様に会うためにルシアナ様に会いに来てるのだと思っていた。
だけど、実際、話してみるとブラルド様はルシアナ様を好いていて、ロマニーナ様へは敬愛って感じに思える。
「ネダ。辛くない?大丈夫?」
「大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
私はアルド殿下をずっと騙していたのだけど、それに関して怒っている様子はない。
むしろ同情してくださっていて、本当に申し訳なくなる。
「あの、アルド殿下。王宮の方は大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないよ。すぐ戻るから大丈夫。ブラルドが会いたいって煩いから」
「兄上。俺のせいにしないでください。それは兄上でしょ」
ルシアナ様をからかっていたブラルド様がどこから話を聞いていたのか、そう話に割って入ってくる。
「うん。そうだね。うん。じゃあ、もう行こかな。ブラルド行くよ」
「もうですか?早すぎです」
「また明日くればいいだろう。ネダ。また明日来るね」
そう言って、お二人はあわただしく戻られる、
移動は魔法なので移動時間はほとんどない。
私も魔法を使えるけど、微々たるものだ。
以前は魔法石を持っていて、誤魔化していたけど、もう誤魔化す必要はないので、魔法石は使っていない。
だから、生活魔法とよばれるレベルの低い魔法しか使っていない。
例えばお湯を沸かすとかだ。
「ネダ。疲れちゃったわね。お茶のお代わりもらえる?」
「はい」
こういう時に私の小さな魔法は大活躍だ。
五年後、私の奉公は解かれて自由の身になった。
けれども、待っていたのは養子縁組で、公爵子女となった私はアルド殿下の婚約者候補に選ばれた。
年齢はすでに二十歳を超えていて、とんでもないと断ったのだけど、アルド殿下は決行して、一年後、婚約者になった。
ブラルド殿下は聖女に使える騎士になるとかで、王位継承権を放棄。
そしてアルド殿下が王太子になった。
そうなると、必然的に私は王太子妃になることに……。
聖女を騙ったことはやはり問題にされたけど、アルド殿下がその意見をねじ伏せた。
教会からの支援もあったと思う。
ルシアナ様が声明を出してくれた。
アルド殿下と結婚、王太子妃となった。
その上、アルド殿下が王位を継承して、私は王妃に。
偽物の聖女だった私は、断罪されることもなく、王妃となってしまった。
物語としてどうかなって思うけど、死にたくないので、これでハッピーエンドとしてほしい。
(おしまい)




