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短編集  作者: ふわゆ-
6/11

練習用おっぱい成り上がり編【コメディー】



おっぱい、それは…  


哺乳類の胸部や腹部に付随している、皮膚や脂肪等が隆起した乳腺の開口部と、その周辺。雌だと成熟や妊娠につれて発達し、動物の種類によっては数対存在する。乳もしくは、乳房。


しかし、そんな言葉では納得できない、男の魂を惹きつける不思議な魅力がその物体には秘められている。中学生男子ならば、口には出さなくとも心の中で毎日50回は叫んでいるこの単語…


前略おふくろ様、ついに… ついに、この瞬間がやってまいりました。オレはとうとうその、柔らかな感触に手を伸ばす日を迎えてしまったのです。



思えば長い苦闘の日々でした。東で、時速40キロで走る車の窓から手を出した感触がその柔らかさだと聞くと、お年玉の半分をタクシー代につぎ込んで、夕暮れ時の湾岸道路を走り。西で、学年に一人はいる、いじめられっこのドンくさいデブ男をみつければ、何かと救いの手を差しのべて仲良くなり、友達同士のジョーク混じりのあいさつで毎回そのたるんだ脂肪が包む胸元をもんでみたり。


でも、そんな日々とも、もうおさらばだあぁぁああ!


ついに… オレはついに、人生の新たなる一歩を、今まさに踏み出す。成り上がるぜ!





両親がいない二人っきりのリビングで、彼女は無防備に肌を露出したキャミソールを着て、ソファーに腰掛け、お笑い芸人児玉義男のDVDを見て笑っている。いや、児島ヨダヲだったかな?  ……でも、そんなのかんけぇーねぇぇええ!


オレはついに作戦を実行する瞬間を迎えたことを実感し、軽く武者震いをする。しかし、焦ってはいかん。フン、フフ~ン♪ さりげなく鼻歌を歌いながら、リビングを歩き、少女が座っているソファーの背後に回る。曲はもちろん、おなら頭文字。いや、ちがう。おしり貸した虫だった。いや、動揺しているのか?

違う、オレはいたって冷静だ。オレはいつもと変わらない。掛け算だって5の段までは息継ぎナシで言える。と、そのとき彼女が振り返って俺のほうを向き言った。



「お兄ちゃん! さっきから何後ろでブツブツ言ってんの」


「え、え~と……」


ヤバイ、対象がこっちに疑惑の視線を向けてこっちを見ています。オレは心の中の無線で本部と連絡を取る。応答はゴーだった『ただちに作戦を遂行せよ!』(その間約0.2秒)


おれは実の妹(中二) に向けて言った。


「お前、何か少し太ったんじゃねえか?」


オレは落ち着き払った素振りで尋ねる。


「え~、そうかな? 体重変わんないけど」


「いやいや、体重は変わらなくても筋肉が落ちて脂肪だけになってるんじゃないか? 毎日テレビ見て寝転んで過ごしてるからだよ」


「そうかなあ?」


「ほら、俺が調べてやるよ」


「え? 調べるって何?」


「いいから、じっとしてろよ」


強引に言い放つとオレはソファーの背後から妹を抱きしめるように、背後から腕を伸ばし、その柔らかな脂肪の塊を、てのひらでそっと包み込む。


おお~! おおおおぉぉぉぉぉおおおお!!!

イ、イィ~☆.。.:*(嬉´Д`嬉).。.:*☆ホワワワワーン


天上から神々しい光が差し込み、頭の中で天使がラッパを吹き鳴らしながら飛び回る。


その至上の温もりとやわらかさ。オレはまた一つ階段を上った。


【二の腕】それは人間の体の中で唯一おっぱいと同等の質感を持つ部位。


「どう? お兄ちゃん」


妹が、オレに二の腕をつままれながら、尋ねてくる。


「うーん。やっぱ筋肉が落ちてるな」


「ふーん、あのさ…」


「何?」


「ひとつ言いたいことが、あるんだけど」


オレはその柔らかな感触だけに集中しながら妹に適当な相槌を打ち返す。それにしても、何て気持ちいいんだろう。まるで山深い秘境の温泉に浸かっているみたいだ。


「あのさ、お兄ちゃん…」


「なんだよぉ!」


おれは集中を邪魔されたくなくて、思わず軽くキレ気味に言った。


「あのさ… 心の中で思っていること全部、つい口に出してしまう癖やめたほうがいいと思うよ… かなりキモいんだけど」


気が付けば、妹は振り返り、今まで見せたこともないような怖い顔をしてオレをにらみ付けている。



ヤ、ヤバイ!

オレの体は妹の二の腕を掴んだまま、氷のように固まってしまった。


な、何か言い訳しなくては…、ば、ばか。冗談に決まってるだろ。お前もそんなことが分かる年頃になったんだな……

いや、まずい。それでは、この行為をセクハラ行為と認めてしまうことになる。何か、何か別の、世間様が納得するような、言い訳……

く~、思いつかん(この間約0.2秒)


「その、0.2秒とかも聴こえてるし…、しかも実際0.2秒じゃないから」


「……」


「どうしよっかな~? このこと、お母さんに言っちゃおっかな~」


そ、それは困る。妹よ、兄は、兄はただ、おっぱいへの感触に、ただただ近づきたかっただけなんだあぁぁぁああ!


「へ~、そうなんだ」


え? あ! これも聴こえてんのかぁ!?

「あ~あ、何だかノド渇いてきたな~、コーラでも飲みたいなぁ~」


そうだな、オレもノドがカラカラだ別の意味でだが。でもうちの冷蔵庫にはコーラなんて上等な物は入っていない。あるのは麦茶くらいだ。


「何やってんの?」


立ち尽くしたままのオレにさらに妹が怖い顔をして詰問する。何って、何も…… 

「買って来て!」


「へ?」


「お母さんに言いつけてもいいの? 早くコンビニでも行って買ってきてよ」


「よ、よろこんでぇ~」


オレは慌てて玄関へ向かう。中二の妹にアゴで使われる羽目になるとは……


「あぁそうだ、ついでにポテチも買って来て、のりしおね!」


なぬ!? ポテチはノドの渇きとは関係ないんじゃ……


「それも、聞こえてるよー」


リビングから響く妹の叫び。


「は、はいー、行ってきまーーース」


オレは靴を履くのもそぞろに玄関のドアを開け、外へと飛び出した。





コンビニの帰り道。オレは少し遠回りをして夕暮れの海岸通りを歩いた。世界はオレンジ色に染まっていて、


オレはコンクリートの堤防に飛び乗り、夕陽の沈む水平線を見つめてその上に立つ。


しかし… 


しかし、なにわともあれ、オレはやり遂げたのだ。また一つ、おっぱい道を極め、あの柔らかな感触を手に入れた。



心の中でナレーションが響く。


ゆけ妄想男! 地球の平和を守るため。負けるな妄想男! 真のおっぱいの感触を両手につかむ、その日まで。



クスクスクス…


丁度その頃、犬の散歩をしていた幼なじみの柚姫ゆずきが、笑いをかみ殺しながらオレの背後を通っていたことに…


そのときのオレは、まったく気付いてはいなかった。

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