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短編集  作者: ふわゆ-
3/11

夜堕草 【ホラー】

注)この作品には違法行為を教唆もしくは促し、扇動する意図は全くありません。 自己責任と社会通念に対する判断力を持たない方はご遠慮ください。



中岡はワンルームマンションに一人暮らしをしていた。そこはバイト先からも、大学からも近く、俺たちの溜まり場のようになっている。で、仲間内で集まるといつもくだらない話をしているのだが、その日は誰が言い出したのか、怖い話大会が始まった。


…夜の学校の水のみ場で水を飲んでいると、後ろから赤いマントを着た…


…終電が無くなった駅のホームに、一人男が立っていて、近づくとケータイを眺めながらブツブツ。そこには写メが映っていて、なんとその男の…


…城の、お堀のところにある公衆電話。夜中の0時ちょうどに行くと、見えるらしいよ…


…江戸時代に、ある武家の奥方が浮気をして、罰としてその相手と共に拷問を受け、町民の前で縛られて生きたまま埋められ、その上に柳の木が植えられたらしい。その場所がちょうど大学の…



などなど、地元で有名な話をみんなが、やいのやいのとやり取りをする。


ふと中岡がクローゼットを開け、奥からタバコを取り出した。封の切られた、赤ラークだ。


「あれ中岡タバコ吸ってたっけ?」


と誰かが言う。


「ああ、普段は別に吸わねーんだけど、怪談話のときは吸いたくなるんだ」


そう言って火をつける。


その違和感に気付いたオレは、何気なく尋ねてしまった。


「そのタバコなんか変だな?」


「あ、気付いた? 中身は田舎の友達にもらった、紙巻タバコだ。癖があるんだけど、気に入ってんだ」


「へー、一本もらっていい?」


「どうぞ、もう数ないけど」


オレが一本もらって火をつけると、皆がオレもオレもと手を出してくる。吸ってみると、確かに癖がある。でも、吐き出すほどでもない。


「ブレンドしてあるから、素人でも大丈夫さ」


中岡はそう言うと、話を始めた。


「オレの高校時代の友達に、島根の奥地の山間部に住んでる奴がいたんだけど……」


その集落は平家の落人伝説で知られている。五月の節句を祝ってあげた鯉のぼりが、運悪く源頼朝の家臣に見られてしまい、一番鶏の鳴き声とともに攻め込まれた。


「今でも、その村では鯉のぼりは上げないし、鳴き声をあげる鶏を飼うことはないんだ」


昔は炭焼きとか、猟をして暮らしてたらしい。ま、小さな田んぼや畑もあるし、牛を飼ってる人も居る。山の奥では、松茸や山菜が取れるので、地元の人間以外が密猟に来ることもある。で、村の自治会の年寄り連中が、猟銃をもって見回りをしたりするんだ。とうぜん俺の友達も子供の頃から、その奥地には近づいちゃいけないって言われていた。村人は代々子供の頃から、ある言い伝えを教わっているんだ。


「……言い伝え?」


「そう。言い伝え、というか物語かな」


それは、こんな話だ。


その奥地には大きな岩がごろごろしていて、多くの洞窟があった。その一つには、岩肌に沿って木像のお堂も建てられていて、国の重要文化財に指定されている。そして、その岩だらけの山奥には、ぽっかりと校庭ぐらいの広さの原っぱが開けているらしい。


「落ち武者が馬を隠して育てたらしいんだけど、そこには今でこそふさがれているけど大きな大きな洞窟があって、平家の落ち武者が村にやってきたとき、そこに村人が匿ったらしい。その辺りには、今では地元の人間に忌み嫌われている、草が自生しているんだ」



さっきも言ったように落ち武者たちは全員、源頼朝の家臣に殺されてしまう。一番鶏が鳴き始め、朝日が集落を照らす頃、その草むらは血まみれの平家の落人の死体で埋め尽くされた。洞窟の内部には、その凄惨な殺戮の爪痕として助けを求め逃げまどった彼らの、血塗られた手形が幾つも残っていた。


季節は変わり、時が経ち、いつからかその草むらに、五本指の手のひらのような葉っぱで鋸の刃の様に細かいギザギザを持つ草が生え始めた。その葉は良く見ると血しぶきを浴びたような茶色の模様が入っているらしい。


集落の人々は、落ち武者達の無念が生えさせた草だと信じている。で、地元の人間は彼らの無念を供養するため、その草に特別な名をつけて呼んだ。



「……夜堕草よだそうとね」



だからその場所に近づいたり、勝手に抜くと、平家の落人の祟りがあるという伝説が残ったんだ。



「知ってるよそれ、逆から読むんだろ?」


誰かが高い声を張って言った。


「なにそれ?」とオレは聞く。


「よだそう」逆さから読むと?


「う・そ・だ・よ……嘘だよか! はははは」


「笑えるだろ、はははは」


皆で笑った。オレも笑った。中岡も笑っていた。


何だこれ妙に面白い。はははははは

知ってる話なのに。はははははは

皆バカみたいに笑ってる。ははははは


気持ちいい。 

ははは

でも、気持ち悪い。はは


目眩かな? 部屋がぐるンぐるン回りだした。はははははは

笑い声の渦の中

ははははは


オレはそのまま意識が飛んだらしい。





「大○」は消して!ネット有害情報削除に指針

2006年10月26日(産経新聞東京朝刊) 


=====

わいせつ情報や麻薬などインターネット上に氾濫はんらんする違法・有害情報の削除方法を検討していた総務省は25日、ウェブサイトの管理者が削除しなければならない情報の具体例を列挙し、どの法律に抵触するかなどを明示したガイドラインを作成した。


接続事業者などはネット上の有害・違法情報を削除できるが、情報は表現の自由や通信の秘密の保持などの法律に守られているため、事業者が判断に迷い、必ずしも削除されていないものも多い。


ガイドラインに示された違法情報は、(1)わいせつ関連(2)薬物関連(3)振り込め詐欺関連-が中心。


例えば、「規制薬物の乱用を、公然、あおり、唆す行為の禁止」(麻薬特例法第9条)は、抵触すれば3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処することを明示。


「大○、エク○タシー」などの規制薬物名や購入方法の記載は違反となるなど、具体的な内容を盛り込み、過去の判例も記されている。


小さなサイトや接続業者は、内部に専門家がいないため、違法かどうか判断できない場合が多かったが、総務省では「具体的事例を示すことで、違法・有害情報を削除しやすくなる」と効果を期待している。


ガイドラインは電気通信事業者協会、テレコムサービス協会、日本インターネットプロバイダー協会、日本ケーブルテレビ連盟と総務省が共同で作成した。

【2006/10/26 東京朝刊から(一部伏字あり)】





気が付くと朝だった。中岡だけが目を覚ましていて、他の皆はばらばらに床に寝ていた。


「何か気持ち悪いよ」


そう言うと中岡は、実は、俺もだ。と返した。


みんな次々と目を覚まし、頭が痛いだの、喉が枯れてるだの、と訴える。そしてバラバラに別れ、それぞれの家へと帰っていった。



その日の夜バイト先で、中岡と顔を合わせた。昨日の騒ぎがうるさかったと、隣人に鬼のような勢いで怒られたらしい。


「俺もう、あんな怖い思い二度としたくないよ」



夜が堕ちれば、麻(朝)になる。 



というわけで怖い話でした。良い子のみなさん、マネしないで下さいネ!



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