吸血鬼の噂
吸血鬼。もし本当に実在するのなら面白い。だが、この世界が元いた場所と同じ理屈で動くのなら、そんなファンタジーの生き物は存在しないはずだ。
「レオンさん村の方で聞き込みしてきてもいいですか。」
好奇心を抑えられないような様子で言う。
「あぁ構わないぞ」
「なら私もついて行く。いいでしょうお父様」
イツキはエマともに屋敷を出た。
「エマこの村に人が沢山集まる場所はあるか?」
「人が集まる場所と言えば教会じゃないかな。」
教会か。たしかに吸血鬼などと迷信じみた噂を信じた村人が沢山居そうだ。
「エマ、そこに案内してくれ」
2人は教会の中に入った。中に入ると神父の周りに村人たちが集まっていた。村人たちは吸血鬼がどうのこうのと騒ぎたてていた。
「すみませんちょっといいですか?吸血鬼の噂についてお聞きしたいのですが。」
1人の村人が近づいてくる。十字架のネックレスをつけ、口からはニンニクの匂いを漂わした。中年の男だ。
「珍しい格好だな」
舐めるようにこちらを見ながら言う。
イツキは苦笑いをした。全員一言目が珍しい格好と言ってくることに飽き飽きしていたからだ。それにニンニク臭い。
「あぁお前さんはあのお人好し領主が言っとた転移してきた薬師か」
「そんなところです。ところで」
「あれだろ吸血鬼についてだろ。アグナーとこの家畜小屋でな夜に牛の血を吸う奴を見たのがいるんだ。それを見た次の日の朝牛が死んどったんだ。」
興味深い。ますます吸血鬼感が強くなってきた。
「その家畜小屋に連れて行ってくれませんか。」
「いいぞ。そっちにアグナーも居るはずだ。詳しいことはそいつに聞いてくれ」
家畜小屋につくとそこには大きな牛が横たわっていた。もう息はない
「あれ、トラッシュさん何故ここに?それに領主の娘さんまで、もう1人は見たことないなそれに珍しい格好をしているね。」
「イツキと言います。ここで吸血鬼被害が出たと聞いたので見に来ました。」
「あぁ転移してきた子か。領主様がすごいやつだと褒めていたよ。ここに横たわっている牛が例のやつだ。好きに見てくれて構わないよ。何か気になることがあったら聞いてくれ」
この人はやけに冷静だな。そんなことはどうでもいい。
「一応確認ですがこの牛あなたが殺したわけではないですよねアグナーさん」
「そうだよ。私が殺していたら今頃血抜きをしているよ。」
それもそうだ。家畜を屠ったなら、すぐ血抜きをするはずだ。
牛の体を観察する。たしかに血を首元から抜かれた跡がある。だが、吸血したというより細い筒のようなもので血を抜かれた跡だ。
でも、この少量の血を抜かれたごときで死ぬほど牛はやわじゃない。
牛の腹部を触るとところどころ凹凸がある。
「この牛がいた部屋も見せて貰いのですが」
「あぁいいよ。」
中に入り死んだ牛が入っていた部屋を見る。床に敷いてある藁は、引きずった後があった。
引きずった後は、十中八九死体を外に出した時だろう。これはあまり関係がない。
床の藁を掻き分ける。
その時、イツキの手が止まった
「…これは」
足元に黒と黄色の死骸が転がっている。
スズメバチだ。
しかも1匹ではない
10匹、20匹……いや、もっとだ。
基本牛やクマなどはスズメバチの毒性を弱めることができる。だが、100匹近くの蜂に刺されたら別の話だ。それも逃げ道のないこの場所では一斉に刺されてしまう。
やけにアグナーさんが冷静だったのは牛の死んだ理由が吸血鬼ではないとわかっていたからか。
「牛の死因は一応わかりましたよ。」
「えっなになに」
エマは目を輝かせながらいう。
「スズメバチに刺されたことによって起こるアナフィラキシーショックが原因です。」
アナフィラキシーショック──アレルゲンに身体が過剰に反応した状態のこと
「吸血鬼じゃねぇのか。でも血を吸う人間がいたって言うのはどうなんだ。」
トラッシュさんは不思議そうに言ってきた。
「たしかに血が取られた後はありましたけど、細い筒のようなもので吸われた後でした。多分この血を吸われた時に牛が興奮状態になって小屋の中にあったスズメバチの巣を破壊。怒ったスズメバチが牛に一斉に襲いかかる。それでこのような事件が起こってしまったとしかまだ分かりません。」
「でも、なんでここに血を取りに来てたんだろ?」
不思議そうにエマは言う。
「そうですね。まずは血を牛から吸い取った人物を探さなくては」
エマが小さく呟く
「でも…この村にそんなことをする人いるかな」
トラッシュの顔が曇る。
「いや…いるかもしれねぇ」
「?」
「最近…夜になると森に入るやつがいる。日が出ている時には顔を見せないのにな」




