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無能と蔑まれた身代わり花嫁は、辺境の【狂王】に嫁ぐ  作者: 綾瀬蒼


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第3話 規格外の浄化スキル

ゴォォォォン……!


腹の底、いや、骨の髄まで震わせるような、重く低い鐘の音が城塞全体に響き渡った。

それは、辺境において『死』がすぐそこまで迫っていることを知らせる、魔物襲来の警鐘だった。


「北門に敵影! 魔物の大群だ!」

「瘴気の濃度が跳ね上がっているぞ! 面を着けろ、吸い込めば肺が腐る!」


怒号が飛び交い、中庭にいた兵士たちが一斉に武器を手に走り出す。硬い軍靴が石畳を叩く音と、鎧がガチャガチャと擦れる音が、城塞の空気を一瞬にして戦場のそれへと塗り替えた。

叫び声の合間に、地鳴りのような獣の咆哮が混じる。まだ遠いはずなのに、まるで耳元で吠えられたかのように錯覚するほど、禍々しい圧が空気を震わせていた。


「行くぞ」

ヴォルフガングが腰の長剣を引き抜き、鋭い声で告げた。その顔つきは、先ほどまでの苦痛に歪んだ青年から、冷酷な戦場の支配者である『狂王』へと変貌している。


彼が北の城壁へと向かおうとした時、リゼットは無意識のうちに彼の黒い外套の袖をぎゅっと掴んでいた。


「私も、行きます」


いつもなら、絶対にこんなことは言えなかった。

実家では誰かの顔色を窺い、怒鳴られるのが怖くて、部屋の隅で膝を抱えて嵐が過ぎ去るのを待つことしかできなかったからだ。


けれど今は違う。

つい先ほどまで彼が地獄のような苦しみに耐え、そして自分の手がその瘴気をほどいた感覚が、まだ掌に熱く残っている。指先の震えは止まらない。だが、自身の恐怖よりも、「彼を一人にしてはいけない」という焦りの方が遥かに強かった。


(もし彼がまた、あの苦しみに飲み込まれてしまったら――)


「……私の背中から、絶対に離れるな」

ヴォルフガングは短く命じ、彼女の手を引いて外階段を駆け上がった。


城壁の上に出た瞬間、リゼットは息を呑んだ。


風が、氷のように冷たい。

空は分厚い鉛色の雲に覆われ、眼下に広がる荒野は、底なしの沼のように真っ黒に霞んでいた。

いや、霞ではない。瘴気だ。

まるで意志を持った真っ黒な大津波が、こちらへ向かってうねりを上げながら押し寄せてきているのだ。


そして、その瘴気の前線には、無数の不気味な影が蠢いていた。


四足の獣に似た巨大な体躯を持つもの。空を覆うほどのコウモリの膜羽を広げるもの。それらの皮膚は黒いすすが固まったように崩れ落ち、双眸は血のように赤く濁っている。

通常の動物が変異したのではない。極限まで濃縮された瘴気そのものが肉体を持ち、生者を喰らうために顕現した純粋な『悪意』の塊だった。


「ひるむな! 弓兵、構え!」

騎士団長らしき男が声を張り上げる。城壁の上に並んだ数百の兵士たちが、一斉に弓を引き絞り、槍を握り締めた。

彼らの顔に怯えはない。だが、余裕もない。そこにあるのは、今日ここで自分が死ぬかもしれないという、冷たく悲壮な覚悟だけだった。


「……いつもより、数が多いな」

ヴォルフガングは城壁の縁に進み出ると、眼下の絶望的な戦場を見下ろして低く呟いた。

その背筋は鋼のように真っ直ぐだが、背負っている重圧は計り知れない。


彼が、ふう、と深く息を吸い込んだ瞬間。

眼下に渦巻いていた瘴気の波が、まるで巨大な磁石に吸い寄せられるかのように、一斉にヴォルフガングの体へと向かって流れを急変化させた。


「あっ……!」

リゼットの背筋が凍りついた。


(やっぱり……瘴気は、全部この人に集まっているんだわ)


兵士の一人が、祈るような、すがるような声で言った。

「辺境伯様。……どうか、いつものようにお願いいたします」


“いつものように”。

それは、彼がこの致死量の瘴気を己の身一つで引き受け、正気を失うほど狂い、血を吐きながら魔物の群れに飛び込んで単騎で狩り尽くすという、あまりにも残酷な儀式を意味していた。


ヴォルフガングが無言で頷き、城壁から飛び降りようと膝を曲げた、その時。


「ガッ、ァ……!」


彼の喉から、先ほど以上の激しい苦悶の呻きが漏れた。

黒い靄が彼の腕から肩、そして首筋へと生き物のように這い上がり、強固に絡みつく。皮膚の下にはドス黒い血管のような紋様が不気味に浮かび上がり、彼の強靭な肉体を内側から破壊しようと暴れ回った。


限界だった。

いくら彼が強大でも、これほどの瘴気を絶え間なく吸収し続ければ、命が尽きる。


リゼットの体は、思考よりも先に動いていた。

反射的に彼の前に飛び出し、両手を広げてその大きな体を遮った。


「だめです!!」


悲鳴にも似た高い声が、戦場の喧騒を切り裂いて響き渡る。

兵士たちが一斉にこちらを振り返り、目を見開いた。


ヴォルフガングも、苦痛に顔を歪めながら戸惑いの声を絞り出す。

「リゼ、ット……退け。危険、だ……!」

「危険なのは、あなたの方です! これ以上瘴気を吸ったら、あなたは死んでしまいます!」


言い放ってから、自分のあまりの大胆さにリゼット自身が驚いた。

伯爵家では、父や継母に口答えすることすら絶対に許されなかった。「無能が喋るな」と殴られるのがオチだった。


けれど、今は一歩も引けなかった。


「君が、何をできるというんだ……君を巻き込むわけには……ッ」


彼が血を吐くような声で制止したその時、眼下の瘴気が爆発的に膨れ上がった。


『ギシャァァァァァァァッ!!』


魔物の群れが地面を蹴り、一斉に城塞の防壁へと激突した。ズドォォン!という地鳴りとともに、分厚い石壁が悲鳴を上げる。

兵士たちが雨あられと火矢を放つ。何体かの魔物は炎に包まれて倒れるが、倒れた死体からさらに濃い瘴気が噴き出し、瞬く間に新たな魔物の形を形成していく。


切っても増える。

焼いても湧いてくる。

終わりのない地獄。絶望が、冷たい風に乗って戦場全体を覆い尽くしていく。


その絶望の中心で、ヴォルフガングが無理やり体を起こし、剣を上段に構えようとした。

刃が鈍く光る。しかし、限界を超えた彼の指先はガタガタと痙攣し、剣を握ることすらままならない。彼の体表に浮かんだ黒い呪いの紋様が、心臓に向かって侵食を進めていた。


(このままじゃ、この人が壊れてしまう)


リゼットは、胸の奥底が熱く沸騰するのを感じた。


怖い。失敗したらどうなる?

また「やっぱり無能な泥かぶり姫だった」と笑われるかもしれない。出しゃばったせいで皆を危険に晒すかもしれない。


けれど――ここには、あの冷たい伯爵家の人間は誰もいない。


ここには、己の命をすり減らしながらも必死に領民を守ろうとしている気高い男と、彼を信じて戦う傷だらけの人たちがいる。


(助けたい。……私にしか、できないのなら!)


その純粋な祈りだけが、リゼットの心を真っ直ぐに貫いた。


彼女は迷わず一歩、さらに前へ出た。

瘴気が最も激しく吹き上がっている、城壁のギリギリの縁。


「奥様、お下がりください!」

「落ちますよ! そんな華奢な体で近づいたら、瘴気に喰われる!」

兵士たちが血相を変えて叫ぶ。


リゼットは聞こえないふりをして、両手を大きく広げ、空と大地に向かって掌をかざした。


『浄化』。


実家では、小さな泥汚れを消すだけのゴミスキルだと嘲笑われていた。

だから自分でも、この力には何の価値もないのだと思い込んでいた。


でも今、彼女の中には確固たる確信があった。

『浄化』とは、単なる掃除ではない。敵を破壊する攻撃魔法でもない。


――狂ったものを、正すのだ。

――汚されたものを、本来あるべき美しい姿へ、戻すのだ。


リゼットはゆっくりと目を閉じ、深く、深く息を吸い込んだ。


胸のずっと奥底。

ずっと押し込めて、鍵をかけていた場所。家族に否定され続けたせいで、自分自身でも見るのが怖かった、強大すぎる魔力の泉。

そこに、初めて自らの意思で手を伸ばす。


触れた瞬間。

ドクン、と心臓が大きく跳ね、指先から全身の血管へ、太陽のように暖かく清らかな奔流が駆け巡った。


「……辺境を、返して」


彼女の唇から紡がれた声は、吹きすさぶ風に溶けてしまうほど小さかった。

けれど、世界そのものが、彼女のその声を聞き届けたように震えた。


リゼットの翳した両手から、圧倒的な純度を持った『白』が溢れ出した。


それは、エミリアが使っていたような物理的な炎や光ではない。熱もなければ、破壊力もない。

ただ、雨上がりの朝の空気のように澄み切った、神聖で静かな白。


その白き波動が、城壁の上から滝のように滑り落ち、荒野全体へ向かって波紋のように広がっていった。


黒い瘴気の津波が、その白い波動に触れた瞬間――。


ドス黒い絶望は、音を立てることもなく、嘘のように崩壊した。


爆発もしない。燃え上がりもしない。

ただ、絡まっていた糸がスルスルとほどけるように。墨を落とした水が濾過されるように。

圧倒的な黒が、一瞬にして薄れ、薄れ、完全に透明に還っていく。


「な……!?」

兵士たちが、弓を引いたまま彫像のように固まった。


城壁をよじ登ろうとしていた魔物たちが、ピタリと動きを止めた。

彼らの体を構成していた黒い煤がパラパラと剥がれ落ち、狂気に満ちた赤い眼球から濁りがスッと消え去る。腐乱死体のような悪臭が、爽やかな風の匂いにかき消されていく。


そして、数百、数千といた魔物たちは――。


次々と、その場に崩れ落ちた。

死体を残すのではない。まるで、悪夢から醒めたように。最初からこの世に存在していなかったかのように、サラサラとした白い砂に変わり、風に吹かれて綺麗に散っていったのだ。


荒野を覆い尽くしていた瘴気の分厚い膜が完全に引き剥がされた時、世界の色が変わった。


何百年もの間、太陽の光を遮っていた鉛色の空が嘘のように晴れ渡り、突き抜けるような青空が顔を出した。

暖かな陽光が大地に降り注ぎ、遠く連なる山々の美しい稜線が、初めてはっきりとその姿を現した。


風が、軽い。

息が、深く吸える。肺の奥まで澄んだ空気が入ってくる。


リゼット自身が一番驚いていた。

自分の体が、これほどまでに大きな力を秘めていたなんて。


「……消えた」

兜を落とした兵士が、震える声で呟いた。

「魔物が……瘴気が、全部……消えちまったぞ……!!」


城壁の上が爆発的なざわめきに包まれ、次いで割れんばかりの歓声が上がろうとした――その時だった。


「ガァッ……!」

背後で、ヴォルフガングがぐらりと大きくバランスを崩した。


外気の瘴気は完全に浄化された。しかし、彼が長年その身に溜め込んできた「呪い」としての黒い紋様は、行き場を失って彼自身の肉体の中で暴走を始めたのだ。

青筋の立った首元から、心臓に向けて、毒蛇のように黒い線が這い進んでいく。


(まだ、彼の中には残っている……!)


リゼットは振り返り、倒れ伏したヴォルフガングの前に膝をついた。


「……触れるな」

ヴォルフガングが、最後の力を振り絞ってリゼットを遠ざけようとする。

「これは、私に刻まれた呪いだ。外の瘴気とは違う。今の君が触れれば、今度こそ命を落とす……!」


歯を食いしばり、顔を歪めながらも、彼は自分ではなくリゼットを心配していた。

自分が死ぬ間際だというのに。


リゼットは、もう一切の迷いがなかった。


「……同じです。私が、綺麗にします」


静かな、しかし有無を言わせない強さでそう告げると、リゼットは彼を拒む腕を退け、彼の分厚い胸板――心臓の真上の呪いの紋様に、両手をピタリと押し当てた。


「っ!」

熱い。いや、違う。絶対零度の氷を押し当てられたような、凄まじい痛みが掌を貫いてくる。

長年彼を蝕んできた呪いが、異物の侵入に対して強烈な抵抗を示しているのだ。


リゼットは痛みに顔をしかめながらも、目を閉じた。


浄化は、強制ではない。

力でねじ伏せるものではない。

“正しい場所”へ、優しく導いてあげることだ。


「……あなたは、誰かを傷つけるために生まれてきたんじゃない」

リゼットは、我が子をあやすように優しく呟いた。

「あなたは、この領地を、人々をずっと守ってきた。……もう十分です。その重荷は、私が全部、お返しします」


掌から、さらに深い、神々しいほどの白き光が溢れ出す。


黒い呪いの紋様が、彼女の純粋な魔力に触れた途端、ビクンと大きく震えた。

一瞬だけ濃く変色して抵抗しようとしたものの、次の瞬間――。


スゥッ……。


呪いの紋様が、一本の線から徐々に薄れ、彼の肌の奥へと溶けるように消え去っていった。

黒が暴発するのではなく、清らかな水に洗い流されるように、完全に浄化されたのだ。


ヴォルフガングの喉から、ヒュー、と長い息が漏れた。


それは驚きでも、苦痛でもない。

彼が物心ついてから初めて味わう、完全に苦痛から解放された、心からの深い安堵の呼吸だった。


強ばっていた彼の肩がストンと落ち、全身の力が抜ける。

土気色だった頬に健康的な血色が戻り、光を吸い込むようだった暗い瞳に、澄んだ光が宿っていく。


そして、彼は――笑った。


少しだけ不器用に、ぎこちなく。

けれど確かに、憑き物が落ちたような、人間らしい穏やかな笑みだった。


「……ああ」

彼は、信じられないというように自身の胸に手を当て、呟いた。

「……痛くない。息が、普通にできる」


その声を聞いた瞬間、リゼットの胸の奥がギュッと熱くなった。


(よかった。助けられたんだ)


極度の緊張の糸がプツリと切れた途端、急激に視界がぐらりと揺れた。

人生で一度も使ったことのない莫大な魔力を一気に放出した反動だった。体の芯から力が抜け、足元がふわりと浮き上がる。


「あっ……」

石の床に倒れ込みそうになった瞬間、力強く逞しい腕が、彼女の細い体をガッチリと抱き止めた。


ヴォルフガングだった。


「無茶をするなと言っただろう」

頭上から降ってきた声は、低く震えていた。

怒っているのではない。彼の手が微かに震えている。彼女を失うかもしれないという、底知れぬ恐怖のせいだった。


リゼットは彼の温かく広い胸に寄りかかったまま、かすかに微笑んだ。


「……ごめんなさい。でも……止めたかったんです。あなたが、これ以上一人で傷つくのを」


ヴォルフガングは、何も答えなかった。

ただ、抱きしめる腕の力を少しだけ強めると、城壁の上に集まった数百の兵士たち、そして遠巻きに見守っていた領民たちへ向けて、よく通る声で高らかに宣言した。


「皆の者、見よ! 彼女が……私の妻が、この地を救った!!」


一瞬の、静寂。

誰もが、信じられない奇跡と、晴れ渡った空と、そして腕に抱かれた華奢な少女を交互に見つめた。


次いで。

ガチャン、と重い音を立てて、騎士団長がその場に片膝をついた。彼は剣を置き、自らの胸に拳を当てて、深く頭を下げる。


「……奥様」

百戦錬磨の騎士の目から、大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちていた。

「ありがとうございます……! 我らの主君を、そしてこの地を救ってくださり……感謝の言葉もございません!」


それを合図に、堰を切ったように次々と声が重なっていく。


「救世主様だ!」

「空が青いぞ! 空気が美味い!」

「奥様、万歳! 辺境伯様、万歳!」

「ああ、神よ……奇跡だ……!」


誰もが武器を放り出し、涙を流して抱き合い、あるいはリゼットに向かって深く祈りを捧げている。


リゼットは、視界が涙で滲むのを感じて目を伏せた。


称賛など、生まれてから一度も浴びたことがなかった。

誰かに必要とされたことも、価値があると言われたこともなかった。


そんな自分に今、これほどまでに真っ直ぐで、熱烈な感謝と称賛の眼差しが向けられている。


ヴォルフガングはリゼットを大切に抱き抱えたまま、彼女の額にそっと、誓いのように自分の額を当てた。


「君は、私の……いや、この領地すべての救世主だ」

その言葉は、どんな宝石よりも重く、温かかった。彼が背負ってきた地獄のような年月の重さが、そのまま圧倒的な感謝に変わっていた。


リゼットは照れ隠しに小さく首を振った。

「救世主だなんて、そんな……私はただの、無能な生贄として……」

「生贄などと、二度と自分を卑下するな」


ヴォルフガングはきっぱりと言い切り、彼女を抱き上げる腕に力を込めた。


「君は、私を助けた。それだけで十分だ。いや、君以外に私の隣に立つ資格のある女はいない」


その瞬間、城壁の下から見張りの兵士が、上ずった声で叫んだ。


「だ、旦那様! 荒野の先を見てください! 瘴気が消えた大地から……緑の芽が、一斉に吹き出しています!!」


リゼットは薄れゆく意識の中で、遠くを見た。

死に絶え、黒くひび割れていたはずの大地が、みるみるうちに柔らかな茶色へと変わり、若草色の淡い光が絨毯のように広がっていくのが見えた。


(……そっか。私の浄化は、人だけじゃなくて……土地そのものを蘇らせることもできるんだ)


自分の力が規格外のチートであることに少しだけ呆れながら、リゼットの意識はついに白くまどろみ始めた。


最後に聞こえたのは、慌てたような、しかしどこまでも甘く優しいヴォルフガングの声だった。


「すぐに最高の医師を呼べ! 一番日当たりの良い部屋の、一番柔らかい寝台を用意しろ! ……彼女には、これからの人生で二度と、指一本たりとも無理はさせん」


そして、意識を手放す直前。

耳元で、甘く独占欲に満ちた低い声が囁かれた。


「君が私を救ってくれた。だから今度は……私が、生涯をかけて君を溺愛し、守り抜こう」


リゼットは答える代わりに、彼の服を少しだけ強く握り返した。


生まれて初めて、誰かの温かな腕の中で“安心して眠る”ということを知った。


――見上げる辺境の空は、どこまでも澄み切った青色だった。

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