僕の一人暮らしのアパートのベランダにダンジョンができた。自分は闘争力がないので、ドローンを操縦してその動画を配信していたんだが、モンスターを倒したドローンが経験値でラックアップして進化していったんだが
久しぶりに書きます。
僕が中学生のときに死んだ爺ちゃんが良く言っていた。
「自分が進むべき道を決めるときには、ずっと先の先のことまで考えて決めるべきだ。一時の気持ちだけで一生のことを決めて後で後悔しないためにもそれは必要なことだ」
僕もそう思う。
いま高校の同級生に平野というのがいるけど、彼は勉強そっちのけでダンジョンに夢中になっている。
僕が生まれた頃から世界中にできたというダンジョンには珍しい鉱物や素材がある反面、どう猛なモンスターが徘徊しているという。
命は一つしかないのに、どうしてそんな無茶をするんだろうと思う。
彼に言わせればコンビニのバイトをするより収入が良いんだとか。
それに加えて、随分早いうちから動画配信をしているらしい。
「ほら、これお前にやるよ」
平野が僕から借りたノートを返しながら、なにか野球ボールサイズの機械を手渡して来た。
「今度配信用の新しい機能のドローンを買ったんだ。で、これは今まで使っていた中古品だけど、いつもノートを見せてくれてるからそのお礼だ」
「いやいやいや、そんなの貰っても僕には使い道ないし」
「これは操縦機付きのドローンカメラだ。今は自動操縦になっているので、旧式のものだ。別にダンジョン配信でなくても普通にリモコン操縦して上空から地上の景色を撮影できるぞ。自分の家の敷地内か誰もいない山の中ならOKだぞ。あと撮影したものを配信するにはアプリを使ってスマホと連動できるようにしてやるから、ちょっと貸せ」
なんだかよく分からないうちに動画配信用ドローンの中古品を押し付けられた。
いちおう平野はカースト上位の人間だから感謝だけはしておく。
「ああ、サンキュー。それで録画したものは勝手に配信されないだろうな?」
「ああ、録画したものは貯めておくことができる。
けれど『配信』というキーワードで、貯めていた分が一気に配信されるから、気を付けろよ」
平野は自分の動画配信の場所を教えてくれた。今の所フォローワーが8000人だというから驚きだ。このアクセス数による広告料だけでおやつ代くらいにはなるそうだ。
さっそく僕は自分のアパートに戻った。
両親は海外での仕事で、僕だけがアパートを借りて生活している。
そしてリビングのサッシを開けるとベランダに出る。
ベランダに出ると、大型扇風機が下向きに送風していた。
その送風先にコンクリ―の床に四角い穴が空いていて1mくらいの深さに床が見える。
これは絶対おかしい現象なのだ。
何故ならベランダの下は階下のベランダの天井になる筈で、1mも下に床があるというのは現実空間ではありえないことだからだ。
だが実際にこの不思議な空間は存在する。
何故なら、これはダンジョン空間だからだ。
時は3か月前に遡る。
朝方、寝ているぼくは地震の揺れを感じて跳び起きた。
揺れはすぐに収まったが、ベランダに出ると端っこの方に大きな四角い穴が開いていた。
「なんだこれは?」
思わず声に出してしまうほど、僕は驚いた。
中を覗くと1m下に石の床があって、そこまで飛び降りると更に下に続く階段があった。
ここは3階なので、当然2階の部屋や1階の部屋がブチ抜きで潰されているかと思って後で確かめたが、階下の部屋には異常がなかった。
つまりこの僕の部屋のベランダに空いた地下通路?は現実空間とは全く別の異次元の空間に繋がっているということになるのだ。
これはどう考えてもダンジョンだろう。
だがこんな、人の住むアパートにダンジョンができたという話は聞いたことがない。
しかもベランダの床に入り口ができて、階下の部屋に全く影響がないという変則的なダンジョンは世界初かもしれない。
もちろんアパートの外から見ても、二階のベランダの天井部分にも異常はない。すぐ上に穴が空いて下に下りる階段ができているというのにだ。
僕は階段を降り切ったところ、つまり1階層に出たのだが、石でできた壁や床がずーっと続いているのがわかった。
そしてどこからともなくネズミが集まって来た。
だがよく見るとそのネズミは中型犬くらいの大きさで、歯の鋭さが半端ない。
目が真っ赤で、声がガラスをヤスリで擦ったような耳障りな音を立てる。
ギギィキキキィーー
聞いていると歯が浮く。
そして階段まで戻ると、階段には登って来れないらしく、階段下の床で集まって威嚇するのだ。
もし階段に戻るのが僅かでも遅れたら僕は全身を齧られて血だるまになっていたと思う。
そして僕が階段の踊り場まで戻ると、たちまち赤目ネズミはいなくなってしまうのだ。
それで僕は色々と検証してみた結果、以下のことが分かった。
ダンジョンの入り口に入る時、エアカーテンを通るような感触がある。
そしてダンジョンの中から外へは風は送れず音も漏れない。
だが外から中へは風を送ることができる。
そこで僕は素晴らしいことを思いついた。
ダンジョンの利用法だ。
1階層に降りてあのどう猛なモンスターの餌食にはなる積りはないが、素晴らしい利用法があるのだ。
つまり踊り場の利用だ。
以前アパートに来て間もない頃、ベランダでバーベキューをしたことがあったが、アパート住民たちが大勢来てクレイムを入れて来たことがあった。
「ベランダでバーベキューをすれば洗濯ものに煙や匂いがつくのでやめてください」
「キャンプ気分で歌を歌うのもやめて下さい。赤ん坊が目を覚まします」
だけどダンジョンの中でならどうだ?
ダンジョンの中の空気は外に漏れないので煙も匂いも僕の歌声も外には聞こえない。
つまり僕は自分の家の中に全く近所迷惑にならない秘密基地ができたようなものだ。
この中ではバーベキューもサンマも焼けるし、大声で叫んだり歌ったりしても平気なのだ。
おまけに炭火を使った後の灰は1階層の床に捨てれば自然にダンジョンの床に消えて行く。
そしてダンジョンの外から大型扇風機で送風すると煙は1階層の方に流れて行く。
そうしないとダンジョンの中は無風なので踊り場に煙が充満するからだ。
匂いにつられて赤目ネズミが寄って来るが階段を登ってはこれない。
焦げた肉とか野菜くずを1階層の方に放り投げると、赤目ネズミがきれいに食べてくれるのだ。
僕は自炊しているので、生ごみや傷んだ食物は1階層に捨てるようにした。
そのほか燃えるゴミや燃えないゴミ、しまいには粗大ごみなども一階層に捨てることにした。
食べられるもの……生ごみなどは赤目ネズミが食べてくれるし、それ以外はダンジョンの床が吸収してくれる。
それからクリスマスツリーを飾る豆電球やイルミネーションなども踊り場に運んだ。
LEDの照明も含めて延長コードでダンジョンの中に引き入れて拠点の踊り場を明るくした。
そして延長コードを使ってテレビも踊り場で見られるようにした。
ダンジョンの中には電波は届かないけれど、アンテナ線や電気コードを外側から引き込めばテレビ放送も視聴できるという訳だ。
パソコンも無線ランは無理だが、有線式にすればできる。
そうやって、僕は一か月くらい快適に過ごして来たが、なにげにダンジョン専門家の平野に質問したことがある。
「なあ、ダンジョンが自分の家の敷地に出来た場合どうなるんだ?」
「徳成、お前はアパート住まいだからありえないけど、そういう場合は即サービスセンターを通して国に報告しなきゃならないことになってるんだ。報告が遅れれば処罰の対象になる。それと報告した後はそこは国の管理になるから、住んでるところは引き払って貰うことになる。立ち退き料は法で決まってるから、極めて安い。まあ、強制立ち退きってことだ」
それを聞いて僕はよほど報告しようかと思ったけれど、すでに1か月もすぎていたこと。
そして報告すれば僕だけじゃなくアパートの住民全員が立ち退かなければならなくなる。
その為僕は黙っていることにした。
そしてもう少しでベランダ・ダンジョンができてから3か月になろうとしたとき、平野がどこかの国のスタンピードのことを友達に話しているのを聞いた。
「ねえ、平野。スタンピードってどうして起きるんだ?」
「ダンジョンが出来ているのに、中のモンスターを駆除しないで放っておくと起きるんだ。そのダンジョンはできたことを誰も知らなかったから、スタンピードになったんだな」
これを聞いて僕は驚いた。
あの赤目ネズミを一匹も駆除していない。できてからそろそろ3か月が経つ。なんとかしなくては。
僕が寝ているうちにスタンピードが起きたら、赤目ネズミに喉を食いちぎられるかも。
まずダンジョンの中でモンスターがどれだけ増えてるか調べる方法はないだろうか?
そうだ。平野に聞けば……
「平野、ダンジョンの中を自分で潜らずに調べる方法ってあるのか?」
「操縦型撮影ドローンが良いだろ。ダンジョンの中の階段とか安全地帯から操縦すればダンジョン内をかんさつできるんじゃねえ?」
そのことを平野が覚えていて、自分のおさがりのドローンを僕にくれたのだった。
僕は階段の踊り場から1階層の中をドローンで観察することを始めた。
はじめざっと回りながらカレンダーの裏の紙にペンで地図を描いて行った。
平野がいつも口にしている、マッピングという奴だ。
「マッピングをしないでダンジョンに入るってことは知らない街で迷子になってしまうのと同じだ。道を教えてくれる親切な人もいない。周りは敵のモンスターだらけだからな」
平野はよく自分のとりまきに武勇伝を語っている。
「ダンジョンにはメインストリートと言って、特別に広い道があるんだ。だけどその先に次の階層への出口があることはまずない。木にたとえると幹と枝の関係だな。出口は枝の先にあるんだ。だからすべての枝の道を探さなければ駄目だってことよ」
1階層の全てをマッピングするのに1週間ほどかかった。
宝箱みたいなものが置いてある部屋とかもあったが、ドローンなのでなにもできない。
それと赤目ネズミはジャンプ力があるので、高めに飛んでいないと跳びかかられる危険もある。
壁の近くも危ない。あの体で壁を登ることもできるのだから。
ときどき壁に穴があいているところがある。
そういうところの近くの床には他のとは違う感じの石畳があって、たぶんそれを踏むと壁の穴から矢か槍が飛び出すのではないかと思う。
落とし穴らしいのも発見した。
ダンジョンの中は薄暗いので、ドローンの明かりで見ないとわからないが、かすかに石畳の様子が変になってるからわかるのだ。
横一列に並んだ石畳のどれかを踏んで前に進むと時間差で、その先の床が落ちる仕掛けだ。
そういうときは両端の方を通らなくてはいけない。
そこで僕は一通りマッピングが済んだ時に配信をしようと思った。
声バレしたら困るので、裏声を使って女の子っぽく喋ることにした。
チャンネル名は『ベラチャンネル』にした。
ベランダにあるダンジョンだからという安易なネーミングだ。
「こんにちわぁ、べらちゃんでぇす。今日はプライベートダンジョンの紹介です。入り口は見せられません。どこのダンジョンかすぐわかっちゃたらつまんないからでぇす。1階層の最初からご紹介します。
あっ、べらちゃんは戦闘力ないので、安全地帯からドローンを操縦してまぁす」
こんな調子でダンジョン配信デビューをした。
変なコメントを入れて来る奴は、即そのアカウントを拒否った。
******
(コメント欄)
A:おい、ここどこのダンジョンだ? 一階層で赤目ネズミって、どこのダンジョンよ?
B:一階層なのに他の探索者がひとりもいないって、どこかの山奥なのか?
C:配信者が姿を見せないで声だけってのも珍しい。
D:スタッフがいなくて自分だけで、しかも旧式のリモコン操縦式ドローンを使ってるからか?
E:いやいや、戦闘力ないから。敢えてこの形にしたんじゃね?
F:もしかして国内ならどこかの離島とか?
G:言いたくないけど、これ絶対2階層は無理だと思うよ。リモコンの電波は階層が違うと届かないって聞いたことがある。本人は一階層の入り口の手前の階段から配信してんだろうから、その先は進めないだろうし。
H:それを言っちゃあ、おしめえよぅ。
*******
GとHのコメ見て、なるほどと思った。
それで実際に試してみることにした。
「えーと、まだ1階層の案内は始まったばかりなんですが、Gさんのコメで言ってるように2階層まで電波が届かないのかどうか確かめてみたいと思います。えーとちょっと大急ぎで2階層への階段のとこに行きますね」
画面が猛スピードで動いて2階層への階段まで来た。
「さあ、こっから階段を降りて行きますよ。何がいるのか分かんないのであまり降りたくないんですが、降りますよ」
降りながらベラちゃんは話し続けます。
「聞こえますよね」
と言いながら2階層へ最初の一歩。
「2階層に到達しました。ほれ、この通りドローンは動いていますよ。あっ、ではそろそろ戻らーー」
そのとき猛スピードで何かが飛んで来た。
慌てて階段まで戻ると、それは階段前で止まった。
カラスくらいの大きさのコウモリだ。足が三本ある。
八咫烏じゃなくて八咫蝙蝠?だ。
僕は急いで1階層の出発点に猛スピードで戻った。
コメント欄がまたざわついた。
*******
A:一階層が赤目ネズミで2階層が八咫蝙蝠のダンジョン? きいたことがないぞ。
B:それよりこの子、くそ度胸あるな。もしかしてドローンが落ちて戻らなくなるかもしれないのに。勝負に出たぞ。
G:おかしいな。でももっと奥に行けばどうなるかわからないぞ。
H:おま、まだそんなこと言ってるのか? どっちにしろこういうやり方をやる奴なんてほかにいないから、実際はどうなのかやってみなきゃわかんないってことだ。
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勝負に出てよかったみたいだ。1階層だけの配信だって思われたらもう誰も見なくなるから。
それにミステリーな謎のダンジョンってことで、通の人にも興味をひいたかも。
そしていよいよ一階層のコース案内をしようとメインストリートを半ばまで来たところで画面が揺れた。
「えっ、なにが起きたの?」
*******
C:電池切れだよ、きっと。何故事前に充電状態をチェックしてなかったんだ。
D:さっきは助かったけど、これはもう駄目だな。
E:おいおいどういう訳か赤目ネズミが一匹走ってくるぞ。餌と間違えてんじゃないのか?
F:ドローンなんて食べられる訳ないだろう。
E:だけど動くもので弱ってるものなら、狩猟動物は襲い掛かるもんだって、言うし。
A:と思ったらもう床に落ちてんじゃないか?
B:あっ、もう一匹来た。
C:最初のが後から来たのに噛みついたぞ。
D:あっ、急所を噛んだらしくて消えたぞ。魔石を一個残して。
E:魔石が転がってドローンの方に行った。あれれ、ドローンが魔石を吸収してしまったぞ。
F:そんな馬鹿な。魔石の魔力でドローンが復活してるじゃね? 飛んで逃げたぞ。
H:なにがどうなってんだ?
G:このドローン普通のドローンじゃないぞ、絶対。
*******
このとき実は僕の頭の中で声がした。
『赤目ネズミの討伐でレベルアップしました。動力源を電力から魔力に切り替えます」
いやいやいや、討伐したのはドローンじゃないから。仲間割れで片方が死んだだけだから。でも同じダンジョンのモンスター同士だから争うと思わなくてドローンがやったものとして誤認識されたのか?
「えーとそれでは今日のご案内はここまでにするよ。今度こそ、1階層の中を丁寧に紹介するね。じゃあ、また」
僕は急いで配信を終えた。
******
A:結局なんだったんだ?
B:ドローンの型が見れないからなんともいえないけど、電池が切れたことを予想して予備電池を持っているタイプもあった筈だ。その切り替えが自動的にされるわずかな時間ドローンは動かないこともあるらしい。
C:きっとそれかも。
G:いやいや確かに魔石を吸収したのを見たぞ。
D:ダンジョンの床が吸収したのを見間違えたんでは?
G:そんなに早く吸収する訳ないだろっ!
H:まあまあまあ。どうでもよくない、そんなこと? ダンジョンにも個性があるんだからさ。
********
僕は平野にまた質問をした。
「モンスターを討伐したら経験値が討伐者に入るんだよね? もしさ、モンスター同士が同士討ちみたいになって片方が死んだ場合経験値はもう一匹のモンスターに入るの?それともそばにいた探索者に入るの?」
「ダンジョンとしてはモンスターには経験値を入れないようになってる筈だ。そうしなきゃ、勝手に共食いをして自分だけ進化して行くふてほどモンスターが蔓延するからな。そういう場合は単なる事故だから経験値はどこにも入らない筈だが、できたてのダンジョンの場合なら誤作動で探索者に経験値をいれるかもしれないな」
「じゃあ、話は変わるけど探索者が、体の中に機械を組み込んだサイボーグの場合、経験値を手に入れてランクアップすると、機械部分も変化するのかな?」
「なんだ,徳成お前ファンタジー小説でも書いているのか? だが確かにそういう例はあるぞ。片腕をモンスターに食いちぎられたアメリカの探索者が義手をつけたまま、ランクアップしたら、その義手もレベルアップしたらしい。だから機械部分が変化するというのはあるみたいだぞ」
なるほど、ダンジョンってのは不思議世界の産物なんだな。
2回目の配信は前もって計画を練っておいた。
なにしろ戦闘場面がないとフォロワーが満足しないというのがあるから、疑似的な戦闘場面を見せなくてはと苦心したのだ。
「さあ、この壁をよく見て下さい。穴が空いているでしょう? 人間が立って歩いてきた場合、この高さは胸や腹の高さですよね。そしてここに横一列に並んだ石畳は他のと比べてちょっと浮いてますよね? ここを踏むとどうなるか。今ベラちゃんのドローンはこの踏み石の上に浮かんでます。そこへ赤目ネズミがこっちに向かって飛び掛かーー」
私のドローンは慌てて横に避けた。
そして赤目ネズミは踏み石に飛びついたために……
プシュッ プシュッ プシュッ
穴から矢が飛び出して、もし人間がいたらハリネズミになっていたろうと、何本もの矢が飛び出したのだ。
ドローンも赤目ネズミも高さがなかったから無事だった。
もっともその後ドローンは赤目ネズミから急いで離れて逃げたけれど。
それだけではインパクトが足りないので、あまり気が進まなかったけれど、空き部屋の宝箱に直行した。
予めドローンには針金のフックを吊り下げていて、強く引っ張ると針金がドローンから外れるようにしておいた。
「さあ、この……いかにもなんかありそうな宝箱です。中にあるのは貴重なアーティファクトかそれとも危険な罠か、はたまたミーミックかそれともーー」
そう言いながら箱の蓋をフックで引っかけて蓋を開けた。
中には何も入ってなかったが、その代わり大きな警告音が鳴り響いて、壁に沢山の穴が空いてそこから赤目ネズミがゾロゾロ湧き出て来た!
「モンスタールームでした!」
それからの図は思い出したくないほどのものだった。
赤目ネズミは壁を登れる。少なくても単身では壁の半ばまで勢いをつけて登れるのだ。
だが群れになると壁の一番上まで平気で登れる。
つまり仲間の体を踏み台にして幾らでも天井の高さに届くのだ。
僕のドローンは天井すれすれに逃げ回るけれど、赤目ネズミの山の頂はそれを追ってどこまでも追いかけて来る。
まるで竜巻か何かのように群れが一つの生き物のように動く。
宝箱を開けた時点で部屋のドアは閉まり、密室状態なのでどこにも逃げられない。
このまま永遠に逃げ回ることは無理で、いつか魔力が尽きたらこのドローンも動かなくなって、赤目ネズミに壊されるだろう。
そこで最後の抵抗を試みた。天井すれすれに逃げていた時に急降下して床すれすれにUターンしてまた上昇するを繰り返した。
するとどうなるか?
部屋の天井の高さは5mもあり、そこからドローンを追いかけて下に向かって急降下すれば、床に激突することになる。
頭を下にして落ちるので、首の骨を折るか頭蓋骨を割るかの二択の運命が待っているのだ。
てっぺんが入れ替わって追いかけて来ても急降下作戦で次々に床に激突して死ぬ。
赤目ネズミが白目ネズミになって急降下落下の後に昇天することになった。
電池から魔石を動力源に切り替えてから、ドローンの動きに切れが出て来た。
そんな感じがする。
そして僕の頭には次の言葉が鳴り響く。
『レベルアップしました。
…………
レベルアップしました』
ときどきドローンがUターンに失敗してボコボコになっても。レベルアップで綺麗に修復する。
それどころか落ちている魔石を吸収して、進化して行くようだ。
『亜空間収納のスキルを習得しました』
『赤目ネズミでも噛み切れない頑丈なボディになりました』
『プロペラ部分を回転する鋼鉄の刃にして、攻撃能力を持たせました』
『移動速度を高める為、四方向ジェットターボ噴出口を付けました。急発進、急ブレーキが可能になります』
『処理許容魔力量がアップしましたので、ジェット噴射口からの火炎攻撃、フレイムアローが可能になりました』
それからコメントが嵐のように押し寄せたが、そんなのを読む暇もなく、僕はドローンに押し寄せる赤目ネズミの大群を虐殺させた。
最初は急降下急上昇によって墜落激突死をさせていたが、そのうち落ちてる魔石は収納しつつ、ドローンのプロペラを回転する鋼鉄の刃にして赤目ネズミどもを細断して行った。
当然真っ赤な血がほとばしり、何度もドローンのカメラレンズは返り血で汚れたが、死体が消えると血も消えるので、すぐに視界を取り戻して、虐殺劇を映し続けた。
だんだん面倒になって来ると、ファイヤーアローを吹き付けてまとめて何体も焼死させた。
幸いなのは、終わったと死骸の山も血の池もなく、すべて魔石やドロップ品以外は落ちていなかったことだ。
それらを全て収納してから、できるだけ可愛い声でベラちゃんはしめくくった。
「はーい、以上でぇす。戦いの最中は解説できずにすみません。皆さん方のコメントにも反応する余裕がなくてごめんなさい。ではまたお会いしましょう、このベラちゃんねるで!」
********
〇:い、いまのは何だったんんだ?
△:ドローンの動きではないだろう。
▽:赤目ネズミが一瞬ミンチになったような気がしたが。
◇:それよりあれはファイヤーアローじゃなかったか? ドローンが放ったのか? できるのか、そんなこと?」
□:というより、猛スピードで突っ込んで空中で急に止まるなんて、どういうことだ?急に方向が直角に変わったり……
◎:地球上の乗り物の動きではないだろう? よほど性能の良いドローンなのか? UFO並みの動きだろう。
☆:最初からそうでなかった。ということは赤目ネズミを殺しながら経験値で進化して行ったのか?
〇:ドローンが進化して戦闘力を持つとか聞いたことがないぞ。
▽:今知ったから、もう聞いたことがないとは言えんな。
*****************
その後、僕は暫く配信を休んでいた。
とは言え録画はずっと続けていたのだ。
相変わらず僕は1階層の手前の階段の踊り場からリモコンでドローンを操縦していた。
けれども1階層の津々浦々迄案内する動画を撮ってしまったので、今度は2階層に行くことにした。
2階層はスリーポッドバット……つまり八咫蝙蝠だ。
けれども超音波で動くこのモンスターも僕のドローンの比ではなかった。
姿をとらえた直後、蝙蝠は燃やしたり、切り刻んでいたので、戦うまでには至らなかった。
一方的な虐殺・駆除だ。
三階層はようやく人型魔物のゴブリンが登場した。
「はーい、みなさん。ベラチャンネルのベラちゃんでぇす。ここで重大発表があります。まずドローンの名前を決めました。プロペラがついているので、プロペラのプロをとってペラちゃんにしました。そして今のが一つ目なんですが、二つ目の発表は凄く重大なんです。それはーー」
「コンニチワ、ボクワペラダヨ」
************
〇:おい、これってドローンの声か?
▽:ドローンって喋るのか?
***********
「えーと、実はまたレベルアップして、AIの機能と音声機能がついたのです。もうあたしの解説いらなくない?ってかんじでぇす」
そうなんです。いつの間にかペラちゃんこと、このドローンは言葉をしゃべるようになったんです。
ええと、フォローワーはベラちゃんもペラちゃんも姿が映らない関係か、まだ1万人未満です。
もの好きな人たちの間では結構もてはやされていますが、物凄くマイナーです。
平野は1万人を越しました。彼も僕もニューチューバ―ですが、僕がやってることは平野は知りません。
できればこのまま1万人未満のままでいて欲しいです。
メジャーになると、このダンジョンは未登録のダンジョンだとばれてしまい、罰則の対象になるからです。
「ダンジョン情報? それぞれの管理室で有料で売っているぞ。もっともSMSとかで闇の情報のやり取りはあるけどな。違法だよ。国のダンジョン登録にはダンジョン情報も報告されているけどな、国内のものが主だから、どこのダンジョンの何階層のモンスターが何かってのはいちいち把握してないと思うぞ。そんなに暇じゃないからな」
平野情報では、まだベランダダンジョンが未登録のものだとばれる心配はなさそうだ。
相変わらず僕はダンジョンには興味関心があるが、少しも実際には関わってないスタンスを保っている。
ふりだけど。
また、平野から貰ったドローンはときどき山野の景色を撮ったりして遊んでいることにしている。
「はーい、ベラちゃんねるのベラちゃんだよぉ。この間はおどろいたねぇ。いきなりゴブリンメージってのが出て来てファイヤボールをぶちかましたんだものねぇ。でもペラちゃんのファイヤアローの方が数倍も威力があって、相殺というより完全に打ち勝ってメージを燃やしちゃったよね。メージは遠くなりにけりだよ。さて、次は4階層だけど、ゴブリンが束になってやって来そうだね。事前調査では上位種もいるみたいだよ」
この4階層だけれども、ホブゴブリンというのがいてこれが大人の男並みの身長で、さらにゴブリンジェネラルとかいうのが、さらに一回り大きい。
ジェネラル級になると長い剣を持っていて、それを振り回すと結構天井近くに届くから、ペラちゃんも下手するとヒット&クラッシュになってしまうかもしれない。
「さあ、またジェネラルが出て来ました。さっきのようにファイヤーアローで焼きオークにしても良いのですが、ここは違うパターンで行きましょう。つまりスリル&サスペンスです」
本当はこういうことをしたくないけれど、同じ手を何度も使うと見てる方もだれてしまう。
だから敢えてクラッシュアウトのリスクをかけて、接近戦にチャレンジするのだ。
「ええと、もしかして一万人に迫るフォローワーの皆様に予めお詫びしておきます。もし今回の無謀な試みの結果ペラちゃんが死んでしまったなら、それは申し訳ありません。たぶんベラちゃんねるはこれで終了するでしょう。でも、時にはやらねばならないこともあるのです。それが今なんです。もし失敗したなら先立つ不孝をお許しください。では皆様、皆さまのご健勝とご多幸をお祈りしております。行って参ります」
**********
J:おいおいあいつ死ぬ気か? 自殺願望ってやつじゃないだろうな。
K:死を賭して勝負に賭ける心意気か。女にしておくのは勿体ないぞ。
L:散りぬべきとき知りてこそ世の中は花は花なり人は人なりってか。
M:行け、武士よ。俺が骨を拾ってやる。
**********
ゴブリンジェネラル、略してゴブジェの剣は素早く空気を斬る時ヒュンヒュンと風切り音がする。
その間を縫うようにプロペラとジェット噴射を組み合わせてペラちゃんは接近戦に持ち込む。
しかしジェネラルもフットワークを生かして、なかなか懐に入れない。
間合いの外ギリギリになるように離れては斬撃を飛ばす。
急降下してゴブジェの脛を少し切ってやる。
いっそフレイムアローで一発OKなんだが、それは避けたい。
けれども素早く動いても、ギリ危ない。
わずか1mmの差で剣が通り過ぎていく。
「ヤバイ、ハナレル」
「逃ゲンな!羽虫」
「ニゲテナイ。センリャクテキテッタイダ」
ペラを追って一歩踏み出し罠を踏んだことに気づかないゴブジェ。
そのまま2・3歩進んだ時に両方の壁から矢が飛び出る。
「がガガが、ぐああああ」
胴体に何本も矢を食らって思わず剣を落とすゴブジェ。
その剣をちゃっかり収納するペラ。
本当はそれは本体と一緒に消える筈のものなんだが。
そしていまさらながら鋼鉄の回転刃でゴブジェの首をスパッと切って行くペラ。
首は落ちないけど、吹きだす血。
そしてゴブジェの姿は消えて行く。
*********
N:なんだなんだ、あざといな。自分を夢中に追わせながら、罠を踏ませるとは。
O:っていうか、さっきみたいにファイヤーアローで燃やせば一発じゃなかったのか?
P:演出だったんだ。せこい、せこいぞ、ベラちゃんねる。
********
何とでも言え、これも夕食のおかずの為……ってそんなに困ってないけどな。
あんまりアクセス数が増えるのもやばいけど、離れて行かれるのはさびしい。この矛盾した気持ち。わかりづらいだろうなぁぁ。
********
Q:問題はあのゴブリンジェネラルの剣だ。ペラちゃんが吸い込んでいたけど、あれ違反じゃね?
って、ダンジョンに法律があればの話だけど。
R:きっとあれだよ。よく言うだろ。とったもん勝ちってさ。
Q:ベラちゃんねるって無法地帯なんだなぁ。
*********
僕は自宅でゴブジェの剣を手に取って見た。
これってモンスターと一緒に消えるから、きっとダンジョンの方で再利用するために吸い込んでしまう予定だったものを素早く横取りしたんだよな。
佐々木小次郎の物干しざおの長さが94cmと言うけど、この剣の長さは1m29cmだ。
はっきり言って長すぎる。博物館行きだな。
こういうものはペラちゃんの亜空間収納にしまっておくに限る。
誰かに見つかったら入手経路で説明求められても困るし。
ところでペラちゃんの形状だが、最初はリンゴくらいの大きさだったのが、今はドッヂボールくらいの大きさになっている。
しかもプロペラが鋼鉄の刃で触ったら指が切れそうだ。
その他にジェット噴出孔が四方向にある。
その他に上下に四個ずつ噴出孔があるので、複雑な飛行ができるのだろう。
勿論操縦機の方も変化してるが、ほぼAIで自動計算で動くので、動きたいイメージを送れば、その通り動いてくれる。
既にペラちゃんとは従魔契約を結んでいるので、意識はツーカーで繋がってる感じだ。
さて、ペラちゃんの亜空間収納にゴブジェの大剣をしまっておいたのは良かったが、それがとんでもない結果になった。
朝起きたら枕元に置いておいたペラちゃんがいなくなっていた。
僕は胸騒ぎがしてダンジョンの踊り場に行った。
そこから操縦機を使ってモニターを覗いた。
なにやら映像がおかしい。
まるで人間が大剣を持って振り回しているみたいだ。
ドローンの動きではない。
なにがあった? ドローンのペラちゃんはどこへ行った?
「ヨウシ、コレデ4カイソウノマッピングワオワッタ」
えっ、4階層のマッピングが終わったって?
僕抜きで?
「アッ、アルジノベラチャンキタノ?」
来たの?じゃなくて、何やってんの?
「アルジガヤスンデルアイダデモスコシデモサキニススンデオコウトオモッテ」
「でも、僕がいなきゃ配信できないじゃん」
「アトヅケデ、コエヲイレレバイイ」
「今、ペラちゃんの体はどうなってるの?」
「ダイケンヲツカエルカラダニシタ」
すると僕の頭にペラちゃんの姿のイメージが流れて来た。
体が緑色のゴブリンの少女?だ。
ゴブリンにしては結構可愛い。
いやいや、顔も緑色だけど長い髪が生えていて、結構美少女だ。
「どうしたの?それ」
「ジツワ……」
ペラちゃんの話によると、亜空間収納に入れてある大量の魔石を使ってベラちゃんをイメージした肉体を作ることにしたのだと言う。
けれど材料がゴブリンしかいないから、殺したゴブリンを消える前に収納して、それを材料に新しい肉体を再構成したのだとか。
でもこれだと体が緑色で人間らしくないから5階層のレイドボスを倒して、さらに精度の良い肉体を構成するのだとか。
もう何かよく分からないけど、ペラちゃんが美少女になるのなら、反対する理由はないので勝手にやってくれと言った。
そして学校から帰ってみると、見知らぬ美少女が僕の部屋で待っていた。
金髪にして碧眼、けれどもアジア人と欧米人の中間のような彫りの深い顔で童顔。
胸は大きすぎず小さすぎず、ウエストは細く、全体的に締まった体だ。身長は160cmはあるだろうか。
僕より少しだけ小さい。
これって僕が頭の中で理想としていた美少女そのものでは?
「そうだよ。あるじがあたまのなかでえがいていたりそうてきなすがただよ」
少し片言ながら綺麗な発音でペラちゃんは話しかけた。
「5階層の……ボスのオークキングを倒して得た経験値でこの体を創った……どう? ベラちゃんに見える?」
「えっ、ベラちゃん?」
ペラちゃん曰く、いつまでもベラちゃんねるで配信者の姿を見せないのは、フォローワーが離れて行く原因になるというのだ。
だからこれからはペラちゃんがこの体でベラちゃんを演じる。
つまり僕のアバターとして動いて配信するというのだ。
僕は喜んだ。
この世に存在しないベラちゃんが姿を現し配信すれば、人気上昇間違いなしだって。
しかもペラちゃんはペラ改めベラちゃんとして配信するにあたり、新しくドローンの子供を生んで自動撮影させるのだという。
「おお、それじゃあ平野が使ってるのと同じタイプになるな」
「たぶんそれよりも性能が良いと思う。1カメ、2カメ、3カメとか近接映像、広角映像、俯瞰映像、仰角映像などをフルに使って、プロのスポーツアナウンサーにも負けない実況中継をしてみせるよ。あるじはただ心の中で配信の方向性を考えるだけで良い」
待てよ、それだとアクセス数が増えて、国のダンジョン監理局に目をつけられないだろうか?
「あるじのアカウントを海外サーバーを通して国外のものに見せるしかけをした。それともうベラちゃんの声でこのダンジョンは海外の私有地の無人島にできたダンジョンなので、その国の法律ではプライベート・ダンジョンとして認められていることを説明している。つまり日本の国の法律に縛られないし、奪われないことになる」
「でもペラ……いや、ベラちゃんはこの家から外に出られないことになるよね。人に見られたらやはり日本にいることがばれてしまうから」
「大丈夫。私は妹のふりをする」
「えっ?」
すると、一瞬でベラは髪の毛も瞳も黒くなって、日本人の美少女になった。心持ち僕の顔に寄せている。
ただ着ている服はベラの衣装で自分で作ったらしい派手なものだが。
僕は自分のジャージをベラに着せて、さっそく彼女の服を買いに行った。
ベラは僕との釣り合いがとれるように、大人しめの服を買ったが、それでもセンスが良いので驚いた。
何故ドローンの身で、そんな感覚を付けたのかと言うと、AI機能があって、ネットのAIとも繋がっているので、様々な情報が頭に入ってるのだそうだ。
少しお金を使ったので懐が淋しくなったと思ってると、ベラは僕の手を引いてどんどん歩き出した。
着いたところは『ダンジョン素材換金所』というところだ。
窓口の女性がベラに向かって言った。
「探索者証明書を出してください」
するとベラはどこから出したのか探索者証明書を出した。
平野が持っていたのを見せて貰ったことがあるが、複製が難しい日本銀行券並みの精巧な印刷技術で作られている。
「探索者番号21904番徳成綺羅さんですね。素材を出してください」
するとベラは魔石をゴロゴロと大量に出した。
ほかにもドロップ品と見られる宝石類や鉱石類も。
判定に時間がかかるらしく待っていると、受付の女性が戻って来た。
「全部で132万6千450円になります。手数料は規定通り差し引いています」
「ありがとう」
ダンジョン素材交換所って、ダンジョンの傍にあるのかと思ったので、驚いた。
「それとは別にサービスセンターの近くに換金所というのがあるのが普通だよ」
それで、いつ探索者の資格を取ったのかと聞いたら、
「ちょっとネットでハッキングして、資格試験に通ったことにした後、探索者証明書を偽造したの。でも記録ではきちんと発行したことになってるから問題ないよ」
僕はあっけにとられた。本物そっくりの証明書を作るなんて、偽札でも作れるのではと。
「あっ、偽札は作れないよ。ダンジョン管理局と違ってガードが固いから」
技術レベルは同じでも、わざわざ探索者証明書を偽造するメリットが殆どないのでガードが緩いのだそうだ。
「ダンジョン素材を換金するだけだから、悪用はしないし。でも徳成綺羅という人物は存在しないので偽造するしかないの。あと、住民票も少し弄っておいたよ」
なんでも高校2年の僕とは年子の彼女は某ミッション系女子高校の1年生に在籍していることになってるそうだ。
「えーと、ニューチューブの配信ではベラちゃんという国籍不明の人物で、現実世界では徳成綺羅という僕の妹ということになってるんだけど。いったい君の体はどうなってるんだ? 元のドローンはどうなったの?」
「全部体の中に内蔵されているよ。消化器官や呼吸器官などは必要ないからその代わりにメカが入っている。人造筋肉や骨格は普通人より強力な素材が入ってるから、大抵の人間には勝てると思う」
はあああ、すごーーい。
その後、僕はアパートの部屋でベラが5階層をクリアした様子を一本の動画で見せて貰った。
その中でベラが自分で喋って自分の姿を映してモンスターを討伐しているところを配信していた。
モンスターはオークで、レイドボスはオークジェネラルでオークやゴブリンの上位種が守っていたが、ベラの大剣で一閃、あっという間に討伐されてしまった。
「この調子で少しペースをあげて討伐して行きたいと思います」
「どうしてそんなに急ぐの?」
「最下層にいるラスボスが弱っているのです。私がそこに到達する前に死ぬかもしれません。だからダンジョンがなくなる前に少しでも経験値や素材を集めたいのです」
「どうして最下層のラスボスが弱っているんだ?」
「バーベキューのせいです。炭火による二酸化炭素がどんどん下へ下へと下がって行き、最下層は二酸化炭素のたまり場になってしまったらしいのです。
普通のダンジョンではそんなことはないのですが、このダンジョンは換気が悪いらしく」
なるほど、結構長い期間炭火による自分だけのパーティを連日やっていたからな。
二酸化炭素は空気より重いから最下層に向かって下がって行ったのだろう。
中には一酸化炭素も含んでいたろうから、ますます体に毒だったんだろうな。
ベラに聞くと最下層は50階層だという。
それからベラは配信をしながら一日一階層の高速ペースで踏破して行ったが、半月後30階層まで行ったとき、ダンジョンは崩壊した。
崩壊と言っても、ベランダの床は以前の通りに戻っていて、階段踊り場に置いてあった炭火セットやテレビなどはそのままなくなっていた。
そのときにダンジョンが生成したときと同じ規模の地震があったが、そこに反応した国の動きがあった。
「すみません。私はダンジョン省の一等監視官で如月弥生という者ですが、お宅の場所にダンジョン生成時と同じ地震反応があったので、調べさせて頂けませんか?」
なるほど、生成したときの地震は見逃して、消滅したときの地震に反応した訳か。
危ない危ない、これが生成したときだったらベランダのダンジョンはバレていたに違いない。
その監視官の女性は5・6人のスーツを着た男性たちに僕の部屋の捜索をさせていた。
もとより何も見つかる訳がない。
「えーと、君たちは二人だけでここに住んでいるのですか?」
「はい、僕と妹の二人だけです。両親は海外ですので」
男たちが家宅捜索している間に如月女史は僕たちにいくつか質問していた。
「えーと、確か徳成綺羅さんは以前ダンジョン素材をここの換金所で売ってますね。それはどこのダンジョンで?」
綺羅はここから一番近いダンジョンの名前を言った。
「そうですか。確か綺羅さんは探索者の資格をもっていますものね。確かにそのダンジョンに出入りして通った記録が残っています。けれどもここの換金所に持ち込んだ魔石は赤目ネズミと八咫蝙蝠の魔石も入っていたとか。ゴブリンやオークの魔石は例のダンジョンからも採れますが赤目ネズミと八咫蝙蝠の魔石はどこから?」
僕はそれを聞いて心臓が縮む思いだったが、綺羅はケロッとして言った。
「ああそれは魔石愛好会のオフ会で交換したものです。相手の方は何度も交換した後の出品だったのでどこのダンジョン産のものかは確かめようがありませんでしたが」
「どうしてそうやって手に入れたものを換金してしまったのですか?」
「最初は珍しいと思いましたが、魔石そのものの内包魔力は少ないし、大したことないなと思って換金しました」
綺羅の話には論理的な矛盾がなかったらしく、如月さんはそれ以上追及しなかった。
その後如月さんは家宅捜索の迷惑料として商品券5000円分を置いて行った。
ダンジョンが消失していてよかったと思った。
綺羅はそれから直近のダンジョンに通いながら配信を続けている。
ときどき僕は学校の試験が近くなると綺羅に勉強を教えて貰う。
そしてこれは本当はいけない事なんだが、従魔の綺羅とは意識が繋がっている為、試験中でも分からない事は念話を通じて教えて貰うことがある。
しょっちゅうではない。
赤点になると追試験を受けなければいけないから、危ない教科だけ合格点になるように助けて貰っているだけだ。
良くない事なんだが。
それと綺羅……ベラは登録者数が50万人になっていて、ダンジョン収入も多く、僕はいつも彼女からお小遣いを貰う身だ。
けれど貰った金は使わずに貯めている。
*********
S:おい、ベラちゃんねるのベラちゃんは北川ダンジョンで配信してるみたいだけど、誰もあそこで彼女を見かけたことがないって言うんだ。
T:俺もよくあそこに行くけど、見かけないなぁ。どうしてだろう? 同じ階層狙って行くけど、会ったことないんだよ。
*********
ベラは気配察知ができるので、他の探索者が近づくと綺羅になるか、全く別の人間に化けてしまうのだそうだ。
ベラの大剣は象徴になるので、すぐさま収納し別の武器を身につけるのだとか。
それからPKというのか、同じ探索者を狩る奴もいるそうだ。
ベラがそう言うのに出くわした時は、記憶がなくなるくらいブチのめすのだとか。
僕は綺羅と出かけるとき、どんな所にでも行ける。
何故なら彼女程心強いボディガードはいないからだ。
ベラはダンジョン探索に関しては僕のアバターの役割をするし、現実世界では綺羅としてボディガード
になってくれる。
男の癖にと笑われそうだが、僕の闘争力なんてたかが知れている。
綺羅の力はスペインの暴れ牛でも北海道のヒグマでも黙らせるレベルなのだ。
一度僕たちは街中で10人くらいのチーマーたちに囲まれたことがある。
彼等は釘バットとか鉄パイプを持っていたけれど、綺羅は徒手空拳にてあっという間に全員を制圧した。
彼等の驚いた顔は今でも忘れない。
あるとき両親が日本に帰って来ると言う知らせを受けた。
綺羅はその時以来僕の前から姿を消した。
実際に存在しない妹がいたらおかしいからだ。
けれど、ベラちゃんねるはずっと続いている。
彼女は一体どこで寝起きしているのだろう?
もはや彼女は百万人登録者がいる、有名配信者にして探索者としても一流だ。
もう僕が気楽に話しかけることができる人間じゃなくなっている。
あの平野は2万人フォローワーがいるようになった。
その平野はベラちゃんねるの大ファンだ。
「俺は大剣使いのベラちゃんとコラボするのが夢なんだ」とか言ってる。
やがて僕は高校を卒業して、大学生になり、再び独り暮らしになった。
そのときふらりと綺羅が訪ねて来た。
「お兄ちゃん、また綺羅が来たよ。そしてあるじ、ベラちゃんだよ。また一緒に暮らそう? 大学の勉強も手伝ってあげるからさ」
「うん、ああ。そうしようか」
僕はドアを開いて彼女を招き入れた。
僕はこのままで良いのかな?
全部ベラちゃん頼みで……。
これじゃあ、ぐうたらなヒモ男だよ。
とかなんとかウトウトしていると、急にベラちゃんのピンチの状況が頭に浮かんで来た。
相手は最下層のエンシャントドラゴンだ。
尻尾で叩きのめされて倒れたところを今まさに口から出る咆哮の炎を浴びるところだ。
いけない!
ベラちゃんが危ない。
君には百万人のフォローワーがいる。
皆の期待の星なんだ。
多くの人に勇気を与える存在、
それだったら僕が代わりに死ぬ。
すると僕はあっという間に倒れたベラちゃんの前に立って、古代龍と対峙していた。
「やめろぉぉ!」
「フン、チイサナ羽虫ガナニヲ囀ッテイル?」
古代龍は奈良の大仏のように僕たちを見下ろして、大きな口を開けた。
口の中には灼熱の炎の塊が生じて今まさに……
「くそぉぉ!!」
夢の中で僕は跳び上がり十メートル以上もジャンプして、ドラゴンの下顎にパンチを入れた。
バックンとドラゴンの口が閉じて、同時に口の中の炎が行き場を失って爆発した。
ドラゴンの頭部が飛散して、首のなくなったドラゴンの巨体が地響きを立てて倒れる。
ああ、これって夢なんだな。
「そうです。夢です。また元の場所に戻ってください、あるじ」
ああ、ベラちゃんの声が聞こえる。
では元の場所に……ああ、戻ってる。
まあ、眠いから寝ようっと。
*************
U:あれっ? ベラちゃんがいよいよピンチかと思ったら、急に画面が消えてしまったぞ?
配信が中断したのか?
V:きっとベラちゃん、焼き殺されたんだよ。
W:ドラゴンの高熱の炎なら、一瞬の蒸発だろうな。
苦痛を感じる暇もなかったことが不幸中の幸いか、南無阿弥陀仏。成仏してくれ。
X:あっ、画面が復活した。ドラゴンが倒れている。首がないぞ。なんだ、ベラちゃんピンピンしてるじゃないか。
Y:なあぁんだ。ベラちゃんのいつもの演出だったのかぁ。ひやひやしたよぉ。やっぱ、ベラちゃんは無敵だぜぇ。
**********
(ベラちゃんのひとり言)
あるじ、あなたは私がベランダダンジョンの30階層に辿り付いたときには50階層のラスボスをバーベキュー攻撃で討伐していたのです。
つまり空気より僅かに重い二酸化炭素はゆっくり長い時間をかけて下の階層に沈んで行ったのです。
そして最深部のボスを窒息死させたのです。
そのことを為したあるじには大量の経験値が流れ込んだのですが、通知の天の声が聞こえていなかったので、あるじは自覚していませんでした。
そのときから私との間に20階層分の力の差をつけていたのですよ。
ただあなたは臆病というのか慎重な性格なので、戦闘行為を極力避けていたので、自分の力に気づかなかったのです。
裏町でチーマーたちに絡まれたとき、私は言いました。
「死んだら困るから、あるじはそこでじっとしててください」って。
死んだら困るのはチーマーたちのことです。
あるじは加減を知らないから殺してしまうのです。
あるじがぼんやり立っているとき、彼等は後ろから釘バットや鉄パイプで殴ってましたが、当の本人は気づいてさえいませんでしたね。
ああ、それから私が最初にレベルアップしたときも、こっそり調べたらダンジョン主が一酸化中毒で調子が悪かったようです。
魔族の彼は早めに中毒で死んでいます。その経験値はもちろんあるじのものです。
モンスターの同士討ちで私が経験値を得るなんてどう考えても不自然ですよね。
50階層のラスボスのモンスターは最強で、二酸化炭素の中でも最後まで生きてましたが、他のモンスターは49階層。48階層……と深い階層から順に死んでいきました。
そして私が30階層に到達したときは31階層のモンスターの生存している気配はしていませんでした。そしてそのときになって、やっと50階層のラスボスのモンスターが絶命したのです。
その後も前も私はあなたの従魔ですから私が得た経験値はあなたにも渡ります。
つまり私は決してあなたを越えるステータスになることはないのです。
あなたが高校で授業を受けているときも私は討伐し続けました。
但しレベルアップやスキル獲得の通知たる天の声は勉強の妨げになるので、あるじには聞けないように操作して配慮しました。
それ故、あるじにはレベルアップの自覚がなかったのです。
あるじがときどき無意識に家の中の物を壊してしまった時、私はいつもこっそり修理していました。
それとさきほどの古代龍でしたが、私がやられたふりをするのは演出であって、動画ライブを見ている人をハラハラさせるのが目的なのですが、寝ぼけていたあるじは瞬間移動でやって来て龍を殺してしまいましたね?
あなたは下顎を殴って閉じさせたつもりかもしれませんが、あのパンチで龍の頭蓋骨は粉々にひび割れてしまったのです。
だから炎が爆発して頭部が吹き飛んだのではなく、それ以前に頭部が粉々に粉砕されていたのです。
私だったらあの後大剣で首をズバッと斬り落とす予定だったのですが、あなたは折角の素材を粉々にしてしまいました。
龍の頭部は換金すればかなりの価値になるのですよ。
あなたはスポーツが苦手で、人と競い合うのが性に合わないと言ってますが、それは全く幸いなことです。
下手にスポーツに手を出したら世界記録を大きく上回ってしまうので、やめた方が良いです。
どうか今のままでぐうたらにだらだらとゴロゴロしていてください。
それが一番無難なことなのですから。
この独り言はあるじたる徳成に向けたものだったが、本人がそれを聞くことはなかった。
そして今度こそ……
了
これで本当に終わりです。読んで下さってありがとうございます。




