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ワナビー《出版を賭けたデスゲーム》【B-presents】  作者: ネームレス
プロローグ 

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第6話 シフトチェンジ①

 店長は今日、昼から店に顔をだす予定だ。

 その時間まではまだすこしある。

 俺がここで働こうと思ったときの面接前のようにドキドキしてきた。


 気持ちとは裏腹に冷静な表情で仕事をこなす。

 パンの棚で歯が抜けたように散らばっていたパンを手前に寄せていく。

 商品の何割かに「5%付与」のポイントキャッシュバックシールが貼られた商品がある。

 それが目立つように並べるのも俺の腕の見せ所だ。

 レジで買ったものであれば清算と同時にすぐにポイントとしてキャッシュバックされる。


 すべての人が商品を手前から取っていくわけじゃない。

 むしろ前の商品をかき分けて奥にある商品からとっていく人も多い。

 

 なぜ、そんなことするのか? 理由のひとつは前に並んでいればいるほど人に触られた確率が高いから。

 これにしよう、あっ、やっぱ辞めたが手前に戻される。


 もうひとつの理由は奥にあるほうが消費期限が長いからだ。

 すこしでも長期保存しておきたい人は日付けの長い商品からとっていく。

 生活の知恵といわれればそれまでだけど、できれば前の商品から順番にとっていってもらいたい。

 

 パン類を整頓し終えて、いまは雑誌コーナーからガラス越しに車をながめている。

 もちろん手元でしっかり雑誌を並べ直す。


 駐車場に停まっているは白の軽自動車に赤いSUV、それに大きなトラックと運転席のドアから後部座席のドアまでロゴの入った薬局の社用車。


 いつもの見慣れた光景だけど今日の俺には違って見えた。

 久しぶりに希望がある。

 景色が変わるとはこういことか。

 心の持ちようって大事だな。


 原稿が完成するたびこの小説は誰よりも面白いという自信があった。

 これは誰も書けない自分だけのオリジナルの物語で絶対に誰にも負けない。

 

 応募したレーベルのSNSがつぶやいていると、それは俺の原稿のことを言ってるんじゃないかって妄想までしてしまう。

 誰のことかわからないのに褒められていればそれは俺に対する賛辞だとさえ思えた。

 ……そんな希望はいつも打ち砕かれる。

 結果は一瞬だ。

 ない。ない。ない。


 きっと見落としているに違いないと何度か見直してみても俺の名前も作品名もない。

 四、五回目でやっと気づく、また落ちたんだ、と。

 だが、こんなことじゃ挫けない。

 ヒビの入ったボロボロのメンタルに自分自身で一匙(ひとさじ)の希望を加える。


 もしかしたらサイトを更新してる人がミスしたんじゃないか? なにかの理由で俺の小説だけ記入漏れがおきた。

 明日になればサイトのお知らせに「大変、申し訳ありません。昨日、発表した結果に間違いありました」そんな文言とともに俺の小説は一次選考を突破するはずなんだ。

 

 一日が経過し、二日が経過し、三日、四日。

 察する。

 落ちたと確信した瞬間に自分の存在が否定される。

 俺の取柄は小説を書くしかないのになんのために生きているのかわからなくなる。

 

 作家になれなければなにもない。

 こんなに面白いのにどうして誰もわかってくれないんだ。

 いまはまだ通過点だからと自分を励ましつつ俺が働いているのとは別のコンビニに寄ってアルコール九パーセントのチューハイを数本買う。

 チューハイを買うのはこれで四日連続(・・・・)

 本当は一日目でわかってたんだ。


 この酒は、祝杯ではなく慰めだと。

 いまじゃ、落選にも慣れて数時間もすればいつもの日常に戻れるようになった。

 あの怒りと悔しさを失くしたらだめだと思うけど、心を守るために強くなっていったんだと思う。

 

 駐車場の真向かいの信号のところを右に曲がって家電量販店のところをまっすぐ進む。

 んで耳鼻科のところをそのまま直進。

 いや、ここは一駅だけど電車に乗るか。

 この駐車場の先に俺の夢が叶う場所がある。

 

 「五番。ふたつ」


 白昼夢のなかに現実の声が混ざってきた。

 先輩は昨日と同じようにレジの後ろの「五番」と書かれている棚から群青色のパッケージの煙草をとった。


 「こちらの銘柄でよろしいでしょうか?」


 「はい」


 あの客は、毎日毎日この銘柄の煙草を買っていく。

 いつもいつも同じ。

 俺はやっとこの日常から抜け出せそうだ。

 優秀賞になれないとしても特別賞くらいは欲しい。

 

 あの封筒で呼び出すくらいだ絶対に特別賞を……って、そこまで世の中は甘くないか。

 それでも希望があるから生きていける。

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