第14話 ゲームマスター ブックマン① 【日曜日:Sunday】
大広間にあるアルファベットの右横にある大きなモニターがぶちっと音を立てて点灯した。
その隣のモニターはいまだに「しばらくお待ちください。」が表示されている。
大広間にドラムロールの音が響く。
このライブのような音の鳴りかたからすると天井の四方八方にスピーカーが埋まっているみたいだ。
中央モニターの画面の下から何かが飛び出してきた。
そういう演出なんだろう。
なんだこれ? ひとり? いや、一頭? あるいは一匹? それとも一体? こんなときの単位を俺は知らない。
そのまま一冊でいいのかもしれない。
――お集まりのみなさん。ようこそ、いらっしゃいましたー!
みんな何事かとモニターの前に集まってきた。
それぞれが自然と他人との距離をとりモニターに見入っている。
みやのさんだけは顔の左半分でモニターを見て、右半分でエレベーターのほうを見ていた。
――私は。ゲームマスターの。ブッ~~~~クマンで~~~~す!
俺たちはいま安っぽいVtuberのような何者かに機械音で話かけらている。
本が左右にきっちり開かれた状態のものに目と鼻と口と手足がついている。
小さな子どもが画用紙に書く頭足人の書籍バージョンだ。
書籍そのものを顔と胴体とするなら、そこから左右に手、書籍の下から二本の足が生えているマスコットキャラクター。
ついでにオシャレなのかなんなのか知らないけど赤い蝶ネクタイまでしている。
ただ書籍が顔と胴体だから蝶ネクタイは口の真下にある。
右手にはマイクを持ち黒い革靴を履いている。
ただ俺の知るかぎりこんなキャラは見たことがない。
どうやら他の人も初見のようでこいつはオリジナルキャラクターみたいだ。
自分で自分のことをブックマンと呼んでるんだから、まあ、こいつはブックマンなんだろう。
俺もそう呼ぶしかない。
ここにいる全員がブックマンの一挙手一投足に注目していた。
――さあ、汚名挽回。名誉返上のチャンスです。
「汚名は返上するものであり名誉は挽回するものだ!」
青いツナギの高齢の人。
えっと番号は「004」。
「004」がブックマンに訂正を求めた。
――さすがは作家志望のみなさん。では004さんに三ポイント贈呈いたします。
「004だと。失敬な。私にはちゃんと三木元隆之という名前がある」
――三木元隆之様。大変申し訳ありません。ではここでひとつ皆様にアンケートをとらせていただきます。回答はみなさんがつけておられるスマートウォッチで操作してください。ちなみにこのスマートウォッチにはいくつかの隠し機能があるので探してみてね! 各部屋で初期設定を終えたかた、あるいは設定の途中で中断したかた様々いると思いますが、この機会にぜひともご参加ください。
このスマートウォッチか。
俺は左手首のスマートウォッチを顔の前にかざした。
――では、ここで使用する名前を設定をしたいと思います。まず番号で呼ばれたいかたはAを、ペンネームで呼ばれたいかたはBを、本名で呼ばれたいかたはCをそれぞれのスマートウォッチの画面にてタップしてくださ~い。では、スタート!
ブックマンが饒舌に司会進行をしていくなか”みきもとさん”だけは戸惑っていた。
俺だってここにきてから初めてスマートウォッチを使った。
ふだんの生活でスマートウォッチなんて使わないような”みきもとさん”ならなおさら混乱するだろう。
コンビニの電子マネー決済でも戸惑っているおじいちゃんおばあちゃんは多いし。
あれはチャージさえできていればレジにカードをかざすだけ。
でもその仕組みさえわからない人にはわからない。
なんでもかんでもスマート、スマートっていうのも世の中には優しくないよな。
――おじいさん。わかりますか? 横にいた「003」の眼鏡っ娘が”みきもとさん”
の横に立ってスマートウォッチの操作方法を教えている。
そのまま画面に触れてくださいとか。こうかい。とかそんなやりとりが聞こえてきた。
眼鏡っ娘は年配の人に親切な人みたいで、よかった。
みんなそれぞれで自分のスマートウォッチの画面に触れている。
俺たちは日常的にスマートフォンやATM、レジなんかの液晶パネルに触れていて使うことを避けるほうが難しい。
”みきもとさん”以外はスマートウォッチを簡単に操作している印象だ。
じっさい俺も毎日スマホに触れてなかったらこんな簡単に操作はできなかっただろう。
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【A】番号で呼ばれたいかたは、ここをタップしてください。
【B】ペンネームで呼ばれたかたは、ここをタップしてください。
【C】本名で呼ばれたいかたは、ここをタップしてください。
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俺は別に隠す必要もないから【C】をタップした。
画面が変遷する。
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【諸星健】で登録されています。
よろしければ【はい】 変更したいかたは【いいえ】
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さっき部屋で設定した履歴が残っていた。
俺はそのまま【はい】をタップした。
画面に出てくる質問に答えるため他の人たちもスマートウォッチの操作に夢中になっている。
体感で二、三分ほどが経ったか。
ブックマンがおおげさに自分の口元にマイクを当てた。
――では、結果発表で~~~~す!




