豊と幸子!
幸子は豊の肩に寄りかかりながら熱海駅発、MAO美術館前行きのバスに乗っている
車内は満席、ギュウギュウ寿司詰めだが、世界には2人しかいないような空気感が漂う
幸子「こうしていると、全てが夢のようね…」
豊「ああ…」
豊も、幸子の細くて白い指に触れた
幸子「いいのかしら…奥さんは今ごろ…わたし…」
少し涙ぐむ
豊は、それ以上何も言わないでくれ、と言わんばかりに幸子の唇に人差し指を置いた
豊には家庭がある
妻がいて子供がいて35年ローンの持ち家一戸建てがある(多分千葉の松戸あたり)
しかし、妻以外の女…幸子を愛してしまったのだ
幸子は豊が勤める中よりちょい小さめの会社に、派遣として入ってきた事務の35歳
結婚していないせいか、年齢より若く見える
しかし、黒髪をひとつ結びにして薄化粧で、その整った顔立ちが目立たない損な女…
それが幸子だ
幸子なのに幸薄い、
男が放って置けないタイプ
一方、豊は42歳、これまで妻一筋で真面目に生きてきた
29歳で結婚し、一男一女(現在11歳9歳)に恵まれて、少し無理して34歳の時に戸建てを買った
子供部屋をそれぞれ用意してやれたのが嬉しかった(なぜなら豊は兄弟が多くて、1人の部屋がなかったから)
同い年の妻は年々少しぽっちゃりしておばちゃん化したものの(自分もおじさんになってるしね⭐︎)、
元気でいてくれて、しっかりした良き妻、良き母をやってくれている
豊は現状になんの不満ない、何の不満もないのだ
しかし
豊は出会ってしまった
運命の女性、幸子に
一目見た時から分かった
2人は結ばれる、ということを
それは神のいたずらなのか…出会う順番がちがってしまった、ただそれだけなのだ
豊は自分の罪深さに苦悩している
今、この状況で妻子を捨てるという選択肢は、ない
結婚すると同時に豊の転勤が決まったので、
地方銀行勤めだった妻は退職を余儀なくされ、自身のキャリアを捨てさせてしまった
離婚したとして、なんの資格もなく、長い間離職している妻に再就職は難しいだろう
生活はどうする?
そして2人の可愛い子供達から“両親”という安定を奪うことはできない
つまり、この愛しい愛しい幸子とは結ばれぬ運命…
豊の胸(と下半身)に熱いものが込み上げてくる
幸子に泣かれて、今日は家族には出張と嘘をつき、2人の「思い出作り」のために熱海旅行に来た
この時間が永遠に続けばいいのに…
豊は、幸子の少し濡れたまつ毛をじっと見つめた…
*****
「てな感じかしら⁈」
バスを降りて開口一番、やっすいフリン小説をみんなに聞かせたのは梨乃さん
「やだおっさんの恋とかキモーい、でもぉ、ソレ当たらずとも遠からずぅじゃないかしらぁ」
意外とちゃんと聞いていたのは小町ちゃんだった
半蔵さん、秀治さん、三郎さんはあえてのノーコメント
こちらのおっさん連中は“不倫旅行”が割と憧れのシチュエーション的な話だったせいか、
あちらのおっさんに好意的?な感じである
確かに、幸子さんは
「いかにもちょうどいいお相手」
に見えた
幸薄そうなほどよい美人はどの世代の男子も大好物である(本命以外として)
売れない漫画家さんだけは、愛する小町ちゃんの手前、
「ふふふ不倫なんてけしからんなぁ!
不潔ですなぁ!ボクなら浮気なんて絶対しないけどなぁ!」
と呟いていた
謎のイケおじは、そんな下々の様子を見て「ふっ」と笑って余裕ぶっこいている
モテる立場からはまた違う世界線が見えるのであろう
さてコウレイジャー4人と売れない漫画家さん、こまちちゃん、謎のイケおじ、合計7人は、ゾロゾロとMAO美術館へ足を踏み入れた
最高に盛り上がるのは途中のステンドグラス風天井で、めちゃくちゃ綺麗だから実際行くかググって写真だけでも見てみてね(激推し)
みんなはきゃっきゃと騒いでスマホで写真撮りまくり、特にこまちちゃんは売れない漫画家さんを使ってインスタ用の映え写真を何枚もゲットしていた
豊と幸子も、「一枚だけ、思い出が欲しいの…」という幸子に負けて、2人での写真を撮っていた…のを梨乃さんは見逃さなかった…
しかし
この場面を見逃さなかったのは梨乃さんだけではなかったのだ…!




