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タケノコ林でこんにちは

「おやおやぁ~これはこれは~」

「これは困りましたなぁ~」

「一体全体どうしましょうかねぇ~」


複数の声が下した方から現れたのは隣国の衣装を纏った三人の男達と一人の黒マントの男で


「まったく…本当に面倒な事に…参ったなぁ…」


黒いフードの下はきっと無表情なんだろうなと思わせる声で黒マントの男が呟いたのが耳に届く

三人の男達と言えば頭上にぶら下がっていた花嫁衣裳の女性の姿を一目見て少し驚いた表情の後、すぐにこちらを一瞥してから微妙な苦笑いをしつつもゆっくりと男性達は私の周りを取り囲んでくる


(服の格が高い割には柄が宜しくない奴ばかりだわね)


彼らの関係者と思われる花嫁衣裳の女性の死体を先に見つけていたのが、一介の小娘だった事にホッとしているのか(彼らが身に着けている衣装とは正反対に)品があるとはとてもとても言えない笑顔のままで男達は私の方を見てくる


(さてどう出るかな…口封じかそれとも…)


霧の奥でもう一つあるはずの今なお姿が見えないまま敵意が一切感じられ無い方の気配は敢えて無視しつつも、私を囲んでいる男達が身に着けている衣装と関連がある隣国につきまとう噂を思い出す

その噂を初めて耳にした時は「物騒な話だ」と感想を持ったが、どうにも今回の死体についてその隣国の噂が関係している気がしてならない

何せその隣国の物騒な噂と言うのがやたらと「花嫁」と言うワードが頻繁に上がってくるせいだからだ


(流石の花嫁様だ、おかげで今年の死体はここ10年で一番面倒くさい死体になったわね…)


キナ臭くなってくる雰囲気を無視するように私の脳内ではまるで「ボジョレーヌーヴォーの評価みたいな感想」ばかりが横切っていく

そんな物騒じみた自分の勘が警鐘を頻りに鳴っているけど、私の逃げ場を阻むように囲んできた男達に対して怯える仕草をするつもりは一切ない


(…この態度も他の国の人だししょうがないか)


私を囲む男達は今の私の風体なぞほとんど気にはしていないのだろう

クスクスとやたら余裕ぶった嘲笑が左右と後ろから聞こえてくる


「 … 」

「 … 」


私の真正面に立った事で(朝霧の中でも分かるくらいに)フードの下で眉間にしわを寄せながらマジで「怪訝そう」としか例えられない表情で黙っている黒マントの男の顔を真っすぐに見つめ返す

両隣や背後に立って密やかに笑う男達に対する感想は「柄がよろしくないな」という一点だけだが


(どうも黒マントの人に関しては別の感想を持った方が良いだろうなぁ~)


…と思い始めた辺りで黒マントの男の顔が次第に「怪訝そう」という表情から妙に憂いを帯びたどこか不憫な立場にいる者を見るような表情に変わり真っすぐと私の方を見つめる


(ふぅ~ん…これはどうも()()()()()()()()シフトチェンジしたみたいだわね?)


自分の立ち位置が危険な状況なのは分かっているが、彼らの思惑にこちらとしては素直に乗る気はないので黒マントの男の前でニッコリと微笑みを向ける


「これはちょうど良かったですわ、皆様どうかこの花嫁様のご遺体を降ろすのを手伝って下さらないかしら?私一人ではとても綺麗なお姿のままで降ろせる気がしませんでしたのよ?」


自分にとっての目下の目的を敢えて丁寧な口調で言い切った


「こんなに綺麗な花嫁様ですのにこのままだなんて流石にお可哀想でございましょう?」


周りの人間の思惑など一つも気にしないまるで親切心の塊みたいな雰囲気で自分は話を続けると、周りの男達が纏っていた空気が一瞬揺れたのを感じ取れた


「…死体ですよ?貴女は怖くはないんですか?」


黒マントの男が私に問うてくる


「ええ…私全然怖くはございませんわ、むしろこんな風に誰にも看取られる事も無く見知らぬ土地で客死された花嫁様が只々不憫でしょうがないだけですの、だからこそどうか不憫なこの方のお体を降ろすのを手伝って下さいまし」


見知らぬ花嫁の死体と怪しげな男達を前にしても、なお平素な空気を漂わせ続ける私の姿に目の前の男は驚いたような顔で声をかけてきたが、残念ながら自分はこの手の死体には散々面倒をかけられてきた身の上で、それこそこのまま普通に死体鑑識が出来そうなくらいには慣れてしまっているのだ…なので


「私この手のご遺体にはすっかり慣れておりますのよ、何せここではこんな風に亡くなられる方が度々いらっしゃいますので」


朗らかな口調かつ普段以上の笑顔を大判振舞いしながら(副音声やオートダビングがあったら「毎回この手の死体にはエラい迷惑かけられているんですわぁ~」と表現したいくらいな気持ちを上乗せして)こちらの事情など何も知らない男達に状況を説明すれば、彼らは一様にドン引きした顔で私から半歩下がって間を開ける


「降ろすの手伝って頂けますわよね?(どうせお前さん達の関係者の死体だろぉ?だったらちったぁ真面な仕事しろや?)」


重ねて自分がそう言えば、目の前の黒マントは何かを諦めたかのように黙ったまま片手を上げて、私の周りを固めていた男達の方を眺めつつ


「君達が降ろしなさい」


とはっきりとした声で指示をした…がそれに従ってもらっては私の方は面白くない


「いえいえ見知らぬ方々にそこまでして頂かなくても大丈夫ですわ」


私は笑顔で表情筋を固めたまま左手を上げてそれを制する


「皆様にはこれから落ちてくるご遺体を傷一つなく受け止めて頂きたいだけですのよ」

「え…」


私の言い分を聞いた黒マントは驚いたような声を出しているが、こっちとしては詳しく状況説明してあげる義理は一切無い

自分は竹林の整備用に持ってきていた腰元に引っ掛けてある鉈を右手に持ち


「コレさえあれば私の様な者でもこのような背の高い()が倒せますので」


タイミングよく朝靄の中でギラリと光ってくれた鉈を見て黒マントの男も私から一歩だけ後ずさった


「ほらほら皆様ここで固まっていないであちら側に並んで下さいましね」

「あ…ああ…」


獲物を持ったこちら側から放つマイペースな雰囲気に乗せて、周りを囲んでいた男達を指示された方へと並ばせていく


「それでは!花嫁様が落ちてきたら受け止めて下さいねぇ~♪」


軽やかな掛け声を上げながら自分の頭上に鉈を振り上げてから私は


「せーのっ!」


と生えたばかりで固くなる前のまだまだ柔らかい竹の根本へと鉈を一気に降ろし


ズバンっ!


未だ死体がぶら下がったままの竹を男達の前で一刀両断に叩き切ったのだった


「「「「 ! 」」」」


当然竹になりかけだったタケノコは柔らかいままだから、大降りに鉈を使えば一発で切れてくれる


「「「うわぁぁぁぁ!」」」


竹になりかけつつも未だに水分を大量に含んだ状態のタケノコは、自重と死体の重さに負けるように凄い勢いで男達の方へと倒れていき…


ズシン…


と妙に重い音を立てて竹になりかけていたタケノコはその身を地べたに横たえた


「「「んひぃぃぃぃっ!」」」


その重い音を聞くよりも早くさっきまで私を舐め腐った態度で取り囲んでいた男達は、今にも死にそうな顔で慌てふためきながら


「重量がある()の下敷きにはなりたくない!」


とでも思ったのか、あっと言う間に霧の中へと走って逃げていた


(あららら~)


私の予想以上の速さで逃げ去った男達を見て、その逃げっぷりの鮮やかに思わず私も目を丸くしながら手の内の鉈を腰元のケースに戻す


(さて花嫁様は…)


こちらとしては霧の中へ消えていった男達なんぞに構う予定は一切ないので、とりあえずは…と地面に落ちて行った花嫁姿の死体を探すが、倒れる竹になりかけたタケノコの傍にはさっきまでぶら下がっていた花嫁の死体が見えない


(え…?どこにいったの?)


そう思って霧の中を振り返った時、目の端に見覚えがある場違いに華やかな布地が映った


「淑女の口調と振舞いの割に随分と無茶な事をなさるんですね、貴女は」


と細かい刺繍の目まで見えそうな綺麗な布地の向こう…で、黒マントの男が片手を上げながら私を見ている


「あらぁ…これはまた…凄い」


黒マントと私の間にはさっきまで竹になりかけたタケノコにぶら下がっていた花嫁姿の死体がフワフワと宙に浮いていたのだ

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