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タケノコ林に死体が生える

「今年は死体も生えるのか」


私が住む地域にも初夏が訪れた途端にこれだ


己が頭上の斜め上を見やれば、そこにあるのは一体のご遺体(推定)が今も微かに服の裾を初夏の爽やかな風に揺られながらぶら下がっていた

おそらく今朝方に出来たであろう新しいご遺体の細く可憐なつま先からは時折朝露とアンモニア臭を漂わせる液体がポタリと落ちている


「毎年じゃないとはいえねぇ…これまた面倒事にしかならないわねぇ…」


我が家の敷地で育ったタケノコにぶら下がっている赤の他人の死体を眺めながら、我ながら嫌そうな声で呟いてしまったのはしょうがないと思う


その日私は早朝から家に隣接する竹林に生えるタケノコを刈ろうとしていて、日の出前の青白い薄暗さの中で、朝靄と例えるよりいっそ濃霧と言ってもくらいに視界が良くなかった林の中を鍬を片手に歩いていた

高く伸びた竹の葉の先から朝露が落ちている最中、親指の先ほども地面から出でいない新芽を探しながら足元ばかりを見ていたせいで、通常だったらすぐに気づいたであろう頭の上にぶら下がっていた存在にすら気づくことなく、今の時期にしか採れない我が家の数少ない収入源の一つであるタケノコが地中から小さく顔を出しているのを見つけだし、タケノコは新鮮さが大事、急げ急げとばかりに掘り起こしていたら、自分の顔に一粒の水滴が落ちてきた…が


「臭い…」


妙にその水滴が臭かったのだ

その非常に嗅ぎ覚えがある匂いがどこから来るのかと想像すると同時に嫌な予感も脳裏を過ぎる


(まさか…ね)


己が想像する通りだったら敢えて頭の上を見ないように、私は後ずさりしながら水滴が落ちてきたとされる位置から後ずさりしながら移動して


(ここまで移動すれば…)


と額についたアンモニアの匂いが特徴的な水滴を首に巻いたタオルで拭きながらようやく顔を上げた


「今年は死体も生えるか」


と、ここで冒頭の言葉が私の口から出て来たという訳である


「はぁ…また駐在役人さんに迷惑かけちゃうなぁ」


駐在役人であるアルトゥールさんの困った顔を思い出しながらこれから起きる面倒事を想像すれば勝手に溜め息が漏れ出てくる


「今回はまた随分と豪勢なご遺体だことでまぁ…」


眼前にぶら下がっているご遺体は間違いなくそんじょそこらのごく普通の遺体よりは結構豪華な部類に入るであろうと思う


「今度のは花嫁様ってかぁ…」


何せそのご遺体ときたら今すぐにでも街場の教会で結婚式を挙げられそうな程に宝石が散りばめられた真っ白いご衣裳に身を包まれていたのだから

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