第8話:配達員の秘密
夜の空中商店街、静かな配達所で交わされる“特別な依頼”。
届け先は、高橋家。そして、箱にはまたあのシンボルが――?
「配達員たちは、知らないうちに何かを運んでいるのかもしれない」
浮かび上がる、空中商店街の昔の記録。
このシンボル、一体何を意味しているのか……?
さて、謎はさらに深まるぞ!
夜の空中商店街は、昼間の賑やかさとは違い、どこか幻想的な雰囲気に包まれていた。
ネオンの光がほのかに揺れ、店じまいをする店員たちの姿が見える。
「ふう……今日も忙しかったな」
配達員のたかしは、配達バッグを肩にかけながら、商店街の端にある休憩所へ向かった。
「そろそろ帰るか……」
そう思った時、ふと自分のキャップに刻まれた小さなシンボルが目に入った。
「……やっぱり、最近よく見るよな」
配達用の伝票、注文パネル、そして配送ボックス。
このマークは、いつの間にか街のあちこちに現れるようになっていた。
(このシンボル、一体なんなんだ……?)
たかしは少し考え込んだ。
第一部:深夜の特別配達
「たかし君!」
突然、背後から声がかかった。
「おお、親方!」
そこに立っていたのは、空中商店街の配送責任者であり、ベテラン配達員の親方・佐々木だった。
「ちょっと頼みたいことがあるんだが……特別配達、行ってくれないか?」
「特別配達?」
たかしは驚いた。
「ええ、今夜だけの特別な配送だ」
「でも、もう営業時間は終わりじゃ?」
佐々木はニヤリと笑う。
「だから特別なんだよ」
たかしは戸惑いながらも、佐々木から手渡された黒い箱を見つめた。
(この箱……他の配達と違う……)
箱の隅には、またしても例のシンボルが刻まれていた。
第二部:シンボルの刻まれた箱
たかしは、指定された場所へ向かうため、空中通路を駆け抜けた。
「届け先は……高橋家?」
老夫婦が暮らす高橋家は、昔ながらの注文方法を大切にしている家だった。
特別な配送があるとは、珍しい。
(なんでこの家に……?)
たかしが箱を持って窓をノックすると、中から義一が顔を出した。
「おお、来たか」
「えっ、おじいさん、この配達知ってたんですか?」
「まあな……さあ、入れ」
義一は箱を慎重に受け取ると、そっと室内に運び込んだ。
「実はな、たかし君。このマーク……昔からこの街に伝わる“あるもの”を示しているんだ」
「え……?」
たかしは驚いて義一を見た。
「何か知ってるんですか?」
「さあな……でも、この箱を受け取るのは、決まった家だけなんだ」
たかしはますます混乱した。
「何が入ってるんです?」
「それは……」
義一が箱の蓋をゆっくり開けると、中には古い帳簿と木製の札が入っていた。
「こ、これは?」
「この街の昔の商店街に関する記録だよ」
「記録……?」
「今の空中商店街ができる前、ここには特別な商人たちがいてな。彼らが使っていた“印”が、このシンボルの元になったんじゃないかって話さ」
たかしは息をのんだ。
第三部:配達員だけが知る秘密
「たかし君、お前、このマークを最近よく見るようになったって言ってただろう?」
義一が静かに聞く。
「はい……」
「実は、俺もずっと気になっててな。どうやら、この街で働いてる配達員たちは、何かしらこのマークの影響を受けているらしい」
「影響……?」
「配達用の伝票や帽子、配送センターの古い地図にまで、このマークが入ってるんだよ」
「なんで……?」
「さあな。ただ、昔の商人たちが、この商店街を守るために作った“何か”が、今でも生き続けているのかもしれん」
たかしは、帽子を脱ぎ、そこに刻まれたシンボルを指でなぞった。
「じゃあ、このマークって……」
「俺たち配達員にとって、何か大切な意味を持ってるのかもな」
義一は穏やかに笑った。
深夜、たかしは配達所に戻り、静かに空を見上げた。
(このマーク……もしかしたら、俺たちが気づいていない何かを教えてくれてるのかもしれない)
遠くで空中商店街の明かりが、やさしく揺れていた。
注文パネルの片隅では、シンボルがいつもよりゆっくりと光っていた――。