第2話 雨の日の窓注文
雨の日の注文窓は、いつもとちょっと違う?
便利な「雨の日サービス」にワクワクしつつ、
気になる“謎のシンボル”は、前よりも明るく光っていた。
配達員たちの動き、各家の空中通路、
そして、ささやかれる「空中商店街の秘密」――
さてさて、ちょっと面白くなってきたぞ!
ぽつ、ぽつ、ぽつ……。
健一の家の窓に、小さな雨粒が当たり始めた。
どんよりとした雲が空を覆い、街全体が薄暗い色に包まれている。
「お母さん、今日も雨みたいだね」
みちこは、二階の注文窓から空を見上げた。
屋根の上に広がる空中商店街も、どこかしっとりとした雰囲気を漂わせている。
「こんな日は買い物に行くのが大変だから、注文窓があって助かるわ」
美佐子はそう言いながら、カップに紅茶を注いだ。
「じゃあ、今日の買い物はどうしようかな……」
みちこはパネルを操作しながら、ふと画面の隅に目をやった。
そこには、前回も見た“謎のシンボル”が、いつもより明るく光っていた――。
第一部:雨の日の注文事情
「雨の日サービスのお知らせ!」
注文窓のディスプレイに、そんな表示が出た。
空中商店街では、雨の日は特別に配達が迅速になるサービスを行っているらしい。
「お母さん、雨の日サービスだって!」
「まあ、それはありがたいわね。早く届くなら、温かいスープの材料でも頼みましょうか」
「いいね! あと、パンも!」
みちこはさっそくパネルにスープ用の野菜セットとパンを追加した。
(でも、やっぱりこのシンボルが気になるなぁ……)
画面の隅で明滅するマーク。
前回よりはっきりと点滅している気がする。
何かのサイン? それともただのデザイン?
「まあ、いっか。とりあえず注文!」
みちこはそうつぶやきながら、指で注文ボタンを押した。
第二部:雨の配達員たち
数分後、窓の向こうからバシャバシャと水を弾く足音が聞こえた。
「お待たせしましたー!」
いつもの配達員・たかしが、びしょ濡れのレインコート姿でやってきた。
後ろには、数人の配達員がそれぞれの家へ急いでいるのが見える。
「たかし君、大変そうだね……!」
みちこは驚いた。
「いやあ、雨の日は注文が多いですからね。でも、これがまた楽しいんですよ!」
たかしはにっこり笑って、大きなカゴを肩から下ろした。
「えっ、楽しい?」
「はい、雨の日は各家の空中通路がどう使われるかを見るのも面白いんです。ほら、あそこ!」
たかしが指さしたのは、隣の山田家だった。
山田家の空中通路は、透明なシートで覆われており、雨が入らないようになっていた。
「うわー、すごい! あんな通路があるんだね」
「そうなんです。ほかの家も、それぞれ工夫してますよ。見てください、鈴木家!」
鈴木家の通路は、少し狭いが、両側に手すりがついていて安全そうだった。
そこを配達員が器用に走り抜けていく。
「こんな風に、各家ごとに特色があるんです。だから、雨の日の配達は結構楽しいんですよ」
「へえー!」
みちこは目を輝かせながら、配達員たちの動きを観察した。
第三部:シンボルの異変
「そういえば、みちこちゃん」
たかしが、ふと声をひそめた。
「注文パネルに、ちょっと変わったことありませんでした?」
「え?」
みちこは驚いてたかしを見た。
「なんか、いつもより点滅が強かった気がして……」
「そうなの! 私も気づいた! でも、あのシンボルって何?」
「うーん、実は僕もよく知らないんですよ。でも、配達員の間でもちょっと話題になっていて……」
「えっ?」
「このマーク、最近になって急に目立ち始めたんですよね。前はこんなに光らなかったはずなんです」
みちこは思わずごくりと唾を飲んだ。
「やっぱり、何かのサインなのかな?」
「さあ……。でも、僕たちの間では『空中商店街の秘密』とか言われてて」
「秘密?」
「はい。ほら、この商店街ってずっと昔からあるじゃないですか」
「うん……」
「だから、もしかしたら昔の何かが残ってるのかも……?」
風が吹きつけ、雨粒が窓を叩いた。
空気が少しだけひんやりと感じられた。
「……調べてみる価値、ありそうだね」
みちこは小さく呟いた。
その夜、みちこは布団の中で天井を見つめていた。
(シンボルの秘密……空中商店街の過去……)
頭の中で考えを巡らせるうちに、だんだんとまぶたが重くなっていく。
窓の外では、雨が静かに降り続いていた。
そして、注文パネルの片隅では、シンボルがほのかに光っていた――。