一話 欠けた月の夜に 1-2
少々サブタイトルの方向を変えようと思いました。
今までは一話……の後は何も書かれていなかったと思われますが、今回から上記のサブタイトルのように、『1-2』のように表記させていただきたいと思います。
侵入したのがばれない様に向きを変えていた録画カメラを元に戻し、校舎を囲むように建てられた塀を乗り越えるとようやく緊張感から解き放たれる。
自分が通っている高校とはいえ、夜に無断で侵入したら不法侵入であることには変わり無い。
校舎内に警備員や残っている職員は滅多にいないので、見つかる危険はないが、敷地内から出るときは別だ。人通りが多い場所にこの学校は建っているわけじゃないけど、民家もあるし人の目が全く無い訳じゃない。
「いやー、毎度の事ながら緊張の一瞬ですな」
それは先輩も同じようで、大きく伸びをすると安心したためか欠伸が漏れた。
私は眠くないから欠伸は出ないけど、ちょっとドキドキが無くなって心なしか体が軽い気がする。
「……ありゃ、もう二時じゃないか。流石にもう帰らないと明日遅刻するっちゅーの」
携帯を確認した先輩は屋上の鍵を手渡し、「んじゃ、ばいばーい」と手を振りながら駆けて行ってしまった。
先輩の家は、学校から見ると西側、徒歩で三十分くらい。こんな時間じゃバスも電車も当然ながらないから、先輩の睡眠時間は三時間も無いかもしれない。
それに比べ、私の家は東側で、徒歩で五分かからない。
……何か罪悪感が湧くけど、そんなこと気にしてたらキリが無いから考えない事にしよう。
鞄を担ぎなおし、家に帰ろうと振り返ると――そこには夜空を見上げる一人の少年がいた。
少年……というには大人のような落ち着きと、風貌。だけど、どこか幼さを残した顔立ちが青年と言うよりも少年という枠に当てはめた方がいいような気がした。
黒と銀を基調とした目立つコートを羽織っており、袖から見え隠れする腕は男性としては細すぎて綺麗すぎるようにも思えたが、必要な筋肉はついていて、貧弱そうだという印象は自然と受けることの無い――いわば、完璧な肉体。
それだけでも目を奪われるには十分であったが、少年の持つ白雪のように白い髪。それは人工的に生み出すのは不可能とも思える輝きを放ち、カラーコンタクトでは生み出せない紅蓮の如き赤みを持つ目元。その瞳を隠すように伸びている髪の下には絵画に描かれたかのような女性的な顔立ちが丁寧に整って納められていた。
暫く、私は彼に見とれていた。美しい、綺麗、雅、そんな矮小な言葉では表せない存在を信じられないと思う気持ちだったのだろうか、……いや、多分違う。彼には人を引きつける、見とれさせる何かがあるのだろう。
簡単に説明するならば、今まで見た中でも一番綺麗な人だったと――ただそれだけ。
だから、永遠に彼の容姿を忘れる事はないのだろうと、脳裏に焼きついたから。
だが、その美しさがどこか恐ろしくて、気付かれないように、静かに、その場を後にした。
今回は1-1よりも少々少なめです^^
……分量的に、次の展開を入れてしまうと多すぎだろッΣ と、思われちゃうかなー、と思いまして。
でも、これからは一話よりも少ないように致しますので。