プロローグ 黒衣の騎士団
えー、この小説はある程度残酷な描写を含む予定です。
……正直、予定なので、もしかしたら含まないかも知れませんが、一応注意であります。
漆黒の闇が広がる空の中に広がる、無数の星屑と黄金の輝きを放つ荘厳な満月は一つの芸術作品だ。
そこには意思や法則性など存在せず、自然に、赴くままに黒一色のキャンバスには、選ばれた煌めきを持った星と月以外には相応しくない。
何もかも全てが自由気ままに、宇宙という名のキャンバスには『夜空』という絵が描きあげられた。
黄金比で作り上げられた、一ミリの不確定も許されないこの絵は繊細で、儚いこの絵。
――そして、繊細で美しいものこそ壊れやすいのだ。
満月の端。闇に飲み込まれるように月の一片が欠け、そのまま姿を一気に消し去られた。
欠けた月、『欠月』。
それは妖しい赤い輝きを放ち始め、今宵も一匹の異形の生物を吐き出した。
――美しいこの世界は、一秒一秒止まることなく世界は滅びを迎えようとしているのだ。
「あのさ、姉さん。今さらだけどさ、一つ聞いてもいいかな?」
白髪の少年は、黒のコートに所々に銀色の装飾が施された戦闘衣を羽織ると、椅子に座り赤色の長髪をゴムで結んでいる姉に前置きし、「いいぞ、夜緒。どうした?」と返答されると言いにくそうに口を開いた。
「僕たちのやってる事に意味なんてあるのかな、多分、未来永劫終わりなんて無いと思う……だから、意味すら……ないのかな、って」
戦闘衣の銀色のボタンを留め、白髪の少年――夜緒は悲しそうに目元に皺を寄せてぽつりと言葉を漏らした。その顔には隠しようの無い疲労の影を濃く現わしていて、流れ出てきてしまった弱音を「ごめん。何でもない、忘れて」と力なく訂正した。
――そこから数分間は沈黙が続いた。
壁に掛けられた時計が時刻を刻み続ける音、戦闘衣へと着替える布の擦れる音、扉の先から重く腹の底に響く鈍重な音。
その三つだけがこの空間を支配していて、二人の間には重い沈黙が圧し掛かった。
そして、次第に扉の先から聞こえる重苦しい音が小さくなると、ゆっくりと扉が開かれ、向こう側の世界に広がる夜色の闇がこの部屋に漏れ出してきた。
『――夜緒さん、紫怨さん。到着しました、ご出発を』
部屋の天井に埋め込まれた小型スピーカーから僅かにノイズの混じった若い女性の声が聞こえてきた。
それを合図に夜緒の姉である紫怨は椅子から立ち上がり、開かれた扉の前に立った。夜緒もそれに習い後ろに並ぶ。
「なあ、夜緒」
闇と室内の光が同調し始た所で紫怨が突然口を開いた。
「――終わりなんてない。……のかもしれねえけど――だけど、アタシ等がやってる事に意味がないわけじゃねえ、それは絶対なんだ」
男のような乱暴な言葉。何度も、言葉遣いは丁寧に……と、訂正してきたが今の夜緒にはその乱暴な口調は力強く、ひどく頼れるものに聞こえた。
心のどこかで求めていた答えを姉から貰い、疲れで強張っていた頬が緩んだ。
それと同時に赤い双眸から涙が滲み、頬を伝って地面に雫が零れ落ちる。
涙を流す弟の姿を見て、慰めるように荒々しい手つきで弟の白髪を掻き毟った。
「……それに、意味なんてのはさ、この黒衣を纏った時に見出したんじゃなかったか?」
黒衣、戦闘衣、自らが行く道を選んだ――理由を定めた時に着る『目的』という名の服。
黒衣を纏う者として――『黒衣の騎士団』として戦いに身を投じると決め時から――
「分かったら行くぞ、行く道さえ定まってれば、ただ歩きゃいいだけなんだからな」
今度は優しく、弟の髪を撫でると何か希望を見出したかのよう、死地に向かう戦士とは思えないほど嬉しそうに闇の中に足を向け、飛び込んだ。
「……行く道さえ、か」
もう一度姉の言葉を反芻し、ゆっくりと体にその言葉を染み込ませると、同じように――闇に飛び込んだ。
えー、感想批評などは受け付けております。
もし宜しければ、質問等もお待ちしております。