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なんとかしなくちゃ 1

 次の日、碧玉がまず向かったのは町にある医院だった。


「怪我をしている者がいないかどうか探すがいい」


 三秋はそう言った。


「ちょうどあの子が廟へやってきた日に、手や腕に傷を負った者をだ」


 薄絹を被っている碧玉に気づく者は今日もいない。

 二日目にもなればもう慣れたものだ。臆することなく、堂々とした足取りで医院の中に入り込んだ。患者と医師たちでごった返す院内で、やはり自分に気づく者はいない。


 この医院の医師は人がよく腕もいい。実家にいた頃は自分もよく世話になったものだ。ただし、寄る年波には敵わず、この頃は物忘れが多くなっている。そのために、よく書き付けをするようになった。


 診察室の脇にある棚には、竹簡が積み上げられている。

 その日あった出来事や患者の様子が、日付ごとに分類されている。さすが先生、と碧玉は感心した。こんな几帳面さは見習いたい。


 昔はさっぱり分からなかった文字も、今は簡単な言葉であれば読むことができる。自分の妻であればそのくらいは覚えろと、婚家で夫が厳しく仕込んだからだった。

 あのときはただ苦痛だったが、今はありがたく思う。おかげで神様の用事をこなすことができる。


 あの子供がやってきた日を思い起こしながら、碧玉は竹簡の山を慎重にかき分けていった。


 神様の言いつけが果たしてどんな意味を持つのか、まだ分からない。もしかするとこの先も教えてもらえないかもしれない。けれど、竹簡を探す手を止める気はなかった。


 あの神様は意味のないことはしない。


 もしかするとあの目にはもう、この事件がどういうものか分かっていらっしゃるのかもしれない。とすると今やっていることは、あの子供のためであり碧玉自身のためだ。この事件がなんであるのか、あの方は教えるのではなく気づかせようとしている。


 だとしたら期待に是非応えたい。あの方のように自分の目で物事を見通したい。

 そのためにも、あの方の言いつけを果たさなければ。


 どうか、この中にありますように。


 歳四十。女。腹痛。

 歳二十八。男。歯痛。

 歳七。女童。頭に瘤――。


「……あった」


 やがて、頬に笑みが浮かんだ。


 歳三十七。男。右手に傷。――書きつけには確かにそう書かれていた。

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